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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
412/607

軍議 (ぐんぎ)

『紀の川』河口に六、七十隻の軍船が集結していることが、『ひばり』の観測で判明した。


 さかいの東部において、赤松正則まさのりの軍と、紀州より北上した軍が対峙たいじしている。紀州軍は正覚寺しょうがくじに本陣を置く将軍足利義材よしきと畠山政長まさながの軍に合流しようとしている。

 細川政元まさもとの姉をめとった赤松政則は、日野富子、政元側に寝返った。赤松の目的は紀州軍の足止めであり、決戦ではない。

 そこで、紀州側は水軍を堺付近に上陸させ、赤松軍の背後をこう、という意図なのだろう。


 堺の片田商店は、情勢をそのように判断した。


 その判断の上で、軍議ぐんぎを開く。紀州水軍を見過ごすか、それともこれを迎撃するか。迎撃すると、和泉いずみ淡路あわじ共和国は政元側につくことになる。


「迎撃だな。正覚寺の将軍は民心みんしんを失った」石英丸が言う。

「そうだな、正覚寺の兵は櫛の歯を引くようにみやこに戻っている。残っているのは将軍側近と左衛門守さえもんのかみの軍ぐらいだろう」畠山政長の事である。

「中立のままでも、結果は同じではないか」正四位下しょうよんいのげ兵部卿ひょうぶきょう片田順が言った。

 皇居の復旧復興、多数の寄進、御所の防衛などで、ずいぶんと出世している。畠山政長が従四位下じゅよんいのげなので、官職上では片田の方が上だ。ただ、くらいが上がっても、実質的な利点がなにも無いのは残念である。


「今後、九郎殿と共同していくためには、ここで旗幟きしを明らかにしておいた方がいい」鍛冶丸かじまるが言う。

茸丸たけまるはなんと言って来ている」片田が尋ねる。鉄道が運休しているので、片田村から無線で意向いこうを伝えてきている。

「戦闘を早く終わらせるに越したことは無い、と言って来ている」

「私も同じ考えだけど、戦闘に加わるのは、どうかしら。戦争になれば、かならずうらみを残すことになるわ」『ふう』が言う。


兵庫ひょうごの大内はどうしている」片田兵部卿が言った。

「兵庫片田商店の明石屋三郎が無線で言って来ている。大内は兵庫で止まったままだ」

「大内は大軍だからな、どう動くかで勝敗を決することになるだろう」

「もし、ここで赤松が負けたとしたらどうなる」

「大内が、京都から出発した上原うえはら安富やすとみの軍に背後から襲い掛かれば、大変なことになるな」

「大内ならば、やりかねないな。ミンとの貿易で細川と争っているし」確かに大内政弘まさひろならば、そのように動くかもしれない。しかし、兵庫の陣にいるのは、彼の息子、都育ちの大内義興よしおきという若干十七歳の若者だった。


堺の片田達は、大内軍の大将が義興であることを知らない。

「そうなると、大惨事だいさんじになるかもしれない。『応仁の乱』の再来になるかも」

「それは、嫌ね」と、『ふう』。


「では、迎撃するということか」

「そうだね」軍議が決した。

「迎撃するにしても、なるべくうらみを買わない方法で行おうではないか」兵部卿なだけに、余裕のあることを言う。

「どういうこと」

「昔と同じだ。岩礫いわつぶて砲で帆を破り、船足ふなあしを止めた後で、山椒玉さんしょうだまで目つぶしをして、木刀ぼくとうで白兵戦を行い大将を捕縛する」

「まあ、今は航空眼鏡も使えるし、それでいけるだろう」鍛冶丸が言った。




 友ヶ島北方沖。

 河内偵察のために、遊弋ゆうよくする飛行艇母艦『阿賀野あがの』の近くに二隻の艦影かんえいが加わる。

『ひばり』の報告により、由良ゆら港より出航して、友ヶ島付近まで出てきていた艦で、片田達の軍議の結果を待っている。


 初のスクリュー式軍艦『古鷹ふるたか』と『加古かこ』である。スクリュー式にしたことにより、艦首から艦尾まで、全舷側げんそく砲門ほうもんを設けることが出来るようになった。二段の砲甲板ほうこうはんを持っている。

 片舷へんげん二段八列。左右舷合わせて三十二門を備えた砲艦になった。


 艦名は、旧日本海軍初の重巡洋艦じゅうじゅんようかんから、いただいた。




「ここは海の上だぞ。岩礫なぞ、そんなもん、どこにあるんだ」『古鷹』艦長が言った。

「艦底部のバラストを使え、と言ってます」

「あの、汚い砂利をぶっぱなせというのか」艦長が呆れる。そんなものを放たれる敵艦に同情したくなるぐらいだ。ネズミの死骸しがいも一緒に飛んでいくだろう。


「で、航空眼鏡と防塵帯マスクとかいうものは、どうする」

福良ふくら港に、航空訓練用の物が百程あるので、それを飛行艇で送ると言っています」

「木刀は」

さや付きのままでも、峰打みねうちでもいいそうです。とにかく殺すな、ということです」

「山椒玉とかいうものは」

「堺にあるので、これも飛行艇で三百程送ると言っています。敵船団の親玉おやだまと幹部の船、六隻か七隻だけを相手にすればいいので、それで十分なはずだ。だそうです」

「それと、堺が送ってくれる山椒玉は最新式だそうです。山椒粉だけではなく、胡椒こしょう粉も混ぜてあるので、効果てきめんだとのことです。『山椒玉二.〇にいてんれい』というのだそうです」

 艦長がうなる。

いくさをわかっておるのか、堺は」

「艦長、お言葉ですが、彼らは、応仁の時に、多くの経験を積んでいます。実際その方法で数多あまたの軍船を捕獲しています」

「それを言われるとのぅ」


 確かに、軍艦の訓練課程のなかに、そのような教練きょうれんも含まれているが、艦長は過去の遺物いぶつだと思っていた。

これだけの砲を備えているのに、山椒玉と木刀による白兵戦が緒戦になるのか。情けない。


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