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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
414/607

不時着水 (ふじちゃくすい)

 紀州水軍の船は、『関船せきぶねの原型』である。後世の関船は、船体のほぼ全長に渡って矢倉やぐらとよばれる甲板を張った船室のようなものがあった。

 船の上に大きな木製の箱があるような形だ。


 銀丸と『ひばり』が眼下に見下ろす船は、箱の側面はあるが、天板がない。

 木製のたてで、船の周囲を囲んでいるばかりだ。


古鷹ふるたか』と『加古かこ』の高い甲板から、丸い玉が箱のなかに投げ込まれる。上空から見ていると、投げ込まれた玉がはじけ、箱の中に、煙のようなものが舞う。

 船を囲うように立てられた盾が材木で突き破られ、海兵が軍艦から水軍船に乗り移る。


 中では、そうとうやらかしているだろう。


 やがて、なにかを運び出して来て、前檣フォア・マストに吊り下げる。人のようだ。何か叫んでいるので生きている。

『古鷹』が次の目標に向かう。船隊最右端の緑色の吹き流しを上げている船だ。


 そうして、各戦列の先頭船を行動不能にしてゆく。次々に先頭船をやられていく後続船は、列を乱して、四散しはじめる。

 風向が南南西なので、地ノ島か、紀伊半島岸に向かうしかない。


「だいたい、終わりかな」海上を観察していた銀丸しろがねまるが言った。

『ひばり』が戦場の状況を報告すると、『阿賀野あがの』から、帰投きとうせよと言ってくる。

「帰ってこい、って言ってるわ」『ひばり』が銀丸に伝えた。銀丸が機首を北西に向け、高度を取る。



 地ノ島より高い高度を取った時だった。急にエンジンがき込み、止まる。

「あれ、止まっちゃったよ」銀丸が言った。

「どういうこと」『ひばり』が尋ねる。

「わからない。燃料はまだあるはずだ」

「どうなるの」エンジン音が無くなり、機体が風を切る音しかしない。

「『ひばり』ちゃん、泳げるか」

「なに、それ。泳げないわよ。機体、沈没しちゃうの」『ひばり』が叫ぶ。彼女は山育ちだった。生家は福良ふくら港と、三原みはら平野を結ぶ峠あたりにある。

「冗談だ。ちゃんとやれば、エンジンが止まっても着水できる。ちょうどいいので、無動力着水の練習をしよう」

「おどかさないでよ」


 飛行艇操縦時の様々な危険性について、座学では習っている。しかし、いざ、その場になってみると、そのようなことは吹き飛んでしまう。


「左肩の後ろに棒が二本立っているの、覚えているか」

「覚えているわ、前席用の操縦桿そうじゅうかんでしょ」

「長い方を取って、両足の間の接手ジョイントに繋げてくれ」

「練習の時は短い方を使ったけど」

「ああ、でも今は細かい操作が必要なので、長い方を使う」


 複座飛行艇は、操縦の練習にも使えるので、最近では前席にも操縦系や計器が供えられるようになっていた。

 通常の偵察では、操縦桿を外し、無線や筆記に便利なようにしている。また、練習の時には短い操縦桿を使わせる。

 これは、慎重な操作を覚えさせるとともに、前席がおかしな操作をしたときに、後席の長い操縦桿の方で、その操作を無効にするためだ。


「繋がったわ」

「よし、じゃあ、操縦桿をわずかに左右に動かし、その後に前後に動かしてみて」


 機体が左右に、そして前後に動く。


「大丈夫みたいだね。じゃあ説明を始める。まず、機体は旋回させない。『阿賀野』から離れた所に着水しても、無線があるから、向こうから来てくれる。いいね」

「わかったわ」

「次に無動力着水で大事なのは、エンジンで高度が調節できないということだ。高度は操縦桿だけで調節する」

「わかるわ」

「そうすると、速度にも注意しなければならない。習ったと思うけれど、飛行艇では速度と高度は取引関係だ」

「習ったわ」

「だから、重要なのは、大気速度計と昇降計を常に交互に見続けなければいけないということだ」

「速度計と昇降計を交互に見続けるのね」

「そうだ。そして、対気速度計は、時速九十キロから百十キロメートルの間にすること。絶対に七十キロ以下にしないことだ。七十キロ以下になると失速しっそくする。もし失速したら機首を下げるんだ」

 失速とは、翼が浮力を失うことを言う。失速速度以下になると、航空機は急速に落下をはじめる。

「速度計、九十から百十守る」

「そして、昇降計の降下速度を秒速五十センチメートル以内にする」

「昇降計、五十センチ以内」

「そうだ、この範囲を守って降下してゆき、水面に近づいたら、機首をほんの少し上げて、降下速度を下げる。着水。これでいける」

「わかったわ、やってみる」

「じゃあ、速度が百十を切ったら、フラップを十に、ついで二十度にまで下げよう」


『ひばり』がフラップを降ろした。

 銀丸が見守っていると、対気速度計が、九十と百十の間を行ったり来たりする。降下速度が大きくなりすぎると、『ひばり』が操縦桿を手前に引く。そうすると、大気速度が九十を切りそうになる。操縦桿を押す。その繰り返しだ。

 銀丸は右手で操縦桿を軽く触り、『ひばり』の操作を確認し続ける。


「水面が近づいてきた。優しく手前に引いて、降下速度を零にする」

『ひばり』が操縦桿を引く。水音がして、着水した。


「よくやった」銀丸が称賛しょうさんする。


『ひばり』が操縦桿から右手を放す。てのひらを見ると、びっしょりと汗で濡れていた。




 その日の海戦は片田商店側の勝利になる。紀州水軍はさかいに上陸できなかった。そのため、堺南方の紀州軍は正覚寺しょうがくじの本陣に合流出来ない。

 細川政元まさもとが派遣した、上原うえはら元秀もとひで安富やすとみ元家もといえの軍が、正覚寺の北方に到着すると同時に、高屋城たかやじょうから畠山義豊よしとよの軍が出て来る。義豊は越智おち家栄いえひでらの派遣軍ととともに畠山政長まさながの軍と激しく衝突し、これを退ける。

 高屋城を包囲していたはずの足利義材よしき、畠山政長の軍は、逆に包囲されることになり、正覚寺に籠城ろうじょうした。


冬休みをいただきます。

期間:2024年12月21日(土)~2025年1月7日(火)

次回の掲載は1月8日を予定しています。



あ。あと、数日前から『ChatGPT serch』というものが無料で使えるようになったそうです。最初の『無料版ChatGPT』は、数年前までの情報しか学習していませんでしたが、serchは先月のトランプ氏勝利を知っていました。

『Google検索』のようにWeb上を検索した後に、その結果を要約しているようです。


 さっそく、『片田順』の評判を尋ねてみました。

弥一:『小説家になろう』で連載中の『戦国の片田順』の評判を教えてください


ChatGPT:

ChatGPT

『戦国の片田順』は、弥一氏による歴史転生小説で、日本陸軍の砲兵士官が室町時代に転生し、現代知識を活かして道具を作り、応仁の乱の勝者となる物語です。

【小説家になろう】


読者からは、主人公の知識を活かした道具や食事の再現が高く評価されています。また、村人たちの成長や、主人公の周囲が自然に変化していく描写も好評です。一方で、製造過程の詳細な説明が多く、冗長に感じるとの意見もあります。

【MARO BLOG】


総じて、歴史や技術に興味がある読者から支持を受けている作品です。


 ようやく、認知してもらえました。なお、【】はリンクを表しています。

それでは、よいお年を。


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