レンヌ、そして城
「それについては、借用書を入手したときに説明する」ポルトガルのキリスト騎士団に所属する騎士、ベレンガーリオ・サウネイロが言った。
「入手したときにって、その借用書、南フランス、ラングドック地方のレンヌ・リ・シャステルってところにあるんじゃないのか」シンガが言った。
「ああ、そのことについては、まだ話していなかったな」
「聞いていないよ」
「レンヌ・リ・シャステルについては、もう探している」
「出て来たか」ジロラモ・サヴォナローラが尋ねる。
「いや、借用書は出てこなかった。代わりに金塊が出て来た」
「金塊がでてきたのか、すごいね」と、シンガ
「おそらく、目くらましじゃろう。この文書を書いた男の実行力には恐れ入る。おかげでわしは、このように仕事もせずに宝探しが出来る」
「で、ラングドックのレンヌ・リ・シャステルがだめだったのはわかったけど、どうして反対側の北フランスに来たの」
「それは、最後の二つの文を読めば、わかる」
Rennes li Chastel
1 et 2 3
「これが、どうしたの」
「この行は鍵ではないかと思ったのだが」片田が言った。
「鍵か、わしも最初はそう思った。しかし、もっと簡単だった。もし、目当てのところで、借用書が見つかれば、じゃが」
「なんと読んだ」ジロラモ・サヴォナローラが好奇心から言った。
「上の行には三つの語がある」
「Rennes et li Chastel、って読むのか」シンガが叫んだ。
「そうじゃ、レンヌ・リ・シャステルではなく、『レンヌとリ・シャステル』または『レンヌそしてリ・シャステル』だ」
「シャステルは、城という意味だよね」
「そうだ、そして、レンヌとは、南フランスの村ではなく、フランス北西部、ブルターニュ地方の都市、『レンヌ』のことだ」
「『レンヌの城』とも読めるということだね」
「そうだ、だがレンヌの城といっても、たくさんある」
「そうでしょうね」
「わしは、この文書を書いた男が、船で移動したと仮定した。フランス全土で騎士団狩りをしていたのだから、船が最も安全な移動法じゃ」
「海岸沿いの城、ということだな」
「シェルブールか、サン・マロか、そのあたりか」ジロラモが言う。
「最初はそのあたりだと思ったが、そこには国王の兵がいる」
「そうじゃろな」
「ここには、『レンヌそして城』とある。レンヌの近くだ」
「ではどこだ」
「一番ありそうなのは、モン・サン=ミシェルじゃないかと思う」ベレンガーリオが言う。
「モン・サン=ミシェルか、なるほど。ベネディクト会の修道院じゃが、戦時には城としても使う」
モン・サン=ミシェルはノルマンディとブルターニュの境界に位置し、百年戦争の際には要塞化され、フランス側の重要なの拠点となった。
「しかし、フランスは他のカトリック国よりも王の力が強い。騎士団員が逃げて来たとして、助けるじゃろうか」ジロラモが言う。
「そのとおりだ。面と向かって王に逆らうことはしないだろうが、密かに匿うくらいのことはするじゃろ。修道院には中世以来の『聖域権(droit d’asile)』が認められていた」
聖域権とは、修道院が持つ『亡命者や罪人を庇護する権利』のことである。
「それに、騎士団創設者のユーグ・ド・バイヤン達を擁護し、教皇に騎士団設立を推薦したのは、シトー会の『聖ベルナルドゥス』じゃったろう。シトー会はベネディクト会の分派じゃ」
「なるほど、一時的に避難する、というだけならよい場所じゃな」
「で、そのモン・サン=ミシェルとかいうところに、フランス王の借用書が保存されていると思うのか」片田が尋ねる。
「あるとしたら、そこじゃ。この羊皮紙の男は保管を依頼したに違いない。王の借用書を持参してフランスを歩いていたら、とんでもない目にあうであろう」
「で、それが二百年後の今も残っていると思うのか。テンプル騎士団は消滅したのだから、ただの紙だぞ」
「おぬしの国ではどうだか知らんが、坊主というものは古い物でもよくとっておくものじゃ」
片田がなるほど、と納得する。
「で、何を望んでいる」片田がもう一度尋ねた。
「わしを、モン・サン=ミシェルに連れて行ってくれぬか」ベレンガーリオが言った。
「我々の艦をフランスの岸に寄せることはできないが、近くまで寄せ、そこから小舟でフランスに上陸させることは出来る」
「それでもよい。頼む」
「しかし、協力するためには目的を聞いておかなければならない。フランス国王の借用書を何に使う」片田が言った。
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