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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
551/610

数表 (すうひょう)

『ふう』と『ならべ』が紙テープの読み合わせを終える。まずOSに相当するモニターの紙テープを読ませる。軽快な音をたてて、あっという間に読み込んだ。あっけないほどだ。

 そして、テレタイプが『.』と印字する。これをプロンプトという。命令を受け入れる準備が出来ている、という意味だ。

 次いで、FOCALというプログラミング言語を読み込ませる。『ならべ』が紙テープを差し替えて、パチンと音をたてて、テープ・ガードを閉じる。

『ふう』が下のようにタイプして、リターンキーを押す。先頭のピリオドは、モニターが印字したプロンプトだ。


.R R


 先頭のR はRun の略で、『実行せよ』という意味だ。二番目のRはReaderの略で、紙テープリーダーを意味する。

 つまり、紙テープリーダーからプログラムを読み込め、という命令だ。これも素早く読み込まれた。


.R FOCAL


とすると、プロンプトが『*』に変わる。


*


「やった、FOCAL が起動した」二人が、声をあわせて叫ぶ。


「少し、試してみようか」『ふう』がそういって、動作確認のプログラムを打ち込んだ。


01.10 FOR T=1.0, 1.0, 5.0; DO 2.0

01.20 QUIT

02.10 LET X = 2.0 * T

02.20 TYPE “T=”, T, “ , 2T=”, X !


 最後の『! 』は、改行せよ、という意味だ。これをいれないと、プログラム最後の行の後ろに、計算結果が印字されてしまう。

「間違っていないかしら」『ふう』が言った。

「大丈夫そうですね」と、『ならべ』

「じゃあ、いくわよ」


*G


と、タイプしてリターンキーを押す。Goの略だ。とたんにテレタイプがガチャガチャ鳴る。


T= 1.0 , 2T= 2.0

T= 2.0 , 2T= 4.0

T= 3.0 , 2T= 6.0

T= 4.0 , 2T= 8.0

T= 5.0 , 2T= 10.0


そして、止まった。

「おぉ、計算できていますね」『ならべ』が、うっとりとした様子で言った。

「そうね、すごいことだわ」『ふう』も言う。

 この瞬間、二人は全能感に満たされていた。――この機械があれば、何だってできる。


その昔、今から四十年前の一九八〇年代。当時のパソコン少年達が、MSX規格のパソコンを手に入れた時、同じように思った。




 電子計算機が手に入った。やらなければならないことは、無数にあったが、まず最優先は常用対数表の作成だった。対数表があれば、掛け算、割り算を足し算、引き算に変換して処理できる。


 log(A×B) = log(A)+log(B) , log(A÷B)= log(A) – log(B) 


 と言う関係があるからだ。


例えば 123×456 という計算を考える。これは筆算でもできるが、対数表があれば、以下のように簡単な足し算にすることができる。


1.log(123)とlog(456)を対数表で探す。それぞれ 2.0899 と 2.65896 になる。

2.二つを足す。 4.7489 になる

3.逆対数表 で 4.7489 にあたるところを見る。56088だ。これは 123 × 456 に等しい。たしかに、三桁の掛け算をするより簡単だ。


 天文学、航海、工学、測量、軍事などあらゆる部分で計算が必要だった。概算だったら計算尺が使えたが、もうすこし精度の高い計算を行う場合には、常用対数表が必要だった。

 なので、コンピュータの使い道の筆頭は、この対数表の作成だった。


 史上、対数表を発明したのはスコットランドのジョン・ネイピア(1550~1617)である。彼は二十年を費やして、七桁の対数表を作成した。フランスの十九世紀の学者、ラプラスは「対数は天文学者の寿命を二倍にした」と称賛している。

 ラプラスはラプラシアンという演算子で有名な数学者、物理学者、天文学者だ。

 対数表は、日本でも丸善まるぜんが出版していた。しかし、関数電卓やパソコンの普及で歴史的使命を終えている。


 常用対数表の次は、三角関数表だった。世界中を航海する船舶が急増している。位置天文計算の需要があった。片田が未来から持ってきた理科年表の付録に一度単位、五桁の簡易三角関数表がついていたが、もっと精度の高い物が必要だ。

 さらに、正規分布表をはじめとした、統計数値表も優先度が高かった。


 誰でもがコンピュータを使えるわけではないので、まずこれらの数表の整備がなされることになる。


 次に優先されるのは、これから始まるであろう海戦のための兵站へいたん計画と生産計画だった。


 そのあとにも、鍛冶丸かじまる石英丸せきえいまるが、計算機の完成を前提とした諸実験データの解析が待っている。

 例えば、鍛冶丸は、さまざまな温度、気圧、気温条件下で大砲を発射し、その到達距離を測っている。これらから異なる気象条件での空気抵抗を求めようとしている。

 石英丸も、茸丸たけまるも、じきに計算機が出来るだろう、と期待して実験や観察データを貯めこんでいた。


 半分道楽のような計算需要もある。『かぞえ』が考え出した飛行機の空力計算が無数にあった。


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