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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
433/609

紅海 (こうかい)

「で、その先はどうなりましたかな」話好きな宣教師、フランシスコ・アルバレスが相槌あいづちを打つ。


 時は過ぎ、一五二〇年、エチオピアの王宮。三八年が過ぎていた。七〇歳になったパロ・デ・コヴィリャンが子や孫たちに囲まれて答えた。エチオピア人の妻をめとったのだそうだ。


「カイロで、フェズとトレムセンから来たベルベル人の商人の一団と知り合いになった。わしは以前北アフリカのそのあたりで仕事をしていたので、彼らの方言が使えたんだ。それですぐ仲良くなり、彼等に同行させてもらうことになった」

「それは、うまいこといきましたな」

「そうだ。彼らはアラビア半島とインドに行くと言っていたからな。好都合だった」

「インドに行くのですか。アフリカの東海岸に行け、と命令されたのでは」

「わしが受けた命令は”アフリカの南端を回って、インドに行けるのか、調べよ“というものだった」

「なので、アフリカの東海岸を南に下るのではないのですか」

「そもそも、インドがどこにあるか知らなければならなかった。もしかしたら、アフリカとインドの間に、もうひとつ大陸があるかもしれん」

「なるほど、そうですか。今となっては常識ですが、当時は何もわかっていなかったのですね」

「そういうことだ」




 宣教師フランシスコは、ポルトガルのエチオピアに向けた使節団に同行してきた。


 一五一四年二月。驚くべきことに、エチオピアからポルトガルに、マテウスというエチオピア人の使者が来たのだ。友好を深めたいので、どうぞエチオピアに使節を派遣して欲しいと。


 ポルトガルは翌年に使節団を派遣した。

 ポルトガルは既に、アフリカ東岸やインド西岸、ホルムズに拠点を置いていたので、紅海に入ることは出来たが、悪天候にたたられたり、インド総督のアルベルガリアが紅海の奥に入ることを拒否したりなどして、足止めをくらった。

 一五二〇年、やっと紅海の西岸に上陸した使節団が、山深くに分け入ると、プレスター・ジョンの国、エチオピアがあった。


 使節団がエチオピアの王、ダウィット二世に謁見えっけんすると、「この国にも、ポルトガル人が来ている」と言った。

 豪華に飾られた壇上に座る王は、金と銀で出来た冠を被り、豪華な金襴きんらんのマントをはおり、絹で出来た服を着ていた。そして、手には銀の十字架を握っている。


「ポルトガル人がおるのですか、それはもしや」団長のロドリゴ・デ・リマが言った。

「名をパロ・デ・コヴィリャンという、数か国語を話し、各地の事を良く知っておる。今回ポルトガルにマテウスを送ったのは、パロの提案によるものだ」

 王は、マテウスには、パロのことを教えずに送り出していた。

「やはり、そうでしたか」




「どこまで話したかな」

「北アフリカの隊商と出会って、カイロからインドに向けて出発するところです」

「そうか、カイロから紅海までは、荷物をラクダに積んで砂漠を行かなければならなかった。古代エジプトの王は、この砂漠に運河を敷いた、そうガイドの男が言っていた。本当かどうか、わからぬが」

「確かに、そこに運河があれば、ポルトガルからインドまで、船で行き来が出来そうですね」

「そうだ。どれほどの距離をラクダに乗ったか、わからぬが。紅海まで、確か五日かかった。砂漠では距離の間隔が狂うが、三十レグア(百五十キロメートル)くらいだろうか」

「紅海に出てからは、また船ですか」

「そうだ。地元でダウと呼んでいる、心細い船に乗った」

「心細いとは」

「板を縄で縛りつけただけの船なのだ。だから大きな波が来ると、船体がしなる」

「ここに来るまで、よく見かけました。あんなので大丈夫なのかな、と思ったものです。水が漏れてこないのですか」

「板と板の隙間に黒いタールをひたした布を押し込んで水漏れを防いでいる」


「紅海は細長い海だ、アラビア半島とアフリカに挟まれている。アデンまでの距離は四五〇レグア(二二五〇キロメートル)だが、幅は一番広い所でも七〇レグア(三五〇キロ)しかないという」

「そんなに奥まで続いているのですか。不思議な形の海ですね。そんな形になったのは、なにか理由わけでもあるのでしょうか」

「さて、わからぬが、ともかく紅海の向こう側はアラビア海となる。その出口のところにアデンという港があった」

「アルブケルケ将軍が攻略に失敗した港ですね」

「あの港を攻めたのか、苦労しただろう。あの港は、火山の外輪山がいりんざんに囲まれている。そしてその外輪の要所には幾つもの要塞が建てられていた」


「アデンからはアラビア海、つまりインド洋だ。広い海を渡っていくので、船は大きくなる。ところが驚いたことに、これもダウ船だった」

「柔らかいやつですね」

「そうだ。アデンにたどり着いたのが一四八八年の夏だった。ポルトガルを出て、一年半が過ぎていた。」


「ここで、わしはアフォンソと別れることになった。わしの目的地はインドだ。アフォンソはエチオピアに行かなければならない」

「そうですね」

「ところで、アラビア海にはマウスィム(モンスーン)というものがある。季節によって風の向きがはっきりと変わる。夏は南西から北東に吹き、冬はその逆だ」

「今では、ポルトガル人もそのことを知っています」

「なので、わしはすぐに旅立たなければならなかった。そうしないと、次の春まで待たされることになる。アフォンソは秋を待って、西のゼイラの港まで行き、そこからエチオピアに入ることにした。そして、それぞれの調査が終わったら、カイロで落ち合う、と決めた」


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