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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
452/610

一斉砲撃 (いっせい ほうげき)

 フランス北西部、ノルマンディー地方にコタンタン半島がある。シェルブールという港町がある半島だ。その先端からわずか十数キロの海を挟んで、イングランド国王の私有地、オルダニー島があった。

 島の東四分の一程が、片田商店に貸し出された。

 借地料しゃくちりょうは一年あたり、銀五十五貫だった。現在価格に換算すると、銀の価格を一グラム百七十円として三千五百万円くらいである。

 これが毎年、ヘンリー七世に支払われる。

 銀五十五貫というのは、オランダが毎年江戸幕府に支払った借地料と同額である。


 同島の南、ロンギス・ビーチに建てられた古代ローマの要塞から、北岸のオルダニー要塞までの間に石垣が設けられ、その東側が片田商店の借地になる。

 敷地内には幾つもの要塞の廃墟があった。その基礎の上に新たに建屋たてやを建て、倉庫にした。

 

 石垣の長さは九百メートル程だった。その真ん中あたりに桝形ますがたの関所が設けられている。枡にあたる広場にはいちが設けられ、毎日取引が行われていた。

 旗竿はたざおが二本立てられ、白地に赤十字のイングランドの旗と、白地に赤丸の『日の丸』が掲揚けいようされている。


 市の周囲の壁には幾つもの板がかかげられており、日英対訳の商品名や、数字が書かれている。


「一、Iti、one。二、ni、two。三、san、three。……」

「百、hyaku、hundred。千、sen、thousand。万、man、ten thousand。……」

「金、kin、gold。銀、gin、shilver。尿素、nyouso、urea。椎茸、siitake、mushroom。……」


 などである。シンガが掲示した。シンガ本人は、通常は市の番屋ばんやにいた。イングランド本土に仕事で行く時を除いては、たいがいここにいる。市でなにかごとがおきると、シンガが呼ばれる。


 シンガがリスのマーガレットから送られてきた手紙を読んでいると、『川内せんだい』の士官がやってきた。

「シンガ、三日後に出港するそうだ。準備をしておけ」

「え、急だね。なにかあったの」

「ああ、カリブ海に行くことになる」

「カリブ海って、パナマに行くのかい」

「いや、向こうの島にスペインが入植したらしい、それを追い出しに行く。今回は合戦になるかもしれん」

「そうなのか、でもスペイン語は話せないよ」

「向こうの偉いやつは、ラテン語が話せるだろう」

「ラテン語、ああ、そうか。それで僕も行くんだね」

「そういうことだ」




 三日後、『古鷹ふるたか』がオルダニー島を出港する。安宅丸あたかまるが『川内せんだい』を降り、『古鷹』の艦長になっていた。


イスパニョーラ島では、南岸で『こすたりか丸』と『ころんびあ丸』が津々浦々(つつうらうら)の村に『翡翠ひすい顔料がんりょう』を配っていた。天然痘の伝染速度との競争だった。

砲艦『夕張ゆうばり』は北岸のラ・イザベラ沖で、スペイン船隊の出入りを監視している。


 九月二十九日に西の方角より、三隻からなる船団がやって来て、ラ・イザベラに入港した。それ以外には船舶の出入りはなかった。

 この船団は四角帆の中型船一隻と、三角帆の小型船二隻からなっていた。それぞれ、ニーニャ号、サン・ホアン号、カルデラ号という。コロンブスのキューバ探検船団が帰港したのだった。ニーニャ号は、第一回航海の当初は三角帆だったが、航海途中で四角帆に変更されている。

 このとき、ニーニャ号にはコロンブス自身が乗船していた。




 十月になり、東方から『古鷹』が現れ、『夕張』と合流する。二艦の艦長が作戦を相談し、翌日の朝、ラ・イザベラの港に侵入することにした。




 翌朝、『古鷹』と『夕張』が縦列じゅうれつでラ・イザベラに接近した。入植地は低い岬の上にあった。海面からの高さは二メートルくらいで、波打ち際は岩場になっている。

 左側に小さな浜があり、そこにスペインの船団が停泊していた。


 右手に、ひときわ大きな二階建ての建物があり、ヤシの葉でかれている。屋根の上に見張り台があり、小さな人影が、なにか叫んでいる。

 おそらく、『古鷹』、『夕張』二艦の接近を植民地の住人に警告しているのだろう。


「集落前の海面に対して威嚇射撃いかくしゃげきを行う。左舷各砲かくほう、発砲用意」安宅丸あたかまるが『古鷹』の掌砲長しょうほうちょうに命令する。左舷の二段八門の砲門が開かれるゴトゴトという音がした。

 各砲が、仰角ぎょうかくを水平射撃に合わせる。


発砲テーッ」安宅丸が叫ぶ。ドオゥンッ、という砲声が響き、植民地のすぐ目の前の海面に十六の水柱すいちゅうがあがる。

 見た目の派手はでさを狙って、榴弾が発射されていた。水柱の中で赤い炎が燃え、砲弾の破片が一つか二つ、ラ・イザベラまで飛んだ。


 次いで、『夕張』も発砲した。二艦が旋回し、植民地左翼の浜で投錨とうびょうする。


 スペインの植民地では、大騒ぎになっていた。国籍不明の二艦、一隻は大型だった、が船腹全体に空いた穴から一斉に大砲を発射してきた。

 この頃の西洋帆船には、まだ舷側砲げんそくほうはない。舷側砲はヘンリー八世からである。砲門があっても上甲板か艦尾楼かんびろうに一つか二つ程度であった。サンタマリアに載せられている大砲も、せいぜい数門だったろう。あとはハンドキャノンぐらいだ。

 そこに片舷へんげん十六門もの大砲の一斉砲撃いっせいほうげきを見せられたのである。圧倒的だった。


 国籍不明の艦から連絡艇が降ろされ、浜に寄って来る。白旗を持った少年が叫ぶ。


「Estne rex?(王はいるか?)」

「Estne praefectus ?(提督はいるか?)」

 何度も繰り返し叫んでいる。シンガの声だった。


 浜に立つスペイン兵の一人が、船上で叫ぶ若者に対して、銃を発砲した。シンガが首をすくめる。

 外国船から一発の銃声がした。浜で発砲した男が倒れた。なんという命中精度だ、あの距離なのに一発で倒したぞ。スペイン人達が魂消たまげる。施条ライフルの有無が命中精度の大きな差になっていることを、スペイン人達は知らなかった。


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テックレベル差でぶん殴ってる (スペインにとっては)今までとは、逆ですの
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