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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
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サトウキビ

 バリタ湾に面したコクレの村で、茜丸あかねまるが作った人痘じんとうワクチンの安全性が確認された。これを周囲の人口稠密ちゅうみつ地帯に配布することにする。


 西暦一四九一年当時の中南米地域には、いくつかの文明地帯がある。

 まず、北にはアステカとミチョアカンがあった。アステカはメキシコシティ付近で、太平洋と大西洋の両岸に接している。ミチョアカンはアステカの西に位置していて太平洋岸に面している。


 マヤはユカタン半島の文明で、比較的パナマに近かったが、この頃には衰退して小さな村に分かれている。こちらは大西洋岸なので、今の所たどり着くことは出来ない。


 南のインカは、現在のエクアドル、ペルーあたりの文明で、これも太平洋岸に接していて、交易をすることができる。


神通じんつう』から堺の茜丸にてて、人痘ワクチンの増産が依頼されると同時に、『神通』達の帰還を待たずに、ワクチンが納品されしだい、次の艦隊をパナマ湾に派遣するように指示が出た。


『あめりか丸』と『ぱなま丸』がサン・ホセ島にあるワクチンの在庫を持って、南北に向かった。




 コクレの村の端、河口のマングローブを切り開いたところに、土地を得ることが出来た。そこに片田商店パナマ支店を作る。支店の前に肥料『ある』『なし』畑を作る。博多支店と同じだ。

 犬丸はサン・ホセ島にサトイモ、バナナ、サトウキビを持ち込んでいた。どれも良く育った。特にサトイモは六カ月でたくさん収穫できる。

 そのサトイモやカブなどの野菜を支店前の畑に植えて育てて見せた。


 コクレの村でも、労働はあった。しかし、現在の我々が考えるような労働とは少し異なる。

 海に行けば、必要なだけ魚が獲れる。農業は粗放そほうなもので、土地に種を撒いて、自然にまかせる。

一番労働らしいのは、製塩だった。

 海藻を海から採って来て、浜辺で干す。乾いたらかめの中の海水に漬けて、塩を溶かす。引き揚げた海藻を海に持っていき、海水に浸して干す。それを繰り返すと、甕の中の海水の塩分濃度が高まる。

 十分に塩分が濃くなったところで甕を火にかけて水分を飛ばし、塩を得る。

 塩はコクレ村の収入源だった。内陸の村に持っていき、カカオの実や布と交換する。


 カカオの実や布は、この地域の通貨として通用した。もっと高額の通貨としては、青銅製のおののような形をした貨幣かへいもあったが、めったに必要になることはなかった。




 片田商店にコクレの二人の男が来ていた。一人は老人だ、祭りの時に大量の鳥の羽を付ける長老で名前はクアウトルという。『木の幹』という意味だ。もう一人は若い男で、次の長老になる予定の男だった。名前はウエヤトル、『海』という意味だ。

 犬丸達も簡単な会話ならば出来るようになっていた。


「もっと翡翠膏ひすいこうが欲しい、というのか」犬丸が言った。二人がうなずく。翡翠膏とは、翡翠化粧品のことだ。

「しかし、太陽が生まれ変わるごとに五百缶の翡翠膏を贈ることになっている。それでコクレ村には十分な量ではないか」

 太陽が生まれ変わる、というのは一年と言う意味だ。

「実は、翡翠膏が高く売れるのだ。内陸の村でな。缶一つで銅斧どうふ一つと交換できる」

「銅斧一つって、どれくらいの価値があるんだ」

「銅斧一つは、カカオ八千個と交換できる」

「八千とは、ずいぶん多いな。でも八千個といわれてもよくわからない、どれくらいなんだ」

「内陸の村に塩を運ぶとき、一人を一日雇うと、カカオ二十個だ」

「ということは、銅斧一つが、一人の一年分の働きに相当するということだな」

「そんなところだ」


 片田や犬丸からしてみれば、ワクチンを交易して拡散してくれるのは、願ってもない事だった。

 しかし、どうせならば商売につなげたい。

 犬丸は、銅斧に興味はない。しかし、カカオならば、今は無理だが、将来は国に持ち帰ると高く売れるようになるかもしれない。すでに片田がチョコレートとココアを試作させている、と無線で言っていた。評判はよいそうだ。今すぐに大量のカカオが来ても困るが。


「実は翡翠膏は、コクレにだけ贈っているのではない。アステカやインカにも贈っている。それで数に限りがあるのだ」

 二人もアステカ、インカという国があることは知っていた。

「しかし、それほど高く売れるというのであれば、ある作物を栽培してくれれば、交換しても良い」


 二人が不思議そうな顔をした。



「何を育てればいいんだ」

「私が西の国から持ってきたキビだ。サトウキビという。近くの島で栽培してみたのだが、よく育つ。ここでも、簡単に増やせると思う」

「それならば、試してみよう」


 これがうまくいけば、砂糖が手に入る。砂糖は今でも高く売れる。カカオは、今は知られていないが、将来高く取引されるかもしれない。犬丸も飲んでいたが、カカオ茶は旨かった。いずれ、国でカカオ茶が流行れば、その時はカカオと翡翠膏を交換できるだろう。


 それと、こちらの方が重要なのだが、もしかしたら、この村の人を労働力として雇用こようするきっかけになるかもしれなかった。

 犬丸が見る限り、この村の人は、衣食住に不自由していない。従って自分に必要なものが満たされていれば、多くの人が、それ以上の労働を行わない。

 この二人のように、より多くの富を手に入れようと考えるのは珍しい。彼らは村を治めるために、銅斧という貨幣を必要としているのだろう。

 彼は現地の労働力を必要としていた。土木事業をおこそうとしている。しかし、そのためには働いてくれる人々が必要だった。

 


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