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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
437/607

ジェルバ島

 ジェルバ島の北岸にウメ・スクという集落がある。港と言ってもいいのだが、埠頭ふとうのようなものはない。岩の多い砂浜に小さな舟が幾つも引き揚げられている。

 漁をするための小舟だろう。

『加古』が海岸から少し離れた所にいかりを降ろして、停泊する。


 岸には小さな住居が幾つも建てられていた。屋根はナツメヤシの葉でかれている。左手に一つだけ目立つ要塞があった。ボルジュ・エル・ケビールという要塞だ。

 イスラムのスルタンが古代ローマ都市グリバの遺跡の上に建設した長方形の要塞で、城壁と丸い塔が見えた。


 海から見た限りでは、海岸の人々はイスラム教徒が多いようだった。ユダヤ人のリーダーが二人のともを従えて『加古かこ』の連絡艇で上陸する。

 海岸の人々と会話するのが見えた。

 

 供の一人が内陸に向けて走って行った。どうもユダヤ人の居住区は少し内陸に入ったところにあるらしい。

 

 一時間程後、供役の若い男が、黒い服と帽子を身に着けた男と数人を伴って戻って来る。ラビという宗教指導者らしい。

 黒い服の男が『加古』のユダヤ人のリーダーと幾つか会話している。リーダーが『加古』の方を指さすと、ラビがうなずく。

 リーダーに招かれて、ラビが連絡艇に乗る。こちらに来るようだ。


「中甲板のユダヤ人達を呼んで来い、上甲板に出てくるようにと」村上雅房まさふさが甲板長に言った。


 上甲板の格子蓋こうしぶたが開けられ、七十人のユダヤ人達が上がってくる。連絡艇が舷側に着き、ラビとリーダーが乗船する。


「シャローム」

「シャローム・アレイヘム」


 ユダヤ人達が黒衣の男に向かって口々に言う。「平和を」、「あなたに平安がありますように」というような意味だそうだ。


「アレイヘム・シャローム」ラビもそれに答える。


 しばらくして、ラビが右手を挙げる。静粛せいしゅくに、という意味だろう。そして語った。


「この船で来た同朋どうほう、約七十名を、神の名のもとに受け入れる。ジェルバ島にようこそ」


 船で来たユダヤ人達が歓声を上げた。ラビがしばらく、なだめるようなしぐさを繰り返す。彼らが落ち着くのをまって、ラビがリーダーに何か言う。

 そして、ラビが村上雅房の方を向いて言った。

「同朋を海から救い出してくれてありがとう。そして島まで連れて来てくれたことについても礼を言う。私たちは、あなたの善意に対して何をしてこたえればいいだろう」


 雅房が通訳を介して言った。

「特に何も求めない」


なんじらはユダヤ教徒なのか」

「そうではない。我々は日本人だ。ユダヤ教徒でも、キリスト教徒でも、イスラム教徒でもない」

「そうであるのか」

「もし、感謝したい、というのであれば、今後この島に日本人が来るかもしれない。その時にユダヤ教徒と同等に接してくれれば、ありがたい」

「わかった、そのようにしよう。ところで、朝の食事は済んだのか」

「済んでいる、君の同胞たちもだ」

「では、夕食に招待しよう」

 この島では、一日二食の習慣のようだ。ただ、安息日の土曜日には三食にするそうだ。


 雅房と、片言の英語が出来る日本人、それに英語が話せるヤコブ・シャハムが、七十人のユダヤ人旅行者と共に上陸した。

 海岸付近に住んでいるのは、ほとんどイスラム教徒のようだった。

 新しく来たユダヤ人と、見たことの無い人種の男二人が一緒に歩いているのを不思議そうにながめる。


「わしらの住居は、海岸から少し離れた、不便なところにある」黒衣のラビが言った。


 内陸に入ると、家がまばらになり、代わりにナツメヤシが規則的にえていた。


「これは、ヤシの畑なのか」雅房が尋ねる。

「そうだ春は受粉の季節だから、あのように雄蕊おしべをちぎって持ち、ヤシの雌株めかぶしべを撫でる。この畑に生えているのは、ほとんど雌株だ」

「この島は、乾燥しているので、オリーブとナツメヤシくらいしか採れない。小麦などの穀物は輸入している」

「ナツメヤシって食べられるのか」

をデーツと言って、食べられる。秋には生で食べることが出来る。冬から夏は、乾燥したものを鶏肉や魚といっしょに煮込んだりする」

「乾燥しているところでも育つとは便利な木だな」

「オリーブとナツメヤシ以外は、タマリスクという花が咲く木、ローズマリーやタイムなどの香草くらいしか生えていない」

「水はどうしているのだ」

「井戸はある。お口にはあわないかもしれないがのう」ラビが言う。


 これは、蒸気機関の水として使えないかもしれない。石炭や材木などの燃料も期待できないだろう。雅房が思った。



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