モレーの時祷書 (モレー の じとうしょ)
中世のカトリック教徒は、一日の一定の時刻に祈りを捧げることになっていた。その時に唱える言葉も決まっていた。すべてのカトリック教徒がこれを守っていたかどうか、それはわからない。しかし、ある程度の地位にある者は、守っていただろう。
祈りの時に唱える言葉や詩を、携帯できるようにまとめた書物が時祷書である。
ポルトガル人ベレンガーリオ・サウネイロが、テンプル騎士団総長ジャック・ド・モレーの時祷書だと主張する本は、このような体裁になっていた。
表紙は木の板を芯にして、革で装丁されており、角を金具で補強している。勝手に開かないように金属の留め具が付けられていた。開いてみると、用紙は羊皮紙を使っていて、手書きの装飾的な文字が目に入る。
特に節の始まりの頭文字は大きく書かれ、周囲に植物や動物の装飾がほどこされていて、見事なものだった。
ページによっては、一面すべてが聖母子や受胎告知の聖画で飾られている。
「テンプル騎士団の時祷書には、たいがい『隠し』というものがある。例えばこのジャック・ド・モレーの時祷書ならば、ここじゃ」ベレンガーリオが時祷書を持ち、裏表紙四隅の金具を指さした。
「この二つの金具を横にずらす。そうすると、裏表紙の一番外側を補強している銅の金属板をずらすことができる」
そういって、裏表紙の手が触れる部分を覆うコの字型の細い金属板をずらす。裏表紙の板が二枚に割れ、中に羊皮紙のメモが入っていた。
「本当だ、人に知られずになにか送る時に便利だね」シンガが言った。
「そのとおりじゃ」
「で、そのメモは、ジャック・ド・モレーの直筆のメモなのか」ジロラモ・サヴォナローラが尋ねる。
「いや、それは違う。筆跡がまるで異なる。あまり教養のない者の書き方じゃ」
「なんと書いてある」
「いま、広げる」そういって、ベレンガーリオが羊皮紙をつまんで開き、皆に見せた。
or dit li Belli
Dieu rotibil
tu or bileid
Roi debilut
Rennes li Chastel
1 et 2 3
「なんですか、これは」シンガが言った。
「さあな、フランス語なのかもしれんぞ」と、ベレンガーリオ
「フランス語だと思って読んでみましょうか」シンガが返す。
「最初の行は、『そこでベリが言った』でしょうか、ベリってなんですか」
「ラテン語の『美しい人』という意味だ」
「美しい人が言った、ですか」
「次はと、先頭が大文字なので、『神は焼かれた』ですかね。roti は『焼かれた』の意味だから。ちょっと不自然だけどね」
「テンプル騎士の火刑のことを言っているのだろうかのぅ」ジロラモが言う。
「で、三行目はさっぱりだなぁ。 tu or は『あなたは今』と読めるけど、bileidがさっぱりわからない」
「で、四行目は Roi が大文字だから、きっと王様だね。『王様は衰えた』だ」
「次はどうじゃ」
「レンヌ・リ・シャステル、こういうお城か、地名なのかな」
「それは、地名じゃ。フランス南部ラングドック地方の村のことじゃ、当時はテンプル騎士団の管区に含まれていたと言われている」
「最後は、まったく分からないね『1と2,3』だけだよ」
「結局、こんな感じかな」と、シンガが言った。
美しい人が言った
神は焼かれた
あなたはいま bileid
王様は衰えた
レンヌ・リ・シャステル
1と2,3
「そんなもんじゃろうな。わしもそう読んだ。おぬし、異国の若者なのにたいしたもんじゃな」とベレンガーリオが言った。
「そうでもないけど」シンガが照れる。
「で、これが何を意味するのか、ベレンガーリオ殿は知っているのですか」片田が尋ねる。
「たぶん、分かると思う。それこそが、わしがこの島に来た目的だ」
レンヌ・リ・シャステルは中世フランス語の表記だだ。現代ならば、Rennes-le-Château になる。レンヌ=ル=シャトーのことだ。
レンヌ・リ・シャステルとレンヌ=ル=シャトーの違いについて
例えば、モン・サン=ミシェルという有名な観光地があります。『聖ミシェルの山』という意味です。フランス語では『Mont Saint-Michel』と綴ります。
外国語を日本語に置きなおすことを翻字といいます。
翻字のルールとして、単語と単語の間は・とします。
モンとサンの間は・です。これは、『聖ミシェル』と『山』という別の単語の境目だからです。
サンとミシェルは、『聖なる』と『ミシェル』と別の単語と見ることも出来ますが、通常は『聖ミシェル』という複合語として読み、フランス語でも『Saint-Michel』と綴ります。
この場合には日本語では=に翻字するというきまりがあるのだそうです。
なお、サンフランシスコは、同じように聖フランシスコのことですが、アメリカ人は『San Francisco』と綴ります。
厳密に書くと『サン・フランシスコ』なのでしょうが、なぜかサンフランシスコと書くのが慣例になっているようです。
本文では、複合語どうか、シンガ達にはわかっていないので・で区切りました。
ここまで、知らんで適当に書いていました。以後気をつけます。