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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
508/610

サンタ・エレナ湾

 アフリカの大西洋岸にたどり着いたヴァスコ・ダ・ガマの艦隊は、岸に沿って南に向かう。三日程南下したところで、平野を背景にした大きな入り江を発見した。


「ペロ、この湾を見たことがあるか」ガマが、サン・ガブリエル号の水先案内人、ペロ・デ・アレンケルに尋ねる。ペロはディアスの航海に同行していた。

「いいえ、ありませんな」

「そうか、ではご苦労だがパテル(小舟)で湾の内部を調べてきて欲しい。この湾の名前は、そうだな、サンタ・エレナ湾と呼ぶことにしよう」ガマが言った。

 安全な停泊地をさがしてこい、という意味だった。



 ペロが上甲板に降りてゆく。次いでガマが左に停泊している、一回り小さなキャラベル船、ペリオ号の船尾楼せんびろうに向かって叫んだ。

「ニコラウ、居るか」ペリオの艦長を呼び出す。キャラベル側から、おうっという声が返って来る。

「真水が必要だ。川を探してもらえないか」小回りが利くペリオ号は偵察役だった。

「わかった」そう言って、ペリオが帆を上げて南に向かって行った。


 ペロが返って来て、砂浜からゆるやかに深くなっていて、停泊の適地であること、周囲に人影や人工物がないことなどを報告する。

 翌朝ペリオが返って来て、湾の南端に川があるが、河口は遠浅とおあさで近寄れないことなどを報告した。

 ペリオが小舟で河口に行き、樽に詰めてきた真水に水夫達が歓喜する。新鮮な水なぞ、三カ月ぶりだった。


 四隻が海岸に接近し、一隻ずつ修理を始める。浅瀬に船を乗り上げさせて、傾けて船底を清掃する。フジツボや海藻を取り除き、傷んだところに、付近に生えている木の皮を剥がした物を詰める。詰めた後には熱した木炭タールを注いで固める。

 ペリオ号が河口と停泊地を何度も往復して、真水樽を運んでくる。


 二日目にガマが上陸する。緯度を測定するためだ。アストロラーベという、当時普及しはじめた道具を持っている。揺れる船上よりも、陸地の方が正確に緯度を測定できる。


「奥に住民がいます。どうしましょう」士官の一人がガマに報告する。

「たくさんいるのか」

「いえ、二人だけです」

「何をしているのだ、我々を偵察しているのか」

「いえ、それが蜂蜜を採っているようです」

「我々に気付いているのか」

「まったく、気付いていないようです」

「そうか、では、一人捕えてこい」


 現地の住民が一人、捉えられてくる。黄褐色おうかっしょくの肌で、毛皮を身に着けていた。

 おびえている男をサン・ガブリエル号に連行れんこうし、テーブルに着かせる。コンゴに住んでいたことがある通訳、マルティム・アロンソが話しかけるが、通じない。では、しかたがない、ということになり、料理を出してもてなすことにした。


 住民がしだいに落ち着き、出されたものを飲んだり食べたりする。帰り際には立派な服を着せて、鈴、ビーズ玉、帽子などを与えて帰した。




 翌日十四、五名の住民がやってくる。ガマ達が彼らに幾つかの交易品を見せた。シナモン、クローブ、真珠、金などだった。どれをみても不思議そうな顔をする。知らないようだった。それが二日程続いた。

 十一月十二日の水曜日も五十人程の住民がやってきた。彼らが食事をして、帰って行こうとしたときに、フェルナン・ヴェローゾというサン・ガブリエル号の士官が申し出た。


「彼らの暮らしぶりや食事の様子を知りたいので、彼らの家まで同行させてほしいのですが」

「危険なことは、やめておけ」ガマが却下する。

「しかし」

「まぁ、いいんじゃないか。やらせてみたら」ガマの兄、パオロ・ダ・ガマがとりなす。

「インドにたどり着くことが目的なんだぞ」と、ガマ。

「なにか、有益なものを見つけてくるかもしれんだろう。それに、万一のことがあっても、損失は一人だ」

「兄さんがそう言うのであれば、よかろう。フェルナン、行ってこい」そう言って送り出した。




 夕食の時間が近づいてきた。皆が船に戻ろうとしたときに、背後のやぶからフェルナン・ヴェローゾがまろび出てくる。

 ヴァスコやパオロが振り向き、フェルナンを救出しようとする。

「こっちだ、フェルナン」そう叫ぶ。駆け寄って来るフェルナンがパテルに乗ろうとしたところ、地元民がアセガイと呼ぶ短い槍が幾つも飛んできた。

 槍の一つが、ガマの足に当たり、転倒する。


 サン・ガブリエルとサン・ラファエルの甲板から、ハンドガンが幾つか発射される。砲声に驚いた住民が引きあげていった。


「ヴァスコ、大丈夫か」パオロがかたわらに寄って来て尋ねる。

「ああ、傷は軽い。たいしたことはない。早く船に戻ろう」


 全員が船に帰って来る。何が起きたのか、皆がフェルナン・ヴェローゾを問いただす。

「皆と別れた後、住民とアザラシを捕まえた」

「アザラシか、それで」

「丘のふもとの開けた所で、アザラシを焼いて食べた」

「お返しに、食事を振る舞ってくれたわけだな」

「そうかもしれない。なにかイモのようなものもくれた」

「それでどうした」

「食事が終わったら、彼らが船に帰れ、というそぶりをした」

「ふるまったんだから、もういいだろう。ということかな」

「それで、いや、君たちの家までついていきたいと、身振みぶりで言うと、怒り出した」

「家までついてこられては、かなわんということか」

「そうみたいだった」

「それにしても、槍で攻撃までしてくるとはな。アフリカの住民は気の弱い連中ばかりだと思っていたが」ガマが言った。


 ここまで、ポルトガル人は、現地人に攻撃されるとはまるで考えていなかったらしい。当時の航海記録にも、「武装せずに上陸したために、このようなことが起こった」とある。


 しかし、ここから先、ガマの艦隊は現地人に対して警戒感を持って接するようになった。



当時の航海記録については、Google で

The Journal of the First Voyage of Vasco da Gama E.G. Ravenstein


と検索すると、プロジェクト・グーテンベルグの英文版がヒットします。

平易な文章なので、機械翻訳でも読みやすいです。



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