表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
435/610

漂流者 (ひょうりゅうしゃ)

川内せんだい』がイングランドを去って行った。シンガの三対の袖は、港湾長官に預けられ、無事リスのマーガレットに届けられる。

 ガラス職人達は残り、オルダニー島の西側に最初のガラス工場を建設することになった。




 半年後、一四九四年の春に、安宅丸あたかまる達が十二隻の船団となってイングランドにやってきた。

 オルダニー島に居留地を作るための資材を運ぶ輸送船九隻、護衛の軍艦『古鷹ふるたか』と『加古かこ』二艦は五百トン級の大型艦だった。

 この型の軍艦が出来たことで、高速な遠洋航海が可能な艦、すなわち巡洋艦じゅんようかんという言葉が生まれる。

 それ以前の『川内』などは、これまで砲艦と呼ばれていた。


 そして、最後の一隻は、イングランドに贈られる『那珂なか』だった。『川内』と同型艦で、『川内』より艦齢かんれいが若い。百八十トン級の砲艦だ。

 『那珂』は最初のアメリカ探検に従事した艦だった。


『那珂』はテムズ川を遡上そじょうしてグリニッジ宮殿にたどり着き、盛大な贈呈式が行われて、イングランドの軍艦『ユニオン・ローズ』になった。


『古鷹』の艦長は安宅丸、『加古』の艦長は村上雅房まさふさだった。雅房は能島のしま水軍の村上義顕よしあきの息子だった。


 船団がオルダニー島南東部にある湾に入港する。島に仮設した倉庫には大量の石炭が積まれていた。ヘンリー七世が約束を守ったということだ。


イングランド到着後『古鷹』は船団の護衛にあたるが、『加古』はヨーロッパ沿岸の調査に従事することになっており、補給後すぐに出発した。


『加古』が、目の前のフランスから測量を始め、大西洋岸を南下する。ポルトガル沿岸あたりまで来た時の事だ。


「艦長、進行方向に浮遊物ふゆうぶつ前檣フォア・マストの水兵が叫んだ。

「どういうことだ」艦長の村上雅房が言った。

「板、樽なんかが浮かんでいます。難破船なんぱせんかもしれません」

「嵐なんか、なかったが」


 航海士が船首に向かって走り、戻ってきた。

「人間です。多数の人間が板や樽につかまって海上に浮いています」

「何が起きているんだ。とりあえず救助する。帆を巻いて、機走で慎重に接近しろ。両舷の連絡艇、降下用意」艦長が命令する。


 二隻の連絡艇が降ろされ、海面に浮いている人々を救いあげる。ポルトガル人達だった。


「スペインの海賊だ。夜の間に船尾灯せんびとうを点けずに接近してきて、いきなりやられた」甲板にあがってきたポルトガル船の士官らしい男が言った。イングランドで、スペイン語やポルトガル語が出来る通訳を雇っていたので、その男にポルトガルから英語に通訳させる。英語から日本語へは、シンガに英語を習った日本人が行った。


「昨夜は月がありませんでしたからね。あなたたちの船は」

「海賊が持っていっちまった」

「ということは」

「船員と、乗っていた乗客を海に突き落としていった」

「ひどい話ですね。今、見つかる限りの漂流者を救いあげていますが、何人程乗っていたのですか」

「船員約五十名、乗客は百五十名程だ。だが、乗客の大部分はユダヤ人だ。ポルトガルの船員を優先して救助してくれ」

「ずぶぬれの頭だけ見て、ポルトガル人かユダヤ人か、区別できませんから、とりあえず皆助けることにします」


「何故、そんなにユダヤ人ばかり乗っていたんですか」

「再来年(一四九六年)までに、ポルトガルに住むユダヤ人は国外追放されるか、キリスト教に改宗させるか、どちらかにする、ということが決まったんだ」

「それで、大量にユダヤ人が乗っていたのですね、で、どこに向かうところだったんですか」

「シチリアのパレルモだ」

「パレルモにユダヤ人の居住地があるのですか」

「いや、ない。奴らは、そこからアフリカのジェルバ島に行くつもりだ。そこにユダヤの町がある」

 ジェルバ島は、現代のチュニジアにある。古代からユダヤ人のコミュニティがあり、一昨年にスペインがユダヤ人を追放した時にも、大量のユダヤ人が移り住んでいる。


 百人程が救助された。海賊たちは乗員乗客を海に突き落とした後に、空樽や板切れを投げていた。運よく溺れる前にそれらを見つけた者だけが助かったらしい。


「ポルトガル船の船長はいませんか」雅房がポルトガル船の士官に尋ねる。

「船長や航海士などの上級士官は、人質として連れて行ったんだろう。身代金みのしろきんが取れるからな。海賊のいつものやりかただ」




イングランド人通訳が、ポルトガルの港に入るのは危険だ、と言った。『加古』が最寄りのポルトガル海岸に接近して、三十人のポルトガル人達を浜に上げた。近所に漁村があったので、彼等は大丈夫だろう。


『加古』に七十人程のユダヤ人が残る。雅房が、ジェルバ島はどこにある、と尋ねる。シチリアの近くということは地中海だろうが、片田が未来から持ってきた地図には載っていなかった。

 ユダヤ人の一人が指に水を付け、乾いた甲板に地図を描く。どうも、シチリアからまっすぐ南に行ったところのアフリカの海岸近くにあるらしい。


“地中海か、さてどうしたもんか、”雅房が考える。ユダヤ人を連れて地中海に入ってみるか、どうするか。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
思わぬところでユダヤ人とのつながりができた そして地中海進出 なんだか過ぎ展開に。 ふと気になったことが一つ 以前にイギリスで船から堺との無線での通信の描写があったと記憶してますが無線は届くんでしょ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ