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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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石炭

 片田は、硫安の樽に若狭屋五郎が張り付けた紙を読んでみた。


一、硫安散布の一月前に草木灰を散布して、くわで耕すこと

一、発芽したら、決められた量を散布すること

一、伸び盛りの時に決められた量を散布すること

一、量を守ること、硫安を増やしすぎると虫が湧く

一、葉の色が黄色くなってきたら、追加散布すること


 一番目から三番目までは、片田の指示だったが、四番目と五番目は五郎が自分で試して追加したものらしい。なかなかやるな、と片田は思った。


 その五郎が店に駆け込んでくる。

「あ、片田さん。すごいですよ。幕府が天龍寺に朝鮮の勘合票を出したそうです」

 天龍寺は、京の西方、嵯峨の地にある寺である。南朝方の離宮であったところを、足利尊氏たかうじが、後醍醐天皇を弔うために、寺にしたものだ。足利幕府としては、おろそかにできない寺である。

 その天龍寺は、片田がこの時代に来る二年ほど前に火災にあって消失していた。その再建費用を得るために、貿易船の出航を許可したのであった。

 天龍寺船というと、歴史的には百年ほど前、尊氏がげんの国に送ったものが有名だが、今回は朝鮮に送るらしい。

「それは、すごい」片田が答える。

「大内の船の連中が話していたんでさ。朝鮮への送り荷の多くはシイタケと硫安になりますよ。村のほうで、どんどん作ってください」

 朝鮮に行くには、大内氏など瀬戸内で水運を行っている船主の船を借りなければならないので、大内氏にもさっそく話が入ったのだろう。

「伝えよう。ところで、五郎。二日程空けられないか」

「空けられますけど、なにか」

「うん、ちょっと同行してもらいたいところがあるんだ。芦屋津あしやづから川を上ったあたりにいきたい」

「いいですよ。なにがあるんですか」

「石炭という燃える石だ。燃料に使えるが、それ以外にも硫安の原料にもなる」

「硫安の原料って、そんなものだったんですか。みんな不思議がってましたよ、なにから作るんだろうって」

「そうなんだ、いままで地元の住民に採取を依頼していたが、硫安が売れるようになったので、間に合わなくなった。それに、今まで片田村で作っていたが、主に博多から朝鮮、琉球に売っているのだから、博多の近くで作りたい」

「なるほど、それはその方がいいですね」

「それで、博多に会社を二つ作りたい。石炭を採取する会社と、硫安を作る会社だ」

「会社ってなんですか」

「何人かが集まって仕事をして、銭をもうける所のことだ」

「商店みたいなもんですね」

「うん、名前は商店でもいい」




 翌日、片田と五郎は博多から芦屋津に行く船を捕まえて便乗させてもらった。芦屋津で上陸し、川沿いを上流に向かって歩いて行った。矢木の市の鉛屋から教えてもらっていた村につく。

「芦屋津の鋳物師に、燃える石を売っている人を知らないか」片田が村人に尋ねる。

「うん、そりゃあ、伊田いたの吾作達のことだろう」そういって吾作の家を教えてくれた。


「燃える石って、おまえさん、なにもんじゃ」吾作という男が言った。

「私は片田といいます。燃える石を買っているものです」

「片田って、大和の片田かぃ」

「そうです」

「いつもお前さんが買ってくれとるのか。芦屋津の鋳物師が突然やってきて、燃える石を買いたいというもんがおるとといいはじめた。なんでも大和の片田という男が欲しがっているという。こんなもの買うやつがいるのか、と思いながら俵に詰めて送ったら、銭をわたされた」

「そうです、いつも私が買っていたのです」

「そうかぁ。ずいぶんと銭を使ったろう」

 燃える石は、どこから採ってきたのか教えてほしいと尋ねる。

「燃える石か、そこいらの山に行けばいくらでもある」吾作という男は言って、家の南にある小山に連れて行ってくれた。

「ほれ、これがそうだ」そういって、鍬の先で地面を削った。表土の下から黒い石が出てくる。

「これが石炭ですか」五郎が片田に尋ねる。

「そうだ」

「それで、お前さまがたは、どうしてここにきた。自分たちで掘ろうというのか」

「そうです。でも安心してください。吾作さんたちからも、いままでどおり買いますから」

「そうか、それならばいいのじゃが」

「もっと、たくさん必要になったのです。吾作さんたちが送ってくれる分だけでは足らなくなりました。それで自分たちも掘ろうということになりました」

 そう言って、吾作と別れた。


「ここの、東の山、西の低い尾根、さらに、その先の山々。そのあたりにたくさん石炭があるはずなんだ」片田が五郎に言った。

「しかし、山は近所の村の共有地になっていると思いますよ」

「そうだ、でもそれは村から近いところだけだ。利用していないところであれば、掘ることができる」

 片田は、大和川上流の採鉄場跡を思い出して、言った。

「山歩きが得意な猟師でも雇って、そういったところを探させてほしい」

「それと、硫安の会社の方は、採掘場所と、ここを流れる川の間のどこかに作りたい。 二町(百メートル×二百メートル)程必要だ。これをお前に頼みたい」

「採掘場所と硫安会社の土地が手に入ったら、私の方から、建設のための技術者を送る」


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