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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
507/612

テレタイプ

 パナマの大西洋側。


 この、パナマの大西洋側、という『表現』について、毎回このように書くのが面倒なので、現代の名前を採って、コロンとしたいのだが、そうできない事情がある。


 この町の歴史は案外あたらしい。一八五〇年だ。前年から始まったカリフォルニアのゴールド・ラッシュが引鉄ひきがねになった。

 当時はアメリカ大陸を横断する鉄道がなかった。アイオワ州から西に延びるユニオン・パシフィック鉄道と、カリフォルニア州から東に延びるセントラル・パシフィック鉄道が、ユタ州オグデン町で接続されるのは一八六九年のことだ。明治維新の一年後である。


カリフォルニアに行くには船でパナマ大西洋側に行き、徒歩でパナマまで歩き、そこから船に乗るしかなかった。

 ゴールド・ラッシュでこの航路を移動する旅客が増えたため、鉄道が建設されることになる。その大西洋側起点として、鉄道建設に先立って町が造られる。


 鉄道の名前を『パナマ鉄道会社』という。まだ運河は出来ていない。社長の名前はウィリアム・アスピンウォールといった。

 彼の名前にちなんで、この町を『アスピンウォール』と名付けたが、この町に集まったラテン系労働者たちは、そんなイングランド系の名前では呼ばなかった。


 アメリカ大陸航路を開拓した彼等の英雄、コロンブスにちなんで、『コロン』と呼ぶようになり、ゴリ押し的にコロンという名前の町にしてしまった。


 つまり、コロンはコロンブスから来ている。なので、この物語でコロンと呼べないのである。


 ともあれ、パナマの大西洋側の港。輸送船が入港している。はるばる日本から来たばかりだ。

 上甲板の格子蓋こうしぶたを取り、主桁メイン・ヤードをクレーン代わりにして、船倉から積荷を持ち上げている。


 机ほどの大きさの木箱が船倉から釣り上げられ、埠頭ふとうに降ろされた。


「これが、テレタイプ、というやつか。さっそく設置してみよう」犬丸いぬまるが言った。


 珍しいものが事務所に運び込まれた、ということで米十こめじゅう、金太郎、熊五郎が集まって来る。


「これ、なんですか」米十が尋ねる。

「ああ、テレタイプというものだ。無線電話のようなものだが、文字で通信するんだそうだ」犬丸が言った。

「文字で、ってどうやって話すんだろう」と、熊五郎。

「ただ話せばいいのに、文字で会話するって、面倒くさいだけじゃないのか」金太郎。

「ああ、だが通信の記録が残るだろう。だから為替かわせ送金などを行う時に証拠になる」

「ああ、そうやって使うのか。それなら、面倒でも使い道があるかもしれない」米十。

「まあな、パナマでは市場しじょうは小さいし、為替を使うほどではないが、ヨーロッパでは便利だろう」犬丸が言う。


「これが設置の説明書か」犬丸が木箱の中に入っていた謄写版とうしゃばんりの紙を出した。

「よし、米十。私が作業するから、この説明書を上から読み上げてくれ。


「テレタイプには、専用の無線送受信機が内蔵されているので、背面のアンテナと書かれている端子たんしに付属の青いケーブルを接続し、反対側をアンテナ線に接続する」米十が言った。

「専用の無線機があるのか」

「そうみたいだね」

「で、次はどうする」

「電灯線をつなげる」電灯線とは家庭用の百ボルトコンセントのことだと思えばいい。

「入れたぞ」

「前面に赤いボタンがある。それが電源スイッチなので、上に上げる」

 犬丸が赤いスイッチを操作する。テレタイプの幾つかのランプが点灯し、カチャカチャという音がする。キャリッジという、ゴムローラーを載せた装置が、最初はゆっくり右に、次は高速で左に移動した。

 動作範囲を確認している動きだった。モーターが数回唸る。


「なんか、黄色いランプが付いたぞ。『用紙』と書いてあるランプだ」

「それ、後ろから連続れんぞく帳票ちょうひょう用紙ようしとかいうものを入れろ、っていう合図だそうです」米十が後ろの方をめくって言った。

「なんだ連続帳票って」

「さて、紙のようですけど」

「ちょっと、堺に無線で聞いてみろ」


「わかりました。もう一つの箱に紙のたばが入っているそうです」米十が答える。

金太郎と熊五郎が、もう一つの木箱を開けてみると連帳紙れんちょうしが幾つか出てきた。端の方をつまんで持ち上げてみる。

 長い紙がギザギザに折りたたまれている。紙の左右に一定間隔で丸い穴が開いていた。折り畳みの山と谷の部分は、細かい切れ目が入っていて、そこでちぎれるようになっている。

「なんか、不思議な紙だな。これ一束で一枚なのか」熊五郎が言う。

「そうらしいな」と、犬丸。


「その連帳紙を、機械の後ろから、ゴムローラーにそって挿しこんで、手前に持って来るらしいよ。ほら、こんな絵が描いてある」米十が犬丸に絵を見せる。


「しかし、ゴムって、こんなことにも使えるのか」と金太郎が言った。

「そうじゃのう。堺が欲しがるわけだ」これは熊五郎。


 犬丸が悪戦苦闘あくせんくとうし、連帳紙をローラーに巻き付けて、手前側に回した。何枚かビリビリにやぶれていた。

「出来たぞ」犬丸がそういって、汗をぬぐう。

「次は、右手前のSTARTというボタンを押してください」

「スタートだな、押した」犬丸がそう言ったとたんに、テレタイプが動き出し、連帳紙に何かが印字された。


WELCOME TO THE TELETYPE MACHINE

PLEASE SET MACHINE PASSWORD:


「なにが、ウェルカムだよ。米十、マシン・パスワードってなんだ」

「ちょっとまってください。……ああ、なにか、四桁の数字のようですね。このテレタイプ固有の番号だそうです。このテレタイプを使う時に最初に入れなければ動作しないようになっているそうです。他人が使えないようにってことですね」


「そうか、じゃあ、一、二、三、四だな」犬丸が言った。

「あ、待ってください、一二三四は止めておけ、って手書きで書いてあります。石英丸せきえいまるさんの字です」

「チッ」犬丸が舌打ちする。見透みすかされているような感じだ。「じゃあ、どうする」

「〇〇二三、ではどうでしょう」

「なんだ、それ。どこかで聞いた番号だな」

「パナマの港番号です」

「それも、気付かれそうだな。よし、それを逆にして三二〇〇にしよう。これならば忘れないだろう」

「そうですね」


 犬丸が四桁の数字を打つと、連帳紙にEWPPと印刷される。

「で、このあとどうする」

「右端のRETURNと書いてあるボタンを押すそうです」

 犬丸がRETURNを探して、押した。

「なんか、エラーだそうだ。数字じゃないとだめだとか言っている」

「どうしたんでしょうね」米十が説明書をあちこちも探す。


「あぁ、わかりました。ボタンの上の方の記号を入れるには、左下のSHIFT と書いてあるボタンを押しながらやらないといけないそうです」

「だったら、最初からそう書いておけよな」

「そのとおりですね」

 犬丸がシフトキーを押しながら繰り返す。こんどは連帳紙に3200と印字された。リターン。

「今度はうまくいったようだ。それで」

「最初の設定はここまでのようです」

「どうやって、使うんだ」


「そうですね。あっ、送信の仕方というページがありました」

「読んでみてくれ」

「まず、堺に通信するには SKI と打つそうです」

「S,K,I。打ったぞ、リターンか」

「はい。そのあとに、右手前の CONN ボタンを押します。START ボタンと同じボタンです」犬丸が見ると、確かに ボタンの左に START 上に CONN と書いてある。それを押した。テレタイプが連続音をたててなにか印字する。


TRYING TO CONNECT :SKI

:SKI CONNECTED. PLEASE TYPE TELEGRAM

>


「なんか、つながった、っていってるぞ」

「じゃあ、なんか電信でんしんを打ってみたらどうでしょう」

「そうだな」電信と急に言われても、思いつかない。一段目のアルファベットを適当に左から右に順番に打って、リターンキーを押した。


>QWERTYUIOP


 少しして、堺から電信が返ってきた。


INUMARU DESYO ANATA. WATASI WA FUU DAYO. :SKI


「チェ」それを読んだ犬丸が、また舌打ちした。


今回の本文のように、日本語に英語が混ざったような文章を書いていると、

日本語/英語モード変換がおっくうになる。


『ALT+`』ないしは『SHIFT+Caps Lock』をつかうのだけれど、二つ押さないといけないし、

いま、どっちモードなのか打鍵してみないとわからない。


IMEとかの設定でなんとかなるのかもしれないのだけれど、pcの設定を変更すると、

アホな筆者はそれを忘れて、先々苦労することになる(経験あり)。


最近、たまたま pyautogui というPythonパッケージ作者の著書※を読んでいたら、

同パッケージの解説があった。


よし、これならできるんじゃないか、と思って『Caps Lock』キーにモード変換を

割り当てるプログラムを ChatGPT さんに書いてもらった。



# key_monitor.py Caps Lock キーを 日本語/英語モード切替に変更する

# 実行するDOS窓は、管理者権限で開く必要がある。

# Win+X > ターミナル(管理者) を選択


# 使用するエディタなどを開いて、キーボードを 英語入力モードにしておく

# DOS窓からpython key_monitor.pyを実行

# 日本語入力モード:Caps Lockランプ オン

# 英語入力モード :Caps Lockランプ オフ になるので、

# どっちのモードにいるのか、キーボードで確認できる

# Windows IME はウィンドウ毎に状態を保持するので、

# 逆転してしまったときは、以下の操作を行う。


# モードが逆転したときは ALT+` で戻すことが出来る。


import keyboard

import pyautogui

import time


# IME切り替えと CapsLock 強制OFF を行う関数

def toggle_ime_and_reset_capslock():

print("CapsLockキーが押されました:IME切り替え&CapsLock解除")


# IME切り替え(Alt + 半角/全角)

pyautogui.keyDown('altleft')

pyautogui.press('`')

pyautogui.keyUp('altleft')


# CapsLock が ON のままになるのを防ぐため、CapsLock をもう一度押して強制的に OFF にする

keyboard.send('caps lock')


# CapsLock押下でIME切り替えと強制OFF

keyboard.add_hotkey('caps lock', toggle_ime_and_reset_capslock)


print("CapsLockキーでIME切り替え&CapsLock強制OFFを行います(終了: Ctrl+C)")


try:

while True:

time.sleep(1)

except KeyboardInterrupt:

print("\n終了しました。")



感想

パソコンにPythonを入れている人にしか使えません。ごめんなさい。


1『Caps Lock』キーだけでモード変換できて、便利

2『Caps Lock』キーランプの点灯で、日本語/英語どっちのモードか判別できる、とても便利

3 ただ、改良の余地あり。たまに不安定になる。



※『退屈なことはPythonにやらせよう 第2版』

著者: Al Sweigart

訳者: 相川愛三

発行所:株式会社オライリー・ジャパン

2023年3月23日 初版第1刷発行


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― 新着の感想 ―
>日本語/英語モード変換  私は、タイピングしやすいのでIME変換の詳細設定のユーザー定義を変更して、「入力/変換済み文字なし」変換キーにIME-オンを、無変換キーにIME-オフを当てて使っています…
はじめまして、いつも更新楽しみにしています。 テレタイプみたいな端末はむかし某銀行の子会社で観たことがあります。(さすがに置いてあるだけでしたがw) 別件、IMEの話ですが、たしかにどちらのモードに…
かな入力でもローマ字入力でも、ファンクション9キーでアルファベットに出来たような?
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