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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
386/611

謁見(えっけん)

 国王ナーヤカふとった老人だった。肌の色は浅黒い。安宅丸あたかまるは、イブラヒムに導かれて、室内に入り、指定されたところで、深く一礼した。国王が起き上がり、寝椅子に座り直す。


 安宅丸の左右には、身分が高い人々が、同じように寝椅子に横たわっていた。彼らも皆起き上がる。中にはムスリム商人らしき男もいる。ムスリムも、この社会で一定の地位を占めているようだった。

 身分の低い者は、入口近くに立っている。


 挨拶あいさつが終わると、国王が安宅丸達に果物くだものを勧める。安宅丸は、片田から託された書状と、金のべ板一枚をイブラヒムに渡し、国王に捧げたい、と申し出た。


 片田からの書状は日本の言葉で書かれており、通訳がマラッカ語と、当地のマラヤーラム語に翻訳した物が添えられていた。


「片田というのは、王ではなく、商人なのか」書状を読んだ王が尋ねる。

「はい、そうです」安宅丸が答える。

「なるほど、で何を望んでいるのか」

「その書状に書かれている通り、末永い交易です。そして、海岸の近くに商館を一つ開くことを望んでいます」

「ふむ。それならば、シナの商人も、ムスリムの商人も、同じようにしている。別段問題はないであろう。どこか空いている土地を購入し、商館とするがよい」

「ありがとうございます」


 王が書状と共に渡された、金の延べ板を見る。

「これは」

「それは、お近づきのしるしでございます。もしよろしければ、おおさめください」


 王が金の延べ板を見つめる。“港湾管理官達は、五つの延べ板を見た、と言っていたが、持ってきたのは一つか”。

 王が、末席の方に立っていた四人を見る。港湾管理官達がモジモジしていた。

 彼らは十の延べ板を安宅丸に見せられていたが、この後にアフリカまで行くと聞いていたので、カレクトに落としていく金は、その半分くらいだろう、そう思って、五個の延べ板を見た、と報告していた。


「わかった、いただくことにしよう」王が言った。

「ありがとうございます」安宅丸が礼を言う。

「ところで、多くのピアン・チヤンを持ってきているそうじゃな。売るのか」ピアン・チヤンとは眼鏡メガネのことである。

「はい、もしお許しをいただけるのであれば、この地で売りたいと思います」

「ずいぶんと安い値段で売ろうとしているようだが」

「はい、私共わたくしどもが国で売っているのと同額で販売いたします」

「シナ人が持ってくるピアン・チヤンよりも、ずいぶんと安いと聞いたがなぜだ。シナ製品のまがい物か」

「いえ、ミン人が、われわれの眼鏡を真似まねして作ったのです。眼鏡を発明したのは、片田です。彼はそれで財をなしました」

「そうであったか。で、なぜ安い」

「片田が言うには、生活に必要な物で、大儲おおもうけをしてはならない、とのことです」


 宮廷にいた、イスラム教徒達がざわついた。“『カタダ』はイスラム教徒なのか”。安宅丸は、それを無視して続けた。


「もうひとつ、持参した物があります。これも金と同様に、お納めください」

「なんだ」

 安宅丸が背中に背負しょった風呂敷包ふろしきづつみを外し、中から鏡を取り出した。

「この鏡はいかがでしょう」


 王が身を乗り出して、その銀色に光る板を見た。イブラヒムが、それを王の元に届ける。

「これは、この板に移っているのは、わしか。ということは鏡だが、これほどはっきりした鏡はみたことがない」

「それも、お納めください。おきさきさまが、お喜びになるかと思います」


 王が、女性を一人呼んで、鏡を見せる。中をのぞくなり、目を丸くして驚き、ほほに手を当てた。その手の動きまで本物そっくりであった。顔をあからめて、王の方を見る。

「これを、私にくださるのですか」

「いや、そち一人ではない。皆で使うがよい」王が言った。

 女性が少し残念そうな顔をする。


「お妃さまは、何人いらっしゃるのでしょう」安宅丸が尋ねる。

「七人じゃ。それがどうした」

「では、明日、あと六枚の鏡を届けさせましょう」

「いいのか。そうしてくれると助かる」

「少しですが、鏡も積んでまいりました。ここの市場で売ろうと思っています」

「ずいぶんと、珍しい物を持ってきたのじゃな。よかろう、好きな物を売るとよい」



「はい、ついては、一つお願いがございます」

「なんだ」

「眼鏡も、鏡も、私の国の値段で売ります。しかし、それには条件があるのです」

「言ってみよ」

「取引は、金か銀のみです」

「金、銀といっても、商品が安いのであれば、特に問題あるまい。それであれば、当地の商人がまとめて買い上げて、ふたたび民に販売する形になるであろうがな」

「それで、かまいません」

「よし。では、その条件も認める。安いピアン・チヤンが入ってくれば、この国の年寄り達が喜ぶであろう」


 この地には、金も銀も比較的豊富にあった。古代ローマ時代以来、一貫してヨーロッパ、アフリカの金銀がインドに流れ込んでいた。彼らはそれで、胡椒、絹、真珠、宝石、香料、陶器などを買っていた。

そして、金銀の一部は、さらに中国や東南アジアに流れていく。


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