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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
559/610

威力偵察 (いりょく ていさつ)


 リベイラ宮殿の小会議室。大きな長方形のテーブルを白いリネンのクロスが覆っている。その上に載せられているのは、第六回インド遠征艦隊のものと考えられる三枚の旗だ。


「第六回艦隊の旗と見て、間違いなさそうですな」財務顧問のペドロ・デ・カストロが言った。

「うむ。十字軍旗にローマ数字を入れるようになったのは、第二回航海からだ。これはアルベルガリアの旗であろう」カブラルが同意する。

「わしが、進言したのじゃ。インドに行くのは、ただの貿易ではない。聖戦である、と」ディオゴ・デ・ソウサ司教が言った。


「アルベルガリアの艦隊が壊滅した、ということについては、一同同意のようであるな」ポルトガル国王マヌエル一世が話をまとめた。


「一隻くらいは、帰ってくるかもしれませんな」ヴァスコ・ダ・ガマが言葉を添える。

「そうであってくれると、何が起きたかわかるのであるが」これはマヌエル王。


「本当にそうだ。いったい何があったんだ」ドァルテ・デ・メネゼス宮廷侍従長じじゅうちょう相槌あいづちを打つ。


「いま分かっているのは、アルブケルケの報告だけだ。アルブケルケ、繰り返してくれ」マヌエル王が言った。

「ヴァスコ・ダ・ガマ殿の第四回艦隊が現地に残してきた閉塞艦隊のうち、四隻がカタダ艦隊にやられたとのことです。わたしも『また聞き』なので、詳細なことはわかりませんが、海上を高速で走る小舟に火薬を乗せ、当方の舵を狙い撃ち、動きを奪うとのことでした」


「なるほど、その対策を練るには、当たってみるしかない。実際この目で見ないことには対策がたてられまい」ヴァスコが言った。

「当たってみる、とはどういうことか」マヌエル王がヴァスコに尋ねる。


「この、カタダ国とやらは、イングランドと交易をしておりますな」

「カタダ国ではない、カタダ商会というらしい。国ではなく商会カーサだということだ。国王はいない」マヌエル王がジョアン・フェヘイロから仕入れた知識を披露する。

「そうなのですか」

「うむ」

「なのに、なぜ軍艦を持っているのでしょう」

「我々の『インド商会カーサ・デ・インディア』のようなものであろう」

「なるほど、ではそのカタダ商会ですが、イングランドの島を拠点にして同国と商売をしております」

「オルダニー島じゃ」

「そうです、おそらくそこに軍艦を持ってきているでしょう」

「持ってきているであろうな」

「その軍艦に当たってみるのです」ヴァスコが言う。

「確かに、それであれば、彼らがどのような戦い方をするか、知ることができる」


「アルメイダ殿、春の遠征に持っていく艦隊はいかほどですか」ヴァスコが尋ねる。

「ナウが十一隻、カラベル六隻、その他四隻、二十一隻を予定している」第七次インド遠征艦隊の司令官に決まっているフランシスコ・デ・アルメイダが答えた。

「その艦隊から、ナウ級二隻、カラベル級二隻ほど抜き出して、オルダニー島のカタダ商会に当たらせるのです。本格的に戦闘をする必要はありません。接近して、必要ならば数発発射して、追い風に乗って逃げてくるのです」


「しかし、ただでさえ、何が起きているかわからないのに、ナウ二隻を置いていくのか」アルメイダが卓上の旗を見ながら、渋る。


「そうでしょうね。アルベルガリアの艦隊はナウ九隻、カラベル四隻の十三隻の編成でした。それでも、おそらくやられてしまった。一隻でも多く連れていきたいのは理解できます」ヴァスコが言う。

「であろう」次の艦隊の司令、アルメイダが言う。


「そこで、私は提案したいと考えます」ヴァスコ・ダ・ガマが国王の方を向いて言った。


「なんじゃ、言ってみよ」

「オルダニー島のカタダに当たってみるのを、風が良くなる晩春に行うこととするとします」

「まあ、わが国からイングランドに行くのであれば、晩春以降というのは適切だ」

「そして、カタダが保有する艦隊の能力を試す」

「それで」

「カタダの戦い方を知ったあとに、アルメイダ殿の第七次インド遠征隊を出発させるのです」

「夏以降に出発するというのか、それではアフリカ東海岸で無駄に足止めになるであろう」

「それが私の提案です。第七次艦隊はインドではなく東アフリカ海岸に行き、そこで要塞を建設して足場を固めるのです」

「どういうことだ」

「第五次の艦隊までの報告を見ますと、カタダ艦はアフリカ東海岸に現れてはいません」

「たしかに、マリンディからソファラまでのアフリカ海岸にカタダが来たという報告はないな」

 片田の船団は、マラバール海岸を出発して、マダガスカル島の東側を抜けて喜望峰に到るルートを採用しているので、アフリカ東海岸には現れない。


 ヴァスコ・ダ・ガマは慎重な男だった。彼の航海記録を見ても、むやみに急ぎ過ぎず、一歩ずつ前進している。それだから、喜望峰を越える新航路開拓に成功したのだろう。


「マリンディは友好的で、象牙を産出します。モンパサ、キルワは敵対的ですので、これを制圧します。モザンビケ、ソファラも反抗するのであれば同様にします。ソファラは内陸のジンバブエからの金が得られます。そしてこれらの港に要塞を建設して、防備を固めます」ヴァスコが説明する。


「そして、カタダが襲来したときには、船を入港させ、要塞から攻撃するというわけだな」アルメイダが叫ぶ。

「そうです」ヴァスコが頷く。


「このようにしたら、いかがでしょう」ヴァスコが王の方を向いて言った。


「艦隊をいままでどおりマラバール海岸に向かわせるよりは、成算がありそうであるな」マヌエル王が言った。


「はい、仰せのとおりです」


 ヴァスコ・ダ・ガマが提案した、『当たってみる』という方法を、威力いりょく偵察という。偵察は本来秘密裡に敵情を探ることをいうが、どの程度の戦力なのか、どのような戦い方をするのか、士気はどうか、など当たってみなければわからないこともある。

 そういった時に使われるのが威力偵察だ。

 本格的戦闘をするつもりはないが、すこし攻撃してみて、相手の出方を探る。


 現代においても空軍や海軍は、平時にこのような『つばぜり合い』をしている。中国やロシアの艦艇、戦闘機が日本の排他的経済水域内や領空にやってくるのは、ただ威嚇いかくしているだけではなく、日本の自衛隊の能力を探るという意味も持つ。

 自衛隊の固定レーダーの高度毎の到達距離はどれくらいか、探知されて何分で自衛隊の迎撃戦闘機が、どれほどの高度まで上がって来るか、哨戒機しょうかいきの性能はどれほどか、などを調べ、いったん有事の際の参考にする。


 ヴァスコの提案した方法が、採用された。



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― 新着の感想 ―
>九隻、カラベル四隻の十四隻の どこか数字が間違ってるかと思います
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