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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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小銃

 片田村を南から北に向かって流れている川は、村の一番上流、小山七郎の自警団が訓練を行っている広場のところからは、東に上がっていく。川の両側は、かつては林であったが、村で使う材木として伐採され、いまは草原になっている。

 そこには多くの馬が放たれていた。

 川に沿って宇陀に向かう道を、鍛冶丸かじまる、小山七郎、犬丸が登っていく。

 鍛冶丸が手綱を持つ馬は、荷車を曳いている。荷車には、いくつかの桐箱が載せられていた。

「なにを見せようというのじゃ」七郎さんが言う。

いくさに使う道具をいくつか作りました。まだ村人にも秘密ですが、小山さんには、早めに見せておかなければいけない、と『じょん』が言うので、見てもらうことにしました」

「村の中で、秘密でつくれるものなのか」

「はい、『銃』という道具は、部品がいくつかあるのですが、村人達の多くは部品を作っており、最後の組み立ては三人の子供にまかせています。子供は酒を飲まないので、口が堅いです」

「なるほどのう」酒好きの七郎さんがうなった。

「『迫撃砲』と『手榴弾』については、石英丸せきえいまると俺が作りました。なのでまだいくつもありません。いざ戦になったら、多くの者につくってもらおうと思っています」

「『銃』、『迫撃砲』、『手榴弾』、というのか。銃とはどのような漢字じゃ」

 鍛冶丸が説明する。

「それは、斧のかねの部分の、木の柄を入れる穴、という意味ではないか」七郎さんが教養のあるところを見せる。

「さあ、俺は知りません」


「このあたりまで来れば、村に音が聞こえないでしょう」そういって鍛冶丸が馬を止める。

「犬丸、すまないが、三十間程向こうに標的を三本立ててきてくれないか」

「わかった」そういって犬丸が、荷車から四角い木の板を打ち付けた棒を三本担ぎ、走り去った。


 鍛冶丸が荷車から細長い箱を取り出し開ける。

「これが銃です」

「どうやって、使うのじゃ」

 鍛冶丸がもう一つ、四角い箱を開ける。

「これは弾丸というものです。これを遠くに飛ばして、敵兵に当てて倒します。上半分が鉛で、下の金色の部分の中に火薬が入っています」

「銃の、この柄を立てて、手前に引き、ここで柄を寝かします。そうすると引く前に柄があったところに隙間ができます」

「ほう」

「この隙間に弾丸を入れ、柄を前に押して先ほどのように戻し、柄を寝かせます」

 そういって、鍛冶丸は銃を横に傾けた。

「この部分につるのようなものがありますよね。これを引き金といいます」

「うむ」

「これを引くと、銃の中で針が飛び出し、弾丸の尻の部分をたたきます」

「そうすると、火薬が爆発して、鉛玉が前に飛び出すのか」

「そうです、やってみましょう。大きな音がしますから、構えていてください」

 そういって、鍛冶丸が銃を戻し、顔に引き寄せて狙いすまし、三十間先の標的に向かって撃った。

 鍛冶丸の周りに白い煙が膨らむのと同時に標的の板が二つに割れた。

「驚いたもんじゃ、当たりおった。しかも目にもとまらぬほどの速さじゃ」七郎さんが叫ぶ。鍛冶丸が銃の柄を引く。金属が当たるような音がして、空薬莢が飛び出す。

 鍛冶丸は手拭てぬぐいを使って熱せられた薬莢を拾う。

「弾丸の上の部分が無くなっています。そこが飛んで行って標的にあたりました。下の薬莢の部分は銃の中に残りますが、柄を引くと、排出されます。薬莢の底のところを見てください」

「なにか、まるいものがあるのぉ」

「それが雷管らいかんです。銃の中の針が、雷管を叩くと、雷管が爆発して、火薬に火をつけます」

「細かい細工じゃな。戦場で使い物になるかのう。それに毎回弾丸が必要なのだろうが、そんなにいっぱい作れるのか」

「弾丸の耐久性は、訓練の中でためすしかありません。弾丸は、いまでも一日に三万発程つくれます。いま、その十倍作れるだけの機械を準備しています」

「三十万発か、それはすごい」

「敵が肉薄してきたときには、弾丸を詰めている暇はないでしょう。そのような時のために、銃の先に小刀が取り付けられるようになっています」

 そういって鍛冶丸は小刀を取り付ける。

「このようにすれば、短い槍としても使えます」

「そうなるまえに、なんとかしたほうがいいじゃろな。槍隊を前に置き、銃隊が後ろといったところかな」

「『じょん』は、そういったことを考えてもらいたいのだと思います。撃ってみませんか」

 そういって七郎さんに銃を差し出す。七郎さんが受け取り、弾丸をこめる。

「後ろの方を肩に当てて、銃はまっすぐに立てます。斜めにすると弾は標的にあたりません。そうです」

「銃は、撃った途端、反動がありますから、しっかり握っていてください」

「そして、銃の先の方の印と、眼のそばの印、標的を一直線にします。そうして、いつもよりゆっくり息をします。吐いて、吸い切ったところで、引き金を引きます」

 轟音がして、銃が発射される。標的が割れる。

「お、当たったか」

「この程度の距離であれば、練習なしでもあたります」

「ということは、練習すれば、もっと遠くのものに当てることができるのか」

「はい、銃の内側に溝が彫ってあるので、弾丸が真っすぐ飛んでいきます」

「これは恐ろしいもんじゃな。村長むらおさ塹壕ざんごうというものを掘れ、というのがわかったわい。穴に入らねば逃げることができぬ」

「相手方も銃を持っていたら、そうでしょうね」

「恐ろしいが、数がなければ、役に立たぬ。今いくつくらいの銃があるのか」

「二百程作ってあります。必要であれば、もっと作ることができます」

「簡単に増やすことができる、というのだな」

「はい、ただ訓練の時、空薬莢は拾い集めさせてください。薬莢のかねは貴重品です。


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― 新着の感想 ―
[一言] >「はい、ただ訓練の時、空薬莢は拾い集めさせてください。薬莢の金かねは貴重品です。」 心の底から頷く帝国陸海軍兵士&陸海空自衛官
[良い点] 戦国・過去転生もので銃剣を発明するものはなかなかないんですよね。 銃剣は模倣がたやすく、改変が加速していくとどうなるのか作者の力量を超えるからだろうと思っていたのですが、これからどうなるの…
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