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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
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サイラス

「一番船『えじぷと丸』に発信、船団の指揮を預ける、『衣笠きぬがさ』は『りびあ丸』の救助を行う。要船長返信で発信せよ」村上雅房まさふさが無線室への伝声管に叫ぶ。

 要船長返信とは、船長自身が無線機で直接返信せよとの指示だ。『りびあ丸』のようなことになってはいけない。


「さて、どうしたもんか」


村上雅房が航海長に言った。『りびあ丸』はどんどん減速している。いくらもしないうちに停船するだろう。ポルトガルのガレー船が『衣笠』と『りびあ丸』を目指して集まって来る。


「向こうに連絡艇をやり、錨索びょうさくを渡す時間はなさそうですな」航海長が言う。

「そのようだな」村上雅房が向かって来るガレー船を見ながら答えた。


「では、全員退船させて『りびあ丸』を沈めますか」航海長が言った。舷側板をつかむ拳が強張こわばっている。だれだって、そんなことはしたくない。しかしポルトガルに蒸気機関スチーム・エンジンを渡すわけにもいかなかった。


 雅房が迷っていると、無線室から伝令が信号紙を持って艦尾楼かんびろうに上がって来た。

「『りびあ丸』からです。自船はボイラーが破損した。修復困難なため、全員退船を行う。『衣笠』は救助されたい。です」

「全員退船用意のみしろ、と返信せよ。退船の実行はこちらの指示を待て」

「了解です。それから、『えじぷと丸』の船長が無線機で待機しています。無線室に降りて来てください」


 雅房が『要船長返信』を指示したことを思い出す。

「そうか、航海長、ちょっといってくる。すぐに戻るが、それまで本艦の指揮を預ける」

 そう言って、雅房が無線室に降りて行った。


 雅房が艦尾楼から上甲板に降りると、そこにベンヤミンとサイラスがいた。なにか相談している。その脇を通って雅房が無線室に入る。



 村上艦長が出てくるまで、少し時間がかかった。オルダニー島に事情を説明していたからだ。

 無線室から出てくると、ベンヤミンとサイラスが立っていた。


「なんだ」

「艦長に相談がある」ベンヤミンが言った

「いま、忙しいのだが」

「いまの状態に関係あることだよ」

「そうか、では言え」

「『りびあ丸』を牽引して逃げなければいけないんだろう」

「そうだ、出来なければ『りびあ丸』を沈めなければならん」

「『せん魚雷』を使ったら、どうだろう」

「試験的に二本ずつ載せている、あれのことか」

「そうだよ」

「お前たちは銛魚雷を使ったことがあるのか」

「サイラスは魚雷担当に任命されている。一度だけ、オルダニー島で練習したことがある。その時はまとの岩礁に命中した」

「兄さん、無理だよ」


 村上雅房が二人の後ろに立つ甲板長の方を見る。

「たしかに、魚雷を本艦に搭載したとき、俺がサイラスを魚雷担当に任命した」

 


 村上雅房が少し考え、そして右舷を見る。現在『衣笠』は停止中の『りびあ丸』の周りを旋回している。セウタから出て来たガレー船の群れは風下側なので、櫂漕かいそうで接近してくる。彼らにすれば、捕獲ほかく予定点より風上に二隻が止まってしまったので、余計に櫂走しなければならないことになる。


 反対側を見た。タンジールからのガレー船団だ。こちらは風上側にいるので、帆走で接近してきている。

 雅房が到着までの時間を思慮した。


「魚雷は二種類二本ずつ搭載してきている」雅房が二人に言った。

「知ってるよ、上甲板に置いてあるのだから」そういってサイラスが魚雷の方を見る。

「まず、通常魚雷を一本降ろしてみよう。それをサイラスが無線操縦してみるんだ」雅房が言った。

「操縦してどうするんですか」サイラスが答える。

「艦を最寄りのガレー船に接近させるから、ポルトガル船のどれかに当ててみろ」

「向こうの船の人、死なないかな」

「大丈夫だ。かじだけを破壊するように、火薬は少量にしてある」

「それならいいけど」


「そして、ポルトガル船にうまく当たるようであれば、『りびあ丸』の所に戻って、銛魚雷を使おう。そして『りびあ丸』を牽引してジェルバ島に行く。銛魚雷は二本ある。自信を持ってやってみるんだ」雅房がはげます。


「わかった、やってみるよ」サイラスが言った。


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