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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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長禄(ちょうろく)

 冬の間に、石川のほとりと、日本武尊陵の近くの二か所に作業員宿舎が作られた。棟梁は、畠山義就(よしひろ)が城普請に使っている石之垣太夫いしのがきだゆうという男だ。

「今はまだいいが、農繁期になったら、人が集まらない」太夫が言う。

「大丈夫だ、必要ならば、私の村から五百人くらいは出せる」片田が答えた。

「ならば、そのつもりで、進めるが、いいな」

「大丈夫だ」

「ならば、ここの堰に百人。誉田ほむたの運河に四百人置くか」

「ところで、あの娘が使っている道具だが、わしもひとつ欲しいのだが、頼んでくれないか」太夫がふうのいる方に向かって手をさしだした。

 太夫が言うのは、ふうが作った測量器具のことで、今でいう平板測量器と、その上で使うアリダードに似た道具のことだった。

「直接頼めばよいではないか」片田が言う。

「あの娘は、口数がすくないからな。苦手だ」

「そうか、では私から頼んでみよう」

 ふうは、成長とともに、必要なことならば、自分の考えをきちんと説明できるようになってきている、と片田は思っていた。なじみのない人間は、まだ苦手なのだろう。


「犬丸、棒を前後に動かしてみて、あ、そこ、止めて」ふうが言う。

 ふうは、器具の目盛りを読み、平板に敷いた紙に記録する。黒鉛の薄板を細く切り木の棒で挟んで、簡易鉛筆として使っていた。間違えた場合は、小刀で紙を削って修正した。一日分の作業を終えた後は、その日記入した部分に薄い糊を塗り、ぼやけたり、かすれたりしないように固定した。


 工事は順調に進んだが、この年は日照りと疫病の年だった。これを受け、九月には長禄ちょうろくと改元された。片田は、ついに来たか、と身構えたが、河内や大和の百姓はこれを耐えた。義就、家栄いえひで、片田などの活動で、百姓たちは、わずかながらも蓄えを持っていた。

 それ以外の国の各所で徳政一揆が始まった。混乱に乗じて義就は細川勝元の所領である山城やましろ木津きづに攻め込んだ。大和に攻め込んだ時と同様に将軍義政の上意であると詐称した。これには義政も激怒した。

「陰ながら支援してやるとは言ったが、おおっぴらにやりおって」


 木津は、大和国の生命線である。京都や、瀬戸内海から来る物資は、木津川を上り、そののちに陸運され、奈良に入る。ここで言う物資とは、大和国内の寺社が全国に持つ荘園から上がってくる年貢(銭納であれば銭)や、座に入る専売商品のことである。義就がここに攻め入った。寺社や座に入る物流が停止する。むりやり木津を通過しようとすれば、義就が没収する。一方で、大和盆地内の自分たちの田舎市からの物流を増やし大和の住民が困るようなことは避ける。これを続ければ、大和の寺社は干上がる。


 片田は堺から、朝鮮、琉球の米、蕎麦、雑穀、豆などを大量に購入するように指示した。すこしずつだが、硫安りゅうあんが理解されて売れるようになっていた。国内からは、相場に影響しないように、気を付けながら穀物を集めた。

 その年、太夫とふうの工事は予定通り行われ、年末には石川の堰と、誉田運河が完成し、石川の水は、大乗川、誉田運河を経由して、応神天皇陵の濠に流れ込むことができるようになった。




 赤松氏というのは、播磨はりまの守護であった。播磨は、いまの兵庫県西部の昔の国名である。赤松氏は、その後美作みまさか備前びぜんの守護職を与えられる。義政の父で、二代前の足利将軍義教よしのりは、赤松家の庶流の満政や定村を優遇し、本家の満祐を冷遇した。満祐は身の危険を感じ、将軍である義教を自邸で暗殺した。これを嘉吉かきつの乱という。この事件で赤松氏は没落した。赤松氏が持っていた三国の守護職は山名持豊(宗全)に与えられえる。これは応仁の乱の遠因の一つになる。

 この赤松氏の遺臣が、長禄元年の十二月、吉野の後南朝を襲い、後南朝が保有していた三種の神器の一つ、神璽しんじを奪う。神璽は一旦後南朝側に奪い返されるが、翌年再度赤松の手に落ちる。赤松の神璽奪回に当たっては越智家栄が協力しているといわれている。

 神璽奪回の功績により、赤松氏は再興を許され、加賀半国の守護職を与えられた。

 応仁の乱においては、赤松氏は、旧領である播磨、美作、備前三国奪回のため、西軍総大将の山名宗全に対し、東軍に参加することになる。


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