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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2

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水樽 (みずだる)

 スペイン兵の小隊長が教会の塔から降りて来る。司祭に礼を言って、藪の中に残してきた兵の所に戻る。


「アルケブス一射いっしゃ半ほど南下する」小隊長が言った。九人の兵はそれだけで理解する。

威力いりょく偵察をするということだ。


『アルケブス』とは彼らの持っている火縄銃のことだ。有効射程は時代にもよるが、八十から百メートル程だった。有効射程内で撃てば敵兵に当たる可能性がある。ジブラルタル守備隊の用語で『有効射程』を『一射』と呼んだ。


『最大射程』という言葉もある。これは小銃を撃って、弾が届く距離だ。狙って当たる可能性はほとんどない。これを『二射』と呼んだ。


『一射半』はその間くらい、という意味だ。百五十メートルくらいの意味になる。当たる可能性のあまりない距離で、とにかく射撃して反応を見てみよう、ということだ。




 スペイン兵小隊が市街と岩山の間を移動し、現在の『ジョージズ・レーン』のあたりで再び街路に出る。

 石出いしでの藤次郎が指揮する『第一軍』は、濃霧のため教会周辺に集まっている。スペイン小隊との間は、濃霧に遮られている。


視程は、百メートルほどだったが、霧は濃くなったり、薄くなったりする。通路のいたるところにある水樽や荷車を街路に出してバリケードを築く。

この距離ならば、火縄銃の弾丸はバリケードを突き抜けることはできない。


 霧が一時的に薄らいだ。教会の前に立つ敵兵が見えた。この距離だと、相手が立っている、座っているなどが判別できる。


「撃て」スペイン人小隊長が低く叫ぶ。九発の銃声が鳴った。敵兵が一斉に地面に伏せるのが見えた。いったん腹ばいになったあと、左右に分かれて建物の影に入る。


 スペイン兵がバリケードの陰で銃を立て、銃口から火薬と銃弾を詰める。いくつもの発砲音が襲い掛かってくる。ほとんどひっきりなしだ。


 火縄銃の準備が出来た。スペイン人小隊長が再度射撃を命じる。


 小隊長が考える。敵兵はこちらの三十倍の人数がいるので、ひっきりなしに発砲してくるのは当然なのかもしれない。しかしそれでもこの発射数は尋常ではない。

 彼が遠くの敵兵に目を凝らす。


 相手は、小銃を立てるという作業をしていない。どうやって、『弾込め』をしているのだろう。

 藤次郎達の小銃は『元込もとごめ』式のボルトアクションライフルなのだから、銃口から弾を込める必要はない。しかしスペイン人はそんなものを見たことがない。


 次いで、一人の敵兵に注目した。

 あの兵は、矢継ぎ早に撃ってくる。

 もし、『びょう』という言葉を知っていたとしたら、『五秒から十秒に一発、撃って来るではないか』と言ったことだろう。

『数歩、歩くあいだに』あるいは『一呼吸する間に一発撃ってきた』などと表現したかもしれない。

 どうやったら、あんなに速く撃てるのか。


 さらに驚かされたことがあった。


彼の左で、部下の兵がしゃがんで『弾込め』をしていた。彼は遮蔽物しゃへいぶつの水樽の背後で作業をしていた。にもかかわらず、その兵が被弾して倒れたのだ。

敵の銃弾が樽を貫いていた。水樽に切り裂くようなあなが開き、水がこぼれ落ちている。

“敵の銃弾は『一射半』の距離で水樽を貫くことができるのか”、すさまじい威力だ。我々の火縄銃などとは比較にならない。

 さらに向こうで荷車を遮蔽物にしていた兵が倒れる。荷車の床も打ち砕かれていた。


「引くぞ、敵の弾は樽を打ち砕く」小隊長が言った。

「負傷兵はどうしますか」

「市街民に預けよう。ここは危険だ、すぐに撤退だ」

 残った八名のスペイン兵が路地に入り、岩山を目指して退いていった。


 彼らは『ムーア城』に戻り、以下の報告をすることになる。

・約三百名の敵兵が、『港』地区とは別に、市街に駐留している。

・ほぼ全員が銃を持っている。

・彼らの銃は信じられないほどの短時間で再発射することができる。

・彼らの銃弾の威力は、我々の銃弾よりはるかに強力で遮蔽物を貫く。


 一方、片田商店『第一軍』のほうは、『ムーア城』には『バルチナ門』以外にも兵が出入りする搦手からめて門があることを知った。そこからスペイン兵が市街に来ることができる。

ただ、その門の位置がわからない。


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