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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
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遭難 (そうなん)

 『川内せんだい』がイギリス海峡、ワイト島の南西沖を航海している。

 夕方から夜間にかけて、東の強風が吹いた。空は一面の雲に覆われている。『川内』は艦首を風上に向け、海錨シーアンカーを艦首から海に投下した。帆は全て畳んでいる。

 真夜中頃に風が北北東に回ったため、安宅丸が機関を作動させ、フランスの海岸に流されないようにした。

 風は夜通し吹き、明け方に弱まった。東の空が明るくなってくるとフランスの海岸が思いのほか近くに見えた。現在のシェルブールのあたりだろう。


「思ったより流されたな、危なかった」安宅丸が言う。

「あっ、あそこの海岸を見てください」後檣ミズン・マストに上がった船員が後甲板に立つ安宅丸達に言った。

「なんだ」そういって、艦尾の向こう側に横たわる海岸線を見た。

 海岸は海面から切り立った白い崖になっている。イギリス海峡の両岸はこのような地形が多い。白亜紀はくあき層の断崖だんがいである。

 海岸線に細い砂浜があり、そこに帆船が流れ着いていた。彼女も昨夜来の風に吹きつけられたのだろう。

旗旒きりゅうから、イングランドの船のようです。フランスの海岸に流れ着いています」


 崖下に吹き寄せられているので、フランス人達はまだ気づいていないようだった。あの船のイングランド人は、ぜひともフランスの海岸から離れたいことだろう。


これは、いい機会かもしれない、安宅丸が思った。


「針路をあのイングランド船に向けろ」そう命令した。


『川内』が海岸線から少し離れた所で停止し、連絡艇を出した。シンガも乗っている。

「おーい、この船はイングランドの船か」そうシンガが英語で呼びかける。

「そうだ。フランスの海岸に流れ着いて困っている」

「助けようか」

「そうしてくれると助かるが、舵が壊れているし、浸水もしている」

「イングランドまで引っ張って行こうか」

「風は弱まったが、まだ北から吹いている。無理だろう」イングランド船の船長らしき男が言った。

「大丈夫だよ、浮いていられれば、引っ張っていける。縄を投げるから、そちらで受け取ってくれ」シンガが言った。

 連絡艇がイングランド船の甲板に近づき、『川内』から延ばしてきた細いロープを投げると、甲板員が受け取った。


「そのまま、引っ張ると、太い縄になるから、そうしたら、船の頭のどこかに結び付けておくれ」と、シンガ。


 彼らが縄を手繰たぐると、たしかに錨縄いかりなわのような太いロープがり出されてきた。それを船首に結びつける。


「じゃあ、これからそちらの船を引くから。行きたい港があるのなら、そちらの向きに旗を振ってくれ。僕たちは一旦引き上げるからね」シンガがそう言って連絡艇が『川内』に戻っていった。

 まだ、あまり英語がうまくない。


 艇が引き揚げられてしばらくすると、異国船から黒い煙が吐き出された。


「ありゃあ、俺たちを助けるどころか、あの異国船、火事をおこしたようだ」イングランド船の乗組員がざわめいた。


 次の瞬間に、異国船の左右にある水車のような外輪が回り、海水をかき混ぜた。船はグイッと左旋回して、艦首を北に向けて、旋回した。

 錨綱がピンッと張ると、イングランド船がフランス海岸から離れた。


「なんだと、風上に向かって走るのか。帆も張っていないのに」イングランド船員たちが叫ぶ。船長は、なにも言わず、異国船を凝視していた。




 二隻がそのままイギリス海峡を横切り、ワイト島に接近する。ワイト島の多くの海岸も白亜の断崖だった。後続のイングランド船が白い旗を右に振る。

 ワイト島の右側を進めと言っているようだった。そして島の東端に達すると、こんどは島とグレートブリテン島の間の水道に入るように旗を振る。

 水道の入口あたりに、三つの湾口がみえた。旗はその一番左に向けて振られた。


 安宅丸が旗の指示する方向をみると、狭い湾口の右岸に木造の円柱のような塔が建っているのが見える。ラウンド・タワーである。

 彼らが入って行こうとしている港はポーツマスだった。


 ラウンド・タワーは要塞で、その目的はポーツマス港の閉塞へいそくを行うことだ。

 湾口の対岸にはブロックハウス堡塁ほうるいがある。そこからラウンド・タワーまで、海底に太い鉄の鎖が横たわっている。

 フランス船がポーツマス港に侵入しようと試みた時には、ラウンド・タワーからこの鉄鎖を引き上げ、敵船の通過を阻止する。


 入港しようとしている安宅丸達はそんなこととは知らない。しかし、敵意が無い事を示すため、『川内』の甲板から垂直に火箭かせんを一本打ち上げた。


 さらに、イングランド船との間の綱を巻き、二船を接近させる。


 そろそろと微速びそくで港内に入ると、右岸に埠頭ふとうらしき岸があった。埠頭にイングランド人が集まり、歓声を上げている。

 イングランド船をけん引していたロープを切断し、それを埠頭に向けて投げると、彼らがそれを取り、イングランド船を埠頭に引き寄せた。


『川内』は埠頭から少し離れた所に停止する。錨を降ろし、敵意が無い事を示した。


『川内』が外輪船であったことを忘れていました。

スクリュー船であるかのような描写があったので、訂正しました。


異国船の艦尾あたりの海水が立ち騒ぐ。

>異国船の左右にある水車のような外輪が回り、海水をかき混ぜた。


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