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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
549/572

捕虜 (ほりょ)

 ポルトガル艦隊二番艦の発砲した大砲弾が、『比叡』艦尾に命中し、艦尾楼の玉座の間を破壊した。


後進こうしん微速びそく金口かなぐち三郎艦長が伝声管でんせいかんを通じて機関長に命じた。

操舵手そうだしゅ、舵そのまま……いや、ちょい取舵とりかじ。敵二番艦と少し間をとろう」

「砲術長、右舷全砲斉射せいしゃ用意。通常砲弾を使用」これも伝声管を使って、砲甲板に命令した。

 船倉で、パウダーモンキーが弾薬筒だんやくとうを持って船底に走り降りてゆく。砲甲板は火の粉が舞うので、火薬を置いておくことができない。なので、火薬は船底の火薬室に保管されていて、発砲のたびに一回分を弾薬筒に詰めて砲甲板まで持ち上げなければならない。


「艦長―っ、右舷三十門、通常砲弾、斉射用意よし」砲術長が返す。

『比叡』、『サンタマルタ』が並ぶ。『比叡』は金剛と同型艦なので、全長六十メートル、排水量二千トンだった。対する『サンタマルタ』は小型のカラベル級なので全長三十メートル、排水量は百トンくらいだ。大人と子供程の差がある。

「機関長、もうよい、停止」金口三郎が言った。

「砲術長、こちら艦長だ、右舷三十門、斉射せよ」


 三十門の砲が一斉にとどろき、右舷全体が白煙に包まれる。静かになった上甲板でいくつも咳き込む声がした。


 白煙がはれると、ポルトガル艦隊二番艦の姿が現れた。喫水線上の左舷三分の一程が消え、そこに瓦礫がれきの山が現れる。敵艦の艦尾楼に立つ艦長らしき男が啞然あぜんとした顔でこちらを見ていた。

その艦長に士官が話しかけると、うなずいているようだった。

 士官が細い棒にありあわせの布を結びつけて振る。降伏の意を示した。


 その後の手続きは一番艦と同じだったが、沈没の恐れがあったので、両者を並べ、乗組員を一番艦に移乗させた。そしてこの艦は『那智なち』が曳いてゆくことになった。


 残りの二艦は、さしたる抵抗も無かった。これは一列にして『比叡』が牽引した。




 金口三郎が、オルダニーの片田に無線で交信する。ポルトガルのアラビア海閉塞艦隊の拿捕だほ成功を知らせるためだ。

「そうか、成功したか。よかった」片田が言った。

「はい、特に魚雷艇は初めての出動でしたが、たった四発で、四隻の舵を射止めました。すばらしい兵器です」

「それは良かった。セン魚雷の方はどうだった」

「銛魚雷も、うまく船体を射抜き、いまのところ抜ける気配もなく牽引できています。店主に見てもらいたいほどの大成功でした」店主とは、片田のことだった。

「それほどうまくいったのか、それならば現在建造中の魚雷艇母艦が完成すれば、大西洋で活躍してくれるだろう」片田が応える。


「ただ、一つ報告しなければならないことがあります」

「なんだ」

「『玉座ぎょくざの間』が砲撃されました。敵艦隊二番艦の発砲したものが、偶然ですが、命中しました」

「ん、『玉座の間』ってなんだ」片田は知らなかった。金剛級は連合艦隊の旗艦になる予定だったので、艦長室とは別に提督ていとく用の個室があった。『比叡』では、観艦式かんかんしきの時に、そこを玉座として整え、主上しゅじょうをお迎えしていた。

「そういうことか。で、その内装をそのままにしていたのか」片田が言った。

「はい、なんとなく、壊すのもどうかな、と思ったものですから」三郎が説明する。


「で、玉座に座ったのか」片田が尋ねる。

「いえ、恐れ多いことです。そんなことをしたら、いかずちに撃たれて死んでしまうでしょう」

「そうか、それは良かった」

「しかし」

「いいではないか。半分壊れてしまったのであれば、心置きなく改装出来るだろう」

「それは、そうですが。もったいないことをしました」

 片田が笑いながら、無線を切った。




 金口三郎は当初、ポルトガル人捕虜をカレクトの国王に引き渡そうと思っていた。しかし、カレクトの住民はポルトガル人の所業しょぎょうに怒り狂っていた。彼らにポルトガル人捕虜を渡したら、とんでもないことになるだろう。


 なので、コチンに連れていくことにした。コチンとポルトガルならば友好関係がある。それほどひどい扱いはしないであろう。

 ポルトガル人がコチンで商館を営業している、ということであれば、カレクトも黙っていられない。しかし、牢獄ろうごく収監しゅうかんされている、というのであれば、文句も言ってこないだろう、たぶん。




 しかし、コチンは簡単にポルトガル人を受け入れることはなかった。

「ポルトガル人を受け入れると、またカレクトのザモリンが兵船をよこしてくるかもしれん。少なくともカレクトに引き渡せといってくるのは、間違いない」コチンの王が『比叡』艦長の金口三郎に言った。ザモリンとは『海の主』という意味で、王の称号しょうごうだった。

「そうでしょうか」

「もし、ザモリンがポルトガル人を引き渡せ、といってきたら、私は断れない」コチンの王が言った。彼のことはラージャという。サンスクリット語で『王』という意味だそうだ。


 金口の三郎が困る。先に『比叡』に受け入れたポルトガル人と四隻の士官船員を合わせると百二十名以上になる。彼らの艦に、それほどの人数を受け入れて航海することは難しい。


 三郎の様子を見たラージャ、コチン国王が言った。

「もし、どうしても受け入れろ、というのであれば、片田商店の軍艦を、一隻でよいから、コチンに常駐させてほしい。それならば、ポルトガル人を受け入れてもよい」

「常駐させて、どうするのですか」

「もちろん、カレクトやポルトガルがコチンを攻撃してきたときに、守ってもらいたい」

「ポルトガルが交易を望んできた場合には、どうしますか」

「そうであれば、望むところだ。なにもしなくともよい」

 要は、片田商店艦にコチンを防衛して欲しい、ということらしい。


「それは即断できません。持ち帰って店主と相談させてください」

「店主とやらが、そちの艦に乗っているのか」

「いえ、そういうわけではないのですが」

「では、しばらく、時間がかかる、というのだな」ラージャが心細そうな顔をする。

「いえ、明日また参上いたしますので、ご安心ください」

「そうか、明日返答が得られる、ということだな」

「そう、お考えください」




 艦に戻った金口三郎が無線でオルダニーの片田順に相談する。片田は、いずれにしてもコチンの片田商店を防衛しなければならないだろう、巡洋艦を一隻コチンに常駐させるのはいい考えだ、と言った。

 翌日、三郎がコチン王宮に参内さんだいする。

「我々の店主は、コチンに一隻の巡洋艦、小さい方の軍船のことですが、を常駐させたいと希望しております。それでよろしいでしょうか」

「おお、そうしてくれるか、ならばポルトガル人捕虜を受け入れよう」

 なんとかポルトガル人を上陸させることができた。


 聞くところによれば、ラージャはポルトガル人を離宮に住まわせ、歓待しているのだという。どちらにも良い顔をしておきたい、ということなのだろう。


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