連歌 (れんが)
宗祇は連歌師だった。一四二一年に生まれ、一五〇二年に没している。
連歌について、私は詳しくないし、やったこともない。わかる範囲で連歌を説明してみたい。
数人があつまり、連想で短歌を作る、という説明が適当かもしれない。
短歌は五七五、七七文字という形式をしている。これを、
・最初のAさんが、五七五文字の前半の句を詠む、これを発句という。
・次のBさんが、後半の七七の句を続けて、ひとつの短歌にする。
・さらにCさんが、A,Bさんが共同で作った歌を受けて、五七五の句を詠む。前の歌と、何らかの関係がなければいけない。
というふうに続けていき、あらかじめ決めた百句なり百二十句なりに達した所で終わる。
歌はまったく無関係なものを読むわけではない。発句で表された『何か』を展開し、変化させて、その有様を楽しむ。
例えると『しりとり遊び』に似ている。『しりとり』は、前の人が発した単語の末尾の音使って、次の人がその音を先頭とした単語を思いついて、発する。
連歌の場合には音ではなくて、風景や風情、込められた感情を継いでいく。
奈良時代から似たようなことは行われていたらしい。平安時代には上の五七五に対して、相手が七七を詠む短連歌が流行する。やがて五十句、百句と続く長連歌になっていったそうだ。
このように説明すると、優雅な遊びのようだが、酒席でおこなわれるようなこともあり、『新撰犬筑波集』のような、卑俗、滑稽な作も残されている。
後に連歌の先頭の発句のみを独立させたものが、俳句になったそうだ。だから俳句には連歌の発句になれるような、拡がりの可能性が必要なのだろう。それを念頭に置いて、
『古池や 蛙飛び込む 水の音』
を読むと、また違った味があるのかもしれない。
玉石混交だった室町時代の連歌を、芸術の域にまで高めた人の一人が宗祇だという。
前半生は、京都相国寺で修業していたらしい。三十歳をすぎてから、連歌を志して師匠の門を叩く。連歌だけではなく、古典を一条兼良に、和歌を飛鳥井雅親に学ぶ。
興福寺の尋尊さんとも交流があった。尋尊さんより、九歳年上だった。
そして、四十六歳になった頃から、日本中を旅する。東は結城氏の招きで日光、白河まで踏破する。
西は、大内政弘に呼ばれて周防、そして博多まで足を延ばす。
それも、一度きりではない、三十数年の間に何度も諸国を旅している。
松尾芭蕉忍者説、というものがあるが、宗祇隠密説が出て来ても不思議はないほど、各地を回った。
隠密ではないにしても、新聞もテレビもネットも無い時代である。諸国の武将は情報に飢えていたであろう。連歌を教えるだけではなく、各地の情報なども伝えるインフルエンサーのような役割もあっただろう。
「わたしは片田殿をお見かけしたことがあります」宗祇が言った。
「そうなのですか、どちらででしょう」
「興福寺です。尋尊さんのところで眼鏡を売っていらっしゃるところを、遠目で見ました。そのときは、面白い物を売る御方だと思いました」
「そうですか」
「しかし、……」
「なんですか」
「いえ、これはまた、いずれ何かの折に」
なんだったのだろう。宗祇には何か言いたいことがありそうだった。
細川政元が話に割り込んでくる。
「この師匠は、全国を旅している。東国にも、上杉など、知り合いがたくさんいる」
「そうなのですか、それは頼もしい」片田が少し驚く。
「なので、だ。俺達がマラッカまで行って、大儲けして帰ってきた、そう東国で吹聴してもらうことにしよう。それであいつらも考え直すだろう」
「それは、試してみる価値がありますね。よろしいのでしょうか」片田が宗祇に尋ねる。
「よろしいも、なにも、嘘をつくわけではないのであろう。それならば、かまわぬ」宗祇が言った
「せっかく師匠がいるのだ、ここはひとつ連歌をはじめようじゃないか」政元が言いだす。皆も酒が回り始めている。そうだ、そうだ、ということになる。
歌を紙に記す役が決まり、巻紙と筆や硯が整えられた。
「では、師匠、発句をお願いいたします」
「そうですか。では、まあ、酒席でもありますから、あまり肩の凝らないものを考えましょうか。そうですね」
そう言って、少し考えて、発句を詠んだ。
「『露の玉 蜘蛛の糸にて 宙に舞う』。では、いかがでしょう」
皆が歓声を上げた。
宗祇が想像したとおり、連歌はだんだん際どい方に流れていった。それでも宗祇さんはニコニコとして、句作に困る者に助言をしていた。連歌師というのは、今風に言うとゲームマスターのような役割もあるようだ。
『露の玉~』はChatGPTさんに造ってもらった発句です。彼に宗祇や、彼の発句を知っているか、と尋ねた後に(知っていました)、以下のように尋ねました。
「実際に宗祇が作った発句を使わずに、宗祇が作りそうな発句を作れますか?」
続いて、
「もう少し、広がりのありそうな発句がつくれませんか?すこし、幽玄な感じでお願いします」
とやったところ、上の発句が出てきました。
たまに、気晴らしにChatGPTさんに、俳句や和歌をつくってもらったりします。漢詩を作ってもらうことも出来ますよ。
五言絶句を作らせると、ちゃんと韻を踏んできます。平仄が合っているか、ChatGPTさんに確認させてみることもできますが、残念ながらそれが正しいかどうか、私の能力では、確認できませんでした。