千鳥二号 (ちどり 2ごう)
また、やっちまいました。
●一四九六年当時、利根川と渡良瀬川はつながっていません。別々に東京湾に注いでます。
両者を繋ぐ、幾つかの支流はありそうですが。
渡良瀬川が利根川の支流になるのは、江戸初期の『新川通』の時です。
●あと、小山朝基さん上陸地点の
右手 誤 常陸国>下総国 正
左手 下野国>武蔵国
です。このあたりは、入り組んだり、時とともに変化したりしています。
そのあたり、後から来る読者さんのために修正いたしました。
もう読んじゃった皆さん、もうしわけありません。
謹んで訂正いたします
教えてくださった方、ありがとうございます。
こうやって教えてもらいながら修正できるは、ネット小説の長所ですね。
古河城は、江戸時代後期までには関東有数の規模の城になっていたらしい。近代以降の治水工事で、そのほぼ全てが失われたのは残念だ。
この物語の時点での古河城がどのような規模だったか、あまりよくわかっていない。なので、本丸、二の丸、三の丸までくらいがあったのではないか、とした。
「今回の戦の陣立てについて、以下のように定める」古河公方の足利成氏が言った。
皆、二の丸にある広間に集まっている。
「年齢、数え五十以上の者を玄武隊とする。これは本丸を守る」
「以下、三十六から四十九の者は青龍隊、担当は二の丸。十八から三十五歳は朱雀隊、三の丸だ。十五から十七は白虎隊。これは二の丸に置き、予備隊とする」
成氏は、年齢で編成を組んだ。これはめずらしい編成だ。白虎隊があることで、わかるように会津戦争の時の会津藩の編成そのものを持って来た。
当時の会津藩が何故このような編成を組んだのか、以前から不思議に思っている。似たような編成の軍隊を調べてみても、出てこない。
かろうじて似ているかな、と思うのはナポレオンが編成した大陸軍だろうか。彼の陸軍では、戦列歩兵は小銃兵(fulilier)と擲弾兵grenadiers)、選抜歩兵(Voltigeurs)に分かれる。入隊した歩兵は小銃兵に配属される。小銃兵として経験を積んだ後、大柄の熟練兵が擲弾兵になり、小柄で敏捷な者が選抜歩兵になった。
擲弾兵と言っても手榴弾兵ではない。戦列の最右翼に置かれ、敵前線を突破することが役目だ。突破後に背後から敵戦列を包囲して、これをせん滅する。
選抜歩兵は敏捷さを生かして、偵察や散兵戦をおこなった。
ともかく、足利成氏は年齢をもとに四隊を編成した。なにか、考えがあるのだろう。
「こちら、上陸候補点探索隊です」無線が入る。
「どうした」
「駄目です。古河城南方の岸に上陸してみましたが、その先は城まで沼になっています。とても上陸できません」
「沼か、それは。……で、沼の先はどうなっている」
「沼の先は、古河城本丸と二の丸そのものです。とても歩兵がとりつくことはできません。城の西は渡良瀬川、南と東は沼になっております」
「そうか、しかたないな。ではもう少し渡良瀬川を上って、上陸適地を探索してほしい」
「了解しました。渡良瀬川上流に向かいます」
「そちらの準備はどうかな」小山朝基が川辺の方に振り返って言った。
「もう少しで組み立てが終わります」銀丸と『ひばり』が同時に答えた。彼らは工兵に助けられて飛行艇を組み立てている。
結局、歩兵上陸点は古河城北方の渡良瀬川湾曲点に決まった。二の丸、三の丸前を通り過ぎて上陸することになる。やっかいな城だ、と朝基が思う。
二百隻の分隊上陸用舟艇が、古河公方軍が見ている前を、渡良瀬川を上る。左岸には軽迫撃砲部隊の舟が並んでいた。
二の丸から矢が飛んでくるが、多くは板盾で防ぐことができた。
先頭の二十艘が岸に船首をぶつける。小銃をもった歩兵二百が岸に上陸する。舟は残った操縦担当二名が逆櫓を使い、速やかに岸から離れる。空いたところに次の二十艘が漕ぎ寄せる。
それを繰り返し、二千名の歩兵が古河城北面に上陸した。
アッという間だったといっていい。古河公方軍は、もっと城に近いところに布陣していたので、上陸地点に接近する前に上陸が終わってしまう。二人の大隊長から、無事上陸が完了した、との連絡が入る。
「『千鳥』は、発進できるか」と、朝基さん。
「行けます」銀丸が操縦席から振り返って答える。既に航空眼鏡を付けている。前席の『ひばり』も右手を挙げた。
「よし、『千鳥二号』、発進せよ。予定高度に達したら、連絡すること。すぐに噴進砲の試射を開始する」
「了解でぇす。『千鳥二号』出発します」銀丸がそう言う。エンジン音が高くなり、飛行艇が岸を離れた。
『千鳥二号』は、すぐに向きを左に変えて渡良瀬川の下流を目指して速度を上げた。小山朝基が眺めていると、飛行艇は、朝日を斜めに受けて、水滴を散らしながら離陸した。
若い娘を戦場に連れてくるのには抵抗があった。しかし、体重が軽い方が、滞空時間が長くなる、というのであればしかたない。
無線機から『ひばり』の声がする。
「こちら、『千鳥二号』、観測高度に到達しました。視界良好、古河城全域、観測可能です。その先の第一、第二大隊も見えます」
「よし、では、噴進砲一号から試射を行う。『噴一号』試射せよ」朝基が叫んだ。
ロケット弾が一発、白い弧を描いて空を渡り、本丸向こうの沼に落ちた。
「長、二十、右、五、間」『ひばり』が答える。着弾点が本丸より二十間先で、右方向に五間ずれて着弾した、という意味だ。
後は、いままでと同じだ。十基の噴進砲がそれぞれに本丸に命中するまで試射する。後ろの砲ほど調整時間が短くなる。そして、皆が朝基の方を見た。
「全噴進砲、一斉射撃、撃―ッ」