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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
413/607

上空 (じょうくう)

 東から西にびる和泉いずみ山脈は城ケ崎、田倉崎たくらざきで海中に没する。その先は加太かだノ瀬戸という狭い水道になり、さらに西にノ島、友ヶ島が続き、友ヶ島水道を経て陸に出る。淡路島の南側には諭鶴羽ゆづるは山地が東西に延び、鳴門なるとの瀬戸を越えて、四国の讃岐さぬき山脈に続いている。

 この東西に切れ切れと伸びる山脈は、古代に海洋プレートが地中に潜り込んだ際に地上に残された堆積物である。

 地学では付加体ふかたいと呼ばれている。


 太陽が東の和泉山脈の上に出た。飛行艇母艦『阿賀野あがの』が針路を南南西に向け機走を始める。

 飛行艇を射出するために、風上に向かって速力を上げている。甲板上のカタパルトでにぶい爆発音が鳴り、飛行艇『千鳥ちどり二号』が空中に発射される。


 少し高度を下げた飛行艇が、海面に達する前に浮力を得て上昇を始める。目指しているのは、友ヶ島水道の方向だ。


「こちら、『千鳥二号』。射出は成功だ。これから高度を取って『紀の川』河口を目指す」銀丸しろがねまるが共用周波数で報告する。風は南南西、向かい風だった。


 安全な高度が得られた『千鳥二号』が左旋回し、友ヶ島と地ノ島の間に針路を向ける。両島の間に水面はあるが、ここは浅すぎて、潮の流れが速いときには船が通ることは出来ない。

 その瀬戸を過ぎると、目の前に田倉崎が大きく見える。


「何か、見えるか」銀丸が『ひばり』に尋ねる。

「まだ、なにも」


 まだ朝日が低い位置にあるので、岬の影が海面に長く伸びている。


「あ、見えた。船だ」

「船団を発見。隻数六十か、それ以上。針路は北西」『ひばり』が無線機で報告する。

「どっちを通りそうだ」無線機から問いかけがある。


 事前の打ち合わせで、船団が北上してくる場合、東の加太ノ瀬戸を通るのか、それとも友ヶ島水道を通るのかが重要だ、と言われていた。


「まだ不明。田倉埼を回るまで、どちらにいくかわからない」

「了解した」


 飛行艇が田倉崎を過ぎ、眼下がんかの船団の全体像が見えてくる。先頭に一隻の大きな軍船が航行している。これが先導船のようだ。その後に六列の縦隊が並ぶ。それぞれの先頭を走る船が、その後ろに続く船隊を指揮しているのだろう。

『ひばり』が船隊の隊形を報告した。




「どっちを通りそうだ」

「まだだってば。まだ岬に着いていないもの」

「そうか」


『ひばり』が送話器マイクロフォンを膝に押し付けて、操縦席の銀丸にボヤく。

「しつこいなぁ」

「向こうは、見えているわけじゃないんだから、しかたないさ」銀丸が答える。


「聞こえているぞ」『ひばり』の受話器ヘッドフォンから相手の声が聞こえる。


「あぅ、しまった」

 さすがに、送話器の向こうの通信士は、それ以上聞いてこなかった。


 紀州の船団が岬を過ぎる。先頭の船が右に船首を振った。四角い横帆に南南西の風を一杯に受けているようだ。このままの勢いで東側の加太ノ瀬戸を突っ切ろうとしていようだ。


「どうしよう、報告しようか」『ひばり』が銀丸に相談する。

「もう少し待て、確実になってからでないと、取り逃がすことになる」

「そうだね」


 船団の第二線も北に針路を向けた。紀州の船は風上に間切まぎれない。先頭の船は、もう友ヶ島南岸に回れない位置に来ている。

「『ひばり』、もういいだろう。報告しろ」

「こちら、『千鳥二号』。紀州の船団は地ノ島東の加太ノ瀬戸を通過する」

「承知した。よくやった。しつこくってすまなかったな」

「あっ。いえ、ごめんなさい」


 通信士からの報告が『古鷹ふるたか』、『加古かこ』両艦長に伝えられる。『古鷹』が、紀州水軍の先頭船を、『加古』が、二線最左列を攻撃することに決定した。

 二艦が機関を最全速に上げ、加太ノ瀬戸を目指す。


 紀州船隊からは、間に地ノ島があるため、二艦を見ることは出来ない。


 紀州船隊の先頭船から見た時、左舷側の地ノ島の陰から二隻の巨艦が突然現れたように見えた。十六門の砲口は、すべて開いている。

 相手の先頭を走る艦が発砲した。と、思ったら、自船の帆がずたずたに引き裂かれた。

 石が当たったのか、甲板に倒れ込む船員が数名いる。


 敵艦がこちらに船首を向ける。敵甲板の水兵が幾つもの丸太のようなもの持ち上げる。丸太から煙があがる。

 多数のもりのようなものがこちらに向かってくる。銛の尾には縄が結び付けられていて、飛跡ひせき辿たどるように伸びる。

 銛が自船の甲板に落ちる。見ると先端に刃先はついていなかったが、代わりに逆爪さかずめが付いている。


 敵の水兵が蜘蛛の巣のように広がる縄を手繰たぐる。両船が近づき、ついに舷々(げんげん)が相摩あいました。


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