青空実験室
風力揚水機一号機「フウとイヌマル号」は『とび』の村の最も高いところに置かれた。慈観寺と、『とび』の村の間に渡された橋の所である。
村人が見守る中、運転を開始する。初めは、手で釜蓋を回し、水を出して見せる。
「風の無い時には、こうやって水を出してください」片田は言う。そして、縄を風車側に繋ぎ変えた。
「風がある時は、このようにすると、手要らずで水が汲めます」
そういって片田が手を放す。風車の動きによって、水が溢れ出てくる。
「こりゃあ、いい。一日中勝手に水を汲んでくれるじゃないか」村人が言った。
「様子を見てみないといかんが、この調子なら十本も要らんかもしれん」他の者が言う。
「あと、ありあわせの物で作っているので、時々動かなくなると思います。その時は『ふう』が修理します」
「『ふう』が、かぁ」
「『ふう』に出来るんか」
皆が『ふう』の方を見る。『ふう』は得意そうに頷いた。
村から次の二台を作成してほしいという注文が来る。片田は、『ふう』以外の子二名を手伝いに出すように言った。今度は二台同時に作ることにした。それと、揚水機を修理できる子供を増やしたい。
村から茸丸と石英丸という二人の男の子が来た。茸丸は『ふう』と同世代、石英丸は少し年長のようだった。茸丸はやはり子守を兼ねるということで、『えのき』という犬丸と同い年ぐらいの女の子を連れていた。
『ふう』と犬丸も、手伝うと言って来た。
片田は寺仕事の合間にスクリューと風車の模型を作っておいた。スクリューの模型は長さ二メートル程で、内部の螺旋状の羽は、ねじりの回数を変えた物をそれぞれ三種類作った。1メートル当たり1回、2回、4回ねじってあった。 風車の模型は直径五十センチメートルほどの物を作った。
『ふう』と茸丸がスクリューの模型で水を汲み上げて、思うことを話し合っていた。
石英丸は風車の模型に取り付き、羽代わりのムシロの向きを変えたり、小さなムシロを取り付けたりしていたが、やがてちょっと家に行ってくると言って走り去った。
『ふう』と茸丸の会話が激しくなった。簡単に言うと、『ふう』がパワー派で、茸丸がバランス派だった。
「ひねりの数が少ない方がいい。一回りでたくさん汲み上げられる」『ふう』が言う。
「でもそれだと風が弱い時には、風車が止まってしまう。ひねりの数が多ければ、弱い風でも風車は回る」と茸丸が説明する。
「すくりゅうーの、水に漬ける側の台の所に小竹を切った回る輪を付ければ回りやすくなる」『ふう』が主張する。ベアリングの考えをさらりと思いついたようだ。
石英丸が何かを抱えて戻ってきた。古くなった麻布だった。石英丸は風車からムシロを取って、代わりに麻布を取り付けた。
「やっぱりそうだ」石英丸が言った。
「なにが、やっぱりなんだ」片田が尋ねた。
「風車は、軽い方がよく回る。もっと軽くした方がいい。だからムシロを麻布に替えよう」続けて「それと力が一杯掛かるのは風車の真ん中のところだ。縁の方と、軸の竹はもっと細くてもいいかも」
「弱くなって壊れやすくならないか」片田が聞いてみる。
「少しくらい弱くなっても、『ふう』が直せばいい」ふうが割り込んでくる。
「『ふう』と茸丸は何していた」石英丸が尋ねる。
二人はそれぞれの主張を石英丸に説明した。
「なるべく風で回したいから、ひねりのことは茸丸の方が良さそうだ。でも回る輪を付ける『ふう』の考えもいいと思う」
改良方針が決まった。犬丸は『えのき』を手下にして、枯れ草や流木を集めに行くことにした。




