弾着観測 (だんちゃく かんそく)
焼夷迫撃砲弾の『水平撃ち』で、『バルチナ門』広場と、『旧市街』地区につながる傾斜路の確保ができた。
これで現市街と『港』地区の行き来ができるようになった。
すでに午前十時頃だ。依然として濃霧で真っ白だったが、霧が明るくなってきている。
「『ムーア城』の塔が、霧の中から頭を出した」ジブラルタル湾に停泊している観測機から、『金剛』に無線連絡が来る。
「銀丸、離陸して着弾観測を始めてくれ」『金剛』の片田順が言った。
「わかったよ。『ひばり』、離陸だ」
『ひばり』がチョークを引いて、セルを回す。エンジンがかかった。おだやかな海面に白い航跡を曳いて離水する。左旋回し、ジブラルタル・ロックに向かって高度を上げる。
機体の後ろから見て、プロペラが右回転をしているので、左旋回の方が容易だからだ。
二百メートルまで上昇し、南から北へ、霧の上に浮かぶ『ムーア城』の塔をかすめる航路を取った。
確かに、城の塔が見える。
「『ムーア』上の塔を上空から確認した。その下の『カスバ』地区まで霧が晴れている。着弾観測が可能だ」銀丸が報告する。
「あれ、なにかしら」『ひばり』が右下を見て言った。
「どこだ」
「前に城壁が延びているでしょう。正面に小さな塔がある。その少し手前」
「あ、あれは兵士だな、八人いるぞ。なんで城の外にいるんだろう」
「城と市街の間の門は日本が確保したっていっていたわよね」
「ああ、そうだ。日本兵かな」
話しているうちに『ムーア城』に観測機が接近する。観測機の二枚の主翼は、いずれも操縦席より上にあるので下方の視界が広い。
「服装が違うみたい」
「ってことは、スペイン兵か」
「そうでしょうね」
「あれ、塔の山側に回って、中に入っていくみたいだぞ。塔があるだけじゃなく、山側に出入口があるみたいだ」
「それ、報告しておいた方がいいんじゃない」『ひばり』が言った。
「そうだな。市街にいる兵が夜襲にあうかもしれない」
銀丸が『金剛』に『搦手門』の存在を報告する。
「実は一時間程前、市街で小競り合いがあった。十人ほどのスペイン兵が街路に出てきたんだ」片田順が言った。
「たぶん、その兵だね」
「そうかもしれない。出入口がわかったというのは、ありがたい」
「『ムーア城天守』と『カスバ』地区は、もう霧から頭を出しているよ。着弾観測が可能だ」
「では、試射を始めよう。『金剛』から始める」片田がそういって、無線を上甲板の観測員に引き継いだ。
そして、砲艦四隻に迫撃砲の陸揚げを指示した。支配下に置いた『港』地区に中迫撃砲を上陸させ、霧が晴れたら、そこから直接観測によって『ムーア城』を攻撃できる。
銀丸が見ていると、濃霧の塊から、黒くて小さな点が飛び出してきて、弧を描いて岩山に落ちていく。山の尾根付近にぶつかって小さな煙が上がる。榴弾ではないようだ。
「左寄せ、七百、奥、三百」銀丸が無線に向かって言った。弾着が、目標より右に七百メートル、向こう側に三百メートルズレているということだ。
この弾着観測の報告があれば、『金剛』が濃霧のなかにいても、目標に迫撃砲弾を命中させることができる。
観測機が『ムーア城』の上空を左旋回し続ける。弾着が近づいていき、ついに『ムーア城』内に着弾するようになった。
一度に十数発の黒点が上がって来て、次々にムーア城天守の周囲に落ちた。
「今の発射、夾叉。上手、上手」
『夾叉』とは複数の砲弾が敵を挟むように弾着することを言う。
『ムーア城』の『カスバ地区』。
着弾した迫撃砲弾は、破裂することは、したのだが、爆発と言うほどではなかった。破片も鉄ではなくて、ボール紙だった。
破片が当たっても、痛いと思うくらいだ。ただ、大量の灰色の微粉末が飛び散って、あたりを霞ませる。
スペイン兵が咳込み、目から涙が出る。
ボール紙の弾頭の中に入っていたのは少量の火薬と草木灰だった。草木灰は肥料として使われるので大量に製造されている。
刺激の少ない催涙弾のようなものだ。




