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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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ガラスを作ろう

「てっーんじょーびっとの、しーろむっすび。殿上人のしろむすびだよ」

『おたき』さんは今日も全開だ。毎日うまの刻(十一時から十三時まで)の二時間程売り子役をやってくれている。


 この時代でも、簡単に材料が手に入り、軽量で、高価で、持続的かつ確実に販売が見込まれるものとして、眼鏡メガネを製造販売しようと考えた。眼鏡のガラスは川底の透明な石英砂せきえいさから出来る。眼鏡のふちは鉄があれば出来る。


 シイタケは生えてくるかどうか、まだ分からない。白米は元々自分が食べたかったから精米機を作っただけだし、いつまで売れるか分からない。もっと確実な手段が欲しかった。

そう言えば越智の殿様からは、定期的に二俵の玄米を担いだ馬を引いた使者が来る。糠が使い切れないほど出来るので、おたきさんに糠袋ぬかぶくろを作って渡したところ、いたく気に入ってくれた。

「ぬっかぶっくろもあるよー」


 慈観寺じかんじの菜園の隅にある。溜池ためいけ跡の粘土を掘り、型に入れて乾燥させ、野焼きの即席煉瓦を作った。

 その煉瓦で水車小屋の隣に小さな炉を作り、水車の動力で、フイゴを動かし、おおよそ千度を超す温度の炉とすることが出来ていた。


 粘土で四角い皿を作り、その上に石英砂を乗せて焼いてみたが。どうやっても石英砂がガラスにならない。ガラスにするためには千五百度が必要だったが、片田の炉ではそこまでの温度が作れなかった。

 片田は高温の温度を測定する温度計を持っていなかったので、簡易温度計を作っていた。

 片田の簡易温度計は、煉瓦に二つのくぼみを作り、そこに銅片と鉄片を置いたものだ。

 銅が融ければ千百度、鉄片は含まれた炭素の量にもよるが、千二百度くらいで融ける。

 片田の炉では銅片は融けるが、鉄片は形が少し丸くなる程度だった。


 ソーダ石灰ガラスならば、千度あれば十分なので片田の炉でもガラスが作れることは知っていたが、原料として、炭酸ナトリウムと炭酸カルシウムが必要だった。炭酸カルシウムは卵の殻などありふれたものが使えるが、炭酸ナトリウムが無かった。炭酸ナトリウムは水に溶けるため、日本のような雨量の多い土地では珍しい。一部の温泉で採取できる程度だ。まず手に入らないだろう、と片田は思っていた。


 仕方がないので、炉の温度を千五百程度に上げなければならない。そのためには

ふいごでもっと空気を送り込んでやるか、放熱を抑えるために炉を改造するか、酸素を手に入れるか。酸素か、うーん。片田は唸った。

眼鏡は本格的な設備が出来るまで保留にした方がいいかもしれない、と片田は思った。次善の案として、片田は紙と鉛筆を作ることを考えていた。そちらを先にするかな。




「これはまた、飯が進むものじゃのう」好胤こういんさんが言った。

好胤さんが言うのは、昆布の佃煮だった。佃煮と言っても醤油が無いので、出汁を取った後の昆布を細切りにして、味噌の中に漬け込んだ物だ。

「最近はちと食べすぎのようだ。あまり旨い物を思い付かんでくれ、食べた後に胸焼けがしていかん」そう言って、脇の手文庫てぶんこから小さな紙袋を取り出して飲んだ。

「それ、薬ですか」片田が尋ねる。

「そうじゃ、朝鮮ちょうせんから渡来とらいした胸焼けの薬じゃ。最近はよく入ってくるようになった」

 この時期は倭寇わこうの中休みの期間であった。朝鮮との貿易が一時期より回復し、木綿や朝鮮人参、さまざまな薬などが輸入されていた。

「その袋、見せてもらってもいいですか」片田はそう言って袋を受け取り、袋の中に残っていた薬を掬い、めてみた。重曹じゅうそうだった。

 炭酸ナトリウムがあった。


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