表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
367/617

セマン



 島の船着き場が近づく。丸木と板で作られた簡単な物だ。子供達らしき人々が船着き場に集まっていた。やはり安宅丸あたかまる達が来ることは知られていたらしい。


 舟が近づいた。子供ではなかった。皆身長一メートル程度だったが、ひげを長く伸ばしている者がいる。これが『小さな人』なのか、安宅丸が思う。

 バタックの漁師がもやづなを投げると、それを拾い、船を引き寄せてくれた。


 安宅丸とシンガが上陸する。皆同じような身長だったが、よく見ると、少し小さい者もいる。これが子供なのだろうか。つえを持ち、髭を長く伸ばした男が前に進み出て来た。

「よく来た。カタダの衆よ」その男は海岸地方の言葉で語りかけた。シンガにも理解できる。

 安宅丸が驚く。

「『じょん』をご存じなのですか」

「会ったことはないが、知っておる。北の方角では、もっとも目立つ男だからな。今は、……東の方にいっておるようじゃが」

“セマン様は、なんでも知っておられる。遠くの事もわかるのじゃ”とバタックの長老が言っていたのは、こういうことか。安宅丸が思った。

「わしは、ヌサ・ニパ。セマンのおさじゃ」


 二人が船着き場の奥にある祭壇さいだんにいざなわれる。その前に立ち、ヌサ・ニパがこちらを向き、瞑想めいそうする。

「西から、白い人が攻めてくる、というのか」

「えっ、なんでわかるのですか」安宅丸が言う。

「黙っておるが良い」


「さてと、西と言えば、ムスリム達のことしか感じたことは無いが。白い人達とは、ムスリムより遠い所からやってくるのか、少し待っておれ」

 ヌサ・ニパが西を向き、目を閉じる。




「荒々しい民じゃの。自らの力で羅馬ローマを滅ぼしたはよいが、以来一千年も海賊やムスリムと闘い続けて来た者達じゃな。その男達が黒い人々が住む大地を回って来る、というのか」

「そして、火をく船をって、各地に要塞ようさいを築く」

「王を殺し、民を奴隷にする。奴隷が死ねば、黒い人を連れてくる。なるほど」


「で、それを押しとどめよう、というのだな。カタダが」


 安宅丸がうなずく。

「押しとどめて、どうする」ヌサ・ニパが安宅丸の方を向いて尋ねた。

「それは、わかりません」

「そうか、まあ、よかろう。で、アヌマの束を持ち帰れといわれておるのじゃな」

「その、ヨモギ湯の元になる草を持ち帰れ、と言われています」

「アヌマをせんじてヨモギ湯をつくるのじゃ。用意してあるので、持っていくが良い」

「ありがとうございます」

「アヌマの種も与える。持って帰って栽培するがよい」

「種もいただけるのですか」


 この時代でも、種を与えるというのは、余程よほどのことだと思っていい。マラッカのワディナばばの教団も、乾燥した葉を提供されているだけだった。


「お前たちの仕事に必要であろう。これから、西の海、東の海に出ていかなければならないのだからな。これでよいのならば、帰るがよい」


 安宅丸とシンガが深く頭を下げたまま、退いた。




『アヌマ』とはヨモギの一種でアジア原産の植物だ。日本にも薬草として渡来したものが野生化していて、『クソニンジン』という残念な和名がつけられている。

 名前は残念だが、なかなかすごい植物である。

 中国の屠呦呦と・ゆうゆうという医学者が、この『クソニンジン』から抗マラリア薬であるアルテミシニンを分離・発見している。


 マラリアの治療薬としては、キニーネが有名だ。キニーネは南米アンデス山脈に自生するキナノキの樹皮から採れる。当時の南米にはマラリアがなかったとされているのに、何故キナノキがマラリア原虫に対する毒性物質を持っていたのか、謎である。

 キニーネは十七世紀に発見され、以後帝国主義から世界大戦、ベトナム戦争くらいまで使用された。熱帯地方で軍を運用する際に必須の薬品だった。

 

 必須の薬品ではあったが、副作用もひどかったらしい、胃腸障害、視神経障害、血液障害、じん障害、頭痛、嘔吐おうと、下痢、腹痛、精神症状、不安、興奮、錯乱さくらん譫妄せんもう、等々、キニーネを飲んだことがないから、何とも言えないが、マラリアで死ぬよりは、いくぶんかまし、というありさまだ。


 それに対して、屠呦呦が発見したアルテミシニンには、これほどの副作用はない。アルテミシニンを用いた試薬、『Artemix-M60』の製品情報によると、『アルテミシニン及び誘導体の副作用は極めて軽微で毒性はビタミンC以下と報告されている。』、だそうだ。

 アルテミシニンは、キニーネ等の従来の抗マラリア薬にとって代わることになり、多くの命を救う。


 屠呦呦はアルテミシニン発見の功績で二〇一五年にノーベル生理学・医学賞を受賞している。



『ヌサ・ニパ』は『フローレス人』化石が出土した『フローレス島』の現地名からいただきました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
まさかの超感覚持ち! 先祖崇拝と精霊信仰が合わさり存在していた と……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ