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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
382/611

ラジコン船

 鍛冶丸かじまるには、三人の孫がいた。いずれも男の子だ。上から十三歳の鉄丸くろがねまる、十一歳の銀丸しろがねまる、十歳の銅丸あかがねまるという。

 鍛冶丸がそう名付けたが、誰もそのように呼ばない。『てつまる』、『ぎんまる』、『どうまる』で通用していた。


 淡路島の夏だった。雲一つなく晴れて、柔らかな風が吹いている。


鍛冶丸が、彼の実験室から続く土間にいる。土間は一方が外に開かれていて、南東の方角に福良港ふくらこうが拡がっている。福良港を出て、少し行けば、すぐに渦潮うずしおで有名な鳴門なると海峡に出る。


「じいちゃ、送信機トランスミッター受信機レシーバーCR発振器はっしんきを二個ずつ借りて行ってもいい」一番下の銅丸が言った。末の銅丸が、一番鍛冶丸に可愛がられていた。何か頼みごとをするときは、彼が担当する。

 CR発振器とは、コンデンサと抵抗器レジスターを組み合わせて低周波ていしゅうは正弦波せいげんはを発振する装置の事だ。

「ああ、いいぞ。何するんだ」

「船を遠隔操縦えんかくそうじゅうするんだよ」と、銅丸。

「遠隔操縦、ああ、電波を使ってか。どうやってやる」

「CR発振器で正弦波せいげんはを作り、送信機の音声入力に繋げる。それをこの開閉器スイッチボックス電波搬送でんぱはんそうするんだ」銀丸が言う。

 鍛冶丸が見ると、小さな四角い箱に押しボタンが二つついていた。

「左と右が、それぞれ取舵とりかじ面舵おもかじになるのか」

「そうだよ、で、それを船にせた受信機で受信して、継電器リレーを使ってモーターを回す。右ボタンで右回転、左ボタンで左回転する」

「ほう、それで」

「ギアとラックで横方向の運動に変えて、舵柄だへいを左右に動かすんだ」鉄丸が最後にまとめた。


「面白い事を考えたもんだな。そりゃ、じいさんも見学にいくか」そういって鍛冶丸が立ち上がる。




 送信機、受信機、発振器などは、短距離のものならば弁当箱くらいの大きさになっていた。電池も含め、いずれも規格化きかくかされていて、色々な用途に使えるようになっている。鉄丸がそれらをまとめて、背負子しょいこくくり付けた。




 四人が浜に出る。『福良丸』という、三人が乗れそうな和舟が浜に上げられている。焼玉やきだまエンジンを搭載していて、スクリュー推進の小舟だった。


 鉄丸が背負子を降ろし、銀丸が砂浜にむしろを敷く。銀丸と銅丸がそこに電池、発振器、送信機を並べて接続する。鉄丸は受信機を持って船に乗り込んだ。鍛冶丸も鉄丸の後に続く。

 鉄丸が電池と受信機をつなげ、音声出力を継電器リレーに繋げる。二つのリレーはモーターの正逆回転スイッチになっていた。


 無線電波は微弱だが、受信機の中の二極管にきょくかんがそれを検波けんぱして直流信号に変更し、三極菅さんきょくかんがその信号を増幅して継電器を動作させる大きさの信号にする。


 モーターやギアは、すでに舶載はくさいされていた。船底に左右に動く水平板が置かれており、モーターなどはその上に固定されている。

 モーターに小さなギアが付けられ、それが大きなギアを回す。大きなギアは左右方向に固定して置かれた直線のラックギアに繋がっている。ラックギアの一方は直線歯車だ

 モーターが右回転すれば、水平板が左に、左回転すれば右に動く。

 水平板に舵を動かす舵柄が連結されているので、モーターの回転により、舵の向きが変わるようになっていた。


「これは、いかん」鍛冶丸がいった。

「どういうことだ、じいちゃ」

「舵が固定されていると、いざというときに、どうにもならん。舵はいつでも取り外せるようにしておかなければ、あぶない」

「そうか、なるほどな」

 二人がその部分を応急で改造する。舵柄を上に持ち上げると、水平板から外れるようにした。


 浜の方の準備も出来たようだった。銀丸が電線の付いた竹の棒を浜に立ててアンテナ代わりにする。鉄丸が受信機を起動して、浜の銅丸達に言った。


「舵を試してみてくれ」

 銅丸が開閉器ボックスの右のボタンを押した。舟のモーターが音をたてて回転し、舵が右に切られた。

「反対側も試してみよう」

 銅丸が左のボタンを押す。舵が戻り、さらに取舵になった。

「大丈夫そうだな、中央に戻しておいてくれ」鉄丸が言う。


「エンジンに火を入れる」鉄丸が言う。

 鉄丸は舟の前の方から、アセチレンランプを取り出し、ランプの脇にあるネジを少し回す。ランプ上部の水タンクから水がしたたり落ち、ランプ下部のタンクに密閉されているカルシウムカーバイトを濡らす。カーバイドからアセチレンガスが噴き出し、それがランプ前部の開口部から吹き出してくる。

 鉄丸がマッチを使ってアセチレンに着火する。

 ちょろちょろとした赤い炎が揺れる。ネジをさらに開くと、アセチレンの発生量が増えて、やがて青い炎が轟音ごうおんを立てるまでに強くなる。


 その炎をエンジン上部の焼玉にあてて、加熱する。炎があたる部分の焼玉が赤く光る。

 焼玉が十分に加熱されたな、と思った鉄丸は、エンジンヘッドを閉めて、焼玉をエンジン内にじ込める。ついで排気コックを開き、シリンダー圧を開放し、『はずみ車』を使って、クランクシャフトを回転させる。

「始動するぞ」鉄丸が言う。

 彼が排気コックをじ、同時に吸気弁きゅうきべんを開いて、エンジン内に燃料を噴射させる。


 ボンッ、ボンッと低い音が数回して、そのあとは軽快なポンポンという音が続いた。始動した。


「さあ、試してみるか」鉄丸が言って、舟を降りる。舳先へさきを押して、舟を海に向かって押し出す。銀丸も銅丸も手伝った。


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― 新着の感想 ―
あぁ、特攻ドローンの誕生ですな アンテナだけ水上に出した半没挺にすれば誘導魚雷まで後一歩
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