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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
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 現在人間が家畜としているウマの祖先は、アメリカ大陸で進化したものだという。

 ウマ科ウマ属にはウマ、ロバ、シマウマという三つのグループがある。これらの祖先がアメリカ大陸だという意味だ。


 なぜそんなことがわかるのか、というとウマが進化した過程の化石が北アメリカ大陸でのみ出土されるからなのだそうだ。


約5500万年前   エオヒップス    キツネ大の小型獣、四本指

約4000万年前   メソヒップス    やや大型化して、肩高60センチ

約2000万年前   メリキップス    臼歯が発達

 約500万年前   ヒッパリオン    足の指三本、内、使用するのは第3指のみ


 これらの化石が、いずれも北アメリカでのみ出土する。そしてヒッパリオンの頃にベーリング地峡を渡ってアジアに来たとされる。


 ヒッパリオン自体はウマ属全体の直接の先祖ではないらしいが、その近縁種がウマ属の祖先になった。


 同じウマ属といっても、気質が異なるらしい。ロバは早くから家畜化されている。性質は慎重で警戒心が強い。ウマは社会性があるので、多頭曳き馬車のようなことができる。

 シマウマは気質が荒く、いまだに家畜化に成功していないそうだ。


 以上のように、ウマの起源は北アメリカ大陸とのことだが、おもしろいことにその後北米大陸ではウマが絶滅してしまう。理由はよくわかっていない。


 西部劇というと、アメリカ・インディアンが多数の騎馬で疾走する場面を想像するが、ヨーロッパ人がアメリカ大陸に到達したとき、現地の人々はウマを知らなかった。


 それなのに、西部劇では、なぜインディアンが騎馬で颯爽さっそうと走っているのか。


それには、一六八〇年の、ある事件が関係している。


『プエブロの反乱』という事件だ。プエブロとは現在のニューメキシコ州あたりに住んでいたアメリカ・インディアンの共同体の名前だ。

 プエブロ族は農耕民族だった。トウモロコシやカボチャなどを栽培して暮らしていた。

 一方で、周囲に住むアパッチ族やコマンチ族は狩猟採集民族で、生活が不安定だった。

 食料が不足する年には、彼らがプエブロ族の農作物を奪うということもあって、両者は敵対してきた。


 スペイン人が入植してきたとき、彼らはプエブロ族を保護するという名目を持つことができた。彼らは秘密兵器であるウマと銃を持っていたからだ。

 スペイン人はこれらをインディアンに与えなかった。


 ところが十七世紀後半は、『小氷期』でも特に寒冷化が強まった時期だった。ロンドンではテムズ川が凍結し、オランダでスケート文化が花開く。


 このとき、周辺の狩猟採集民がプエブロ族の農産物を求めて押し寄せた。現在のニューメキシコ州サンタフェに入植していたスペイン人はアパッチと戦闘状態になる。

 スペイン人は町から出て、戦場に行っていた。


 そのとき、サンタフェのスペイン人総督が、現地人の呪術師を死刑にするという事件が起きる。これにプエブロ人が猛反発して暴動を起こした。

 スペイン人は南のエル・パソなどに避難していったが、このとき大量のウマを残すことになった。


 アメリカ・インディアンがウマを手に入れる。

 以来、ウマが北アメリカ大陸で飼育・繁殖され、インディアンの強力な兵器となる。

 ここまでは史実だ。




 この物語では、北米大陸への馬の上陸は、もう少し早い。

 犬丸達がアラブの馬を持ち込んだ。


 犬丸達は、ヨーロッパ人が北米大陸に来るのは、時間の問題であることを知っている。それまでの間に、現地の人々をヨーロッパ人と共存できるまでにしておかなければならないと考えていた。

 天然痘てんねんとうの予防接種も、その一環だった。


 教育が必要だった。すでに初等教育、中等教育を各地で始めている。


それ以外にも、警察や民兵などの組織も作らなければならない。特に中米から北米の大西洋岸が急がれる。


 小銃を持たせて射撃をさせてみる。これは慣れれば出来るようだった。

 彼らの小銃は火縄銃ではなく、ボルトアクション・ライフルだった。専用の小銃弾がなければ、鉄の棒に過ぎない。

 小銃弾の管理を徹底すれば、銃器を提供しても、大きな問題にはならないだろう。犬丸はそう考えていた。


 次に塹壕ざんごう戦をやらせてみたが、これはだめだった。

 塹壕に潜ませた現地人に向けて騎馬隊を殺到させると、彼らは逃げ出した。どうも恐怖を押さえるということが、まだできないようだ。

 歩兵は、しばらくは無理か、犬丸が思う。


 さらに、馬に乗せてみた。これはうまくいく。彼らは器用に乗り回すことができた。

 それだけではなかった。

 疾走する馬の上から射撃を行うことができた。


 犬丸も若い時に騎兵隊を率いてきたので、腕には自信がある。それでも走る馬から射撃をすることはなかった。

 それを、簡単にやってのける。もちろん正確に命中させることなど出来ないが、走りながら射撃ができるというだけでも、軍という多数と多数のぶつかり合いでは有用だった。


 加えて、これはまったく期待していなかったことだが、索敵や偵察をやらせると、抜群に上手に仕事をこなした。

 中米のマヤやアステカは文字を持っていたが、北米大陸のアメリカ・インディアンは文字を持っていなかった。

 彼らが持っていたのは、数詞や簡単な記号程度だった。

 そのためであろうか、記憶力と表現力が優れていた。


 まる一日の探索行をさせ、途中で見たものを帰って来て報告させると、実に正確に報告した。


「これはすごいな」犬丸が思わず、唸った。


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