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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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被害状況


「で、被害状況はどうなのだ、説明せよ」アラゴン王フェルナンド二世がメディナ=シドニア公の使者に尋ねる。

 王が戦況を聞くのは当然だった。敵の戦い方を知り、次の戦闘で勝利するための参考にする。


「それが、戦死者は一人もおりませぬ。戦傷者が十名程です」

「死者が一人もおらぬのか、それで降伏したのか。城塞司令官アルカイデは何をやっていたのか」

「それが、ひどせきの発作で、生きるか死ぬかの瀬戸際でした」


「どういうことだ、もう少し説明せよ」

「戦傷者については、二名が銃創じゅうそうで、他は火傷やけどです。城塞司令官は煙にやられました」

「火傷とはなんだ」


「はい、彼らは大量の粉塵や煙をく砲弾を使用しております。それを城の中に大量に落とすのだそうです」

「粉塵や煙を、か」

「はい。それで兵達の目、鼻、喉がいたんでしまいました。司令官殿は、特に喉に持病がございましたので、大変苦しんだそうです」

「そのことは知っておる。で、それだけで降伏したのか」

「はい、当初は水を撒くなどして対策していたのですが、次第に刺激の強い、燃えた硫黄などを使い始め、それで火傷した兵が出ました。最後は城の井戸が枯渇こかつして降伏しました。降伏まで四日持ちこたえたそうです」

「煙攻め、というわけだな。なんでそんな面倒な戦い方をするのか、そちは知っておるか」

「城の行政官が、同じようなことを考えて、彼らに聞いてみたそうです」

「何と言っていた」

「それが、なるべく恨まれたくないのだそうです、敵兵を殺せば、恨まれることになる、だそうです」


「ふむ」フェルナンドが、その答えを聞いて沈黙した。


 フェルナンドが考える。カタダ・ショーテンは『ブレスト沖の海戦』でもそうだった。なるべく双方の人的被害を出さないような戦い方をする。


”圧倒的に優勢だから、殺す必要もない“、というわけか。腹立たしい。


 フェルナンドのこれまでの生涯の多くはレコンキスタ、すなわちイベリア半島のイスラム勢力の掃討に費やされている。

彼の妻カスティーリャ女王イサベルと共に、アンダルシア地方の各地に転戦していた。

しかし、『ムーア城』に行ったという記録は残されていないそうだ。


 なぜならば、ジブラルタルは一四六二年にカスティーリャ王国により奪回されていたからだ。二人が即位するより前のことだ。

そして、一四九二年にレコンキスタが完了したあとは、フェルナンドの関心はナポリ王国に移っていた。


なので、『ムーア城』がどのような城か知らない。


 ただ、ジブラルタルは大西洋と地中海を繋ぐ海峡に面した場所だった。当時まだ海軍という考え方は希薄だったが、要衝ようしょうであることは間違いない。

 それと、もう一つ、カタダ・ショーテンがジブラルタルを橋頭保きょうとうほにして、スペイン本土に陸軍部隊を展開することも考えられる。


「で、ジブラルタルを占領した敵は、その後なんらかの動きがあるのか」

「はい、公爵がジブラルタルと本土を繋ぐ砂丘まで兵を出して、彼らが内陸に入らないように封鎖いたしました」

「うむ」

「そして、城に向けて防護柵を設け始めましたところ、背後の東側砂丘に多数の小舟で漕ぎ寄せ、背後から公爵の兵を襲う構えを見せたのです」

「そして、どうなった」

「公爵は、しかたがないので兵をアンダルシアまでひきあげました」

「そうか、ということはジブラルタルと本土を繋ぐ首の部分に執着しているということだな」

「はい、そのようです」


 現在『ラ・リネア・デ・ラ・コンセプション』という町があるあたりのことを言っている。シドニア公が、現在の空港あたりまで兵を寄せて来たところ、コンセプションの町の東海岸に上陸してきたということだ。


 これは、つまり、内陸に進軍するために、シドニア公の軍を排除しよう、といううことに他ならない。アラゴン王が考えた。


“現在、フランス侵攻のためにカタルーニャに寄せている軍の一部を、ジブラルタルに向けるしかあるまい”


『ラ・リネア・デ・ラ・コンセプション』という長い名前なのだが、もちろん地元の住民は、こんな名前で呼ばない。『リャニートス』と呼ぶそうだ。『平坦な土地の者』という意味だ。

 ここはジブラルタルと本土を繋ぐ砂の地峡だったので、平坦だった。そこから来ているのだろう。


 この名前自体が、この土地の重要性を表している。


La Linea 線、防衛線、築城線

De la Concepcion 聖母マリアの無原罪むげんざい御宿おんやど


 ジブラルタルは『スペイン継承戦争』中の一七〇四年に、イングランドなどの連合軍によって占領され、一七一三年のユトレヒト条約でイングランドの領土になった。


 海軍国であるイングランドからみると海上交通の要衝である。しかし、内陸まで踏み込んでいってスペイン国土を奪おう、とまでは思わない。

 そうは言っても、スペインの側からしてみればいつイングランドが攻めて来るか不安だった。


 そこでスペインはここに防衛線を築城した。現在のエヘルシト通りのあたりだろう。東の端に聖バルバラ要塞の廃墟が残っている。聖バルバラは雷や火薬、砲兵の守護聖人なので、要塞や砲台の名前によく使われる。


 そして、古地図を見ると、城壁の外(南側)に多数の歩哨ほしょう小屋(sentry box)がジグザグに並んでいる。

 まるで『三十八度線』のようである。


 この築城線に『無原罪の御宿り』という名前が付けられたのは、スペインでマリア様があつく信仰されていたからだ。スペイン艦の名前などにもよく出てくる。


『無原罪の聖母の加護のもと、異端であるイギリスを食い止める防衛線』


 といったところだろう。


 スペインから見たらジブラルタルは橋頭保きょうとうほとしての脅威だった。


 しかし、片田達は、そう考えてはいない。彼らの軍に内陸まで攻め込んでいく力はない。


あくまでも、いつでも内陸に攻め込んでいけるぞ、という『陽動ようどう作戦』として、コンセプション東側の海岸に上陸した。こうすれば、アラゴン王フェルナンドはジブラルタルに軍を割かざるを得ないだろう。


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