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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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竜騎兵(りゅうきへい)

 寛正五年(一四六四年)十一月には、人事上大きな動きが二つあった。

まず、管領が細川勝元かつもとから畠山政長まさながに代わった。勝元は数えで六十五才になっていたが、嫡子ちゃくしがいなかった。勝元の嫡男である細川政元まさもとが生まれるのは二年後である。

三管領の一つである斯波氏の家督は斯波義廉よしかどが継いでいた。しかし、足利義政は、斯波氏の家督を家督争いの相手である斯波義敏よしとしに戻そうとしていた。これを察知した義廉は、最近山名に接近している。この時点で義廉を管領につけることは考えられなかった。

 同じく三管領の家である畠山氏においても、義政は没落している義就よしひろの方を好んでいたが、現在家督を持つ政長は、少なくとも逆らう気配はなかった。政長であれば、勝元の意のままになるであろう、そう勝元は思った。

 政長は嘉吉二年(一四四二年)の生まれであったから、この年、数えで二十三歳である。


 もうひとつの動きは、義尋ぎじん還俗げんぞくした、ということである。義尋は義政の弟である。義政の将軍位退位の意向を受けて還俗することにした。

 十一月二十五日、門跡もんぜきを務めていた浄土寺を出て、細川勝元のやしきに入った。勝元は義尋の後見となる。管領は畠山政長であったが、後見役は、まだ荷が重かった。

 翌十二月に、義尋は還俗し義視よしみと名乗った。




 片田村の上手かみて。小山七郎さんの訓練場から東に行ったところ。

 二十門程の臼砲が並べられ、訓練が行われていた。

 おもしろいことに、臼砲の背後に馬が三列に並んでいる。最前列の馬には人が乗っている。後ろ二列は手綱を杭に繋がれている。

 臼砲が一斉に砲声をあげる。

 後ろ二列の馬たちが、砲声に驚き、暴れる。寒風のなか、馬たちの吐く息が白い。

 最前列の、人が乗っている馬は動かない。この馬たちは、すでに砲声に慣らされている。

 慣れていない馬たちが、前列の馬を見て、驚く必要がないことを学んでいく。数度の射撃で、後ろ二列の馬たちも、落ち着いてくる。

 彼らはさらに、銃声にも慣らされる。目の前で人が銃を撃っても暴れないように、幾度も訓練させられる。

 やがて、銃声にも、火薬の臭いにも慣れることになる。

 馬は、騎馬戦闘にも小荷駄こにだにも使われるが、いずれも砲声や銃声に慣れていなければならない。戦場で馬が暴れ始めてしまえば、大混乱をおこす。砲兵科出身の片田からの指示だった。


 小山七郎さんの将校訓練は、二期目に入っていた。合わせて二万人の兵を統率できる計算だ。

「『じょん』は何をしようとしているんでしょう」犬丸が七郎に尋ねる。

「さあな、片田村や河内の新田を守るだけならば、二万人もいらない。二万といえば、国同士の戦争の規模じゃ」

「そうですよね」

いくさとは、所詮しょせん土地の取り合い、ともいえる。恐らくどこかの土地を狙っておるのじゃろう」

「なんか、らしくないですね」

「わしもそう思う、村長むらおさは国を持ちたいと思っているようにはみえぬ。国を持つ、というのは手段であろう」

「手段ですか。その先に何をやろうとしているんだろう」

「さあな、砲と銃があれば、二万で今までの四万とか六万の兵に匹敵するであろう。もっとかもしれん。なにしろ、敵の矢が届かぬところから攻撃できるのだからな」

「やってみたことがないので、わかりませんが、きっとそうでしょうね」


「そういえば、犬丸殿、百人隊長をやってみぬか」

「どういうことですか」

「わしは考えたんじゃが、弓の攻撃は、百間(百八十メートル)程じゃ。飛ばすだけであれば、もっと飛ぶであろうが実際のいくさで威力があるのはその程度じゃ」

「それに対して、銃であれば二百間先を攻撃できるであろう」

「二百間先のまとにあてるのは、難しいと思いますよ」

「銃を持った兵百人で、二百間先の敵兵集団に向かって撃てば、狙った相手には当たらぬかもしれぬが、全体としては相当の威力であろう」

「なるほど、実戦の場合にはそのように考えるのですね」

「そうじゃ。そこでだ、小銃を扱える者を百名揃え、これに騎馬を与える。これを銃騎兵と呼ぶことにする」

「はい」

「銃騎兵は戦場を高速で移動できる。敵の背後でも側面でも、どこでも行きたいところに行けるであろう。敵の弓が届かず、こちらの銃が届くところで、馬を降り、敵兵集団を攻撃する」

「そこに陣を張る必要はない、各自十発ずつくらいも撃ったら、敵兵が来る前に、再び乗馬して安全なところに退避する。これを繰り返す」

「おもしろそうですね」

 七郎さんが考えた銃騎兵は、西洋では竜騎兵(dragoon)と呼ばれている。

「これを繰り返せば、敵にとっては相当悩ましいであろう」

「その百人隊長をやれ、っていうことですか」

「そうじゃ、犬丸殿」

「なんで、俺なんですか」

「これは、新しい戦い方じゃ。いままでの常識や兵法ひょうほうが通用せぬ。若い犬丸殿の方が、新しい戦い方を試すのに適しておる。わしのような老兵では、いままでの兵法にこだわってしまうであろう」

「犬丸殿は戦場全体と、その動きを見る目があると思うのじゃ。兵棋演習でそれがわかった」


石英丸せきえいまる達に相談しなければいけません」

「それは、そうじゃ」

 これは、おもしろそうだ、犬丸は思った。



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