村の自治
たくさん誤字報告ありがとうございます。
あまりの誤字の多さにへこたれそうです。
特に455●●●様、るびの範囲を指定する縦棒を教えてくださり、
ありがとうございます。こんな機能があったのですね。
片田順は、片田村にいる。石英丸達に来てほしいと頼まれたのだった。
「石英丸が悪いんじゃないよ、忙しすぎるんだ。石英丸は、よく飢饉の間を乗り切ったと思うよ」茸丸が言った。
「そうだよ、もう一人では無理なんだよ」犬丸も言う。
「そういってくれると、助かる」石英丸が言った。
石英丸達はなんとか飢饉を乗り切ったが、様々なことを後回しにしてきたつけが表面化していた。
食堂など、いくつかの建物は雨漏りがするようになっていた。道は轍が深くなり、通行が不便になっていた。いたるところ雑草が生え放題だった。
「では、石英丸の仕事を手分けするしかないな」片田が言う。
「そうね、石英丸のやっていることを表にしてみましょう」『いと』が言って、筆をとる。
「けっこう、あるわね」いとが言う。
かれらは、石英丸の仕事を分類した。財務、医療、教育、交通、保安、給食等々である。
「このなかで、一番きついのは、なに」『あや』が言った。
「きついの、か。体力的にはそれほどでもないけど、金の問題が一番気をつかうかな」
「じゃあ、それ、私がやるわ」あやが立候補した。
「お、えらいなぁ」鍛冶丸が言う。
「なにいってるの、財布の紐握っているのが、いちばん強いのよ」あやが答えた。
「みんな、あやが財務担当でいいかな」石英丸がみんなの意見を聞く。異論はなかった。
「だったら、わたしが教育担当をやろうかな」いとが言う。
「いとは、子供に教えるの上手だからな」これも異論がなかった。
「医療に関しては、法華寺から来た茜丸がいいだろう」片田が言う。茜丸を知らない者が多かったが、ふうが、茜丸なら大丈夫だといったので、片田が本人に打診することにした。
「ふうは土木交通だろうな」
「それは、ふうしかいないな」これもすんなりと決まった。
産業分野では、茸丸が継続してシイタケ製造を担当する。眼鏡に代わって売れ筋になりつつある硫安は鍛冶丸が兼務する。鍛冶丸は眼鏡や硫安が好きというわけではないが、それらを作る機械が好きだった。
村民食堂の経営は、『きび』という娘がいいだろう、と石英丸が推薦した。
「きびは経営が出来ると思う、飢饉のあいだの食堂の業務を助けてもらっていた」
石英丸が言うんであれば大丈夫だろうということになった。
「それぞれは、石英丸から、自分の担当の部分のやり方を教えてもらうんだ。そしてそれを書き留めておくことが大事だ」片田が言った。彼らが書き留めたものが、この村の法律の基になっていくことを片田は理解していた。
「やり方を変えたり、新しいことを始めるときには、石英丸に相談することだ。とくに重要なことを決める時には、みんなで集まって相談して決めるように」
「それと保安については、難しい。しばらく石英丸が続けてくれないか」
石英丸はこれまで自検断を進めていた。十市遠清はそれを認めていた。自検断とは、村の中で起こった問題について、領主に頼らず、村内で判断して解決するというものだ。片田も、いずれ村が警察権、自衛権をもたなければならないと思っていたが、まだどのようにしたらいいのか決めかねていた。
「だいたいきまったな」自分が仕切ったかのように犬丸が言って、皿の煎餅をかじった。
この煎餅は、飢饉の二年間片田村の主食だった雑穀せんべいではない。米の餅を薄く延ばし、火であぶって固く焼き、醤油を付けたものだ。彼らは菓子として食べているが、野戦食や保存食にもなる。今年の秋、米が豊作だったので、大量に作っていた。
片田は、この煎餅を嶽山城で籠城する畠山義就に売っていた。義就からは、いいものを作ってくれたという感状とともに、大量の注文が来た。もっと安くしろ、とも言ってきた。
煎餅のようなものは、昔からあった。塩を混ぜて兵糧とすることもしていたと思われる。片田達の煎餅は、醤油をつけることにより香ばしくなっているところが新しかった。重量が軽いのも輸送に便利だった。
片田村で大量に製造し、樽に詰めて、越智家栄に送った。家栄は、自領から和泉山脈を越えて義就に送っていた。
「だいたい決まったな、じゃないわよ、犬丸。あんた何するのよ」ふうが言った。
「え、俺」
「そうよ、もう十七になったんでしょ」
「え、ええと、ええと、何しましょう」犬丸が石英丸の方を向く。
「そうだなぁ。残った仕事で、手のかかるものといえば、自警団かな。あれは時間を取られる」石英丸が言う。
「じゃあ、犬丸、それをやりなさいよ」ふう、あやが言う。
「自警団かぁ。まあいいか。それやるよ」




