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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
364/613

ジャングル

 安宅丸あたかまるの外輪船『川内せんだい』がマレー半島のマラッカを出発して、対岸のスマトラ島沿いに北上する。

 ハン・トゥアは八人のマラッカ兵を護衛に出してくれた。マラッカ国王が言っていた、四番目の川の河口に近づく。

 水の色が、青から土色に変わっていく。上流から流されてくる赤土の色だろう。

海岸沿いは全てマングローブ林だったが、川をすこし上ると、林を伐採してあるところが時々見えてくる。これらは胡椒こしょうの畑だった。

 現地の人々が胡椒を栽培しているのだ。


 胡椒の原産地はインド南部であるが、この頃までには、スマトラ島で人による栽培が始まっている。当初はスマトラ北部の町スムトラ付近で栽培されていたが、当時の農業技術では、一つ場所で栽培できるのは十年程度、長くても二十年が限界だったという。

 そのため、次々と場所を移動させなければならなかった。片田達の時代にはスマトラ島の中部付近まで胡椒畑が広がるようになっている。


 胡椒農園は、次のように作る。

 まず、港など運搬に便利な場所の近くの森を伐採し、火を放って焼き畑をつくる。最初の年には陸稲りくとうを植える。陸稲を植える理由はよくわからないが、おそらく害虫を排除するためだろうと思われる。陸稲にはそのような性質がある。

 次の年にはデイゴというマメ科の落葉高木を植える。デイゴは沖縄の県花として知られている。琉球大学の合格電報は『デイゴサク』だそうだ。

 デイゴは高木なので、高くなり上空に枝葉を茂らせて日陰を作る。

 デイゴの脇に胡椒の種を蒔く。胡椒は『つる性の木本もくほん』だという。アサガオのようにツルをのばすのだけれども、草ではなく、木なのだそうだ。フジに似ているのだろう。

 胡椒がツルを伸ばして、デイゴに巻き付きながら成長する。

 両者が十分に成長すると、グリーンモンスターか、巨大なワサビのような姿になる。

 時期になると小さな花が咲き、その後にノブドウのような実がなる。この実が胡椒だ。


 十数年そのように実を収穫すると、その畑は放棄される。連作障害があるのだそうだ。


「艦首、喫水二尋ふたひろでーす」艦首で側鉛そくえんを投げていた船員が報告する。

 安宅丸が艦を停止させた。両岸を見ると、両岸は火山灰のような泥だった。

「ここから先は連絡艇で行こう。『川内』は沖で待機だ」


 安宅丸達『川内』乗組員八名とマラッカ兵八名、合計十六名が二艘にそうの連絡艇に乗り、タンジュン・バライの村を目指した。

 河口から大きく右に蛇行したところに村があった。その日は村に泊まる。




 翌朝、村が用意した三角帆を持つ小舟に分乗して川上を目指す。川はどこまでいっても泥のような色だった。両岸はヤシや、さまざまな高木が生い茂っている。

 さまざまな鳥が、木の間を飛び、ときどき猿のようなものが、枝をしならせる。次の夜は船の中で寝た。


 二日目の午後くらいから、川の色が深い緑色に変化する。周囲の木々の背が低くなってきた。川のおもてに白い瀬がときどきあらわれるようになってきた。帆による航行が次第に困難になってきた、そう思っていた時に、白い砂浜が見えた。そこがバンダル・ポエラウの村だった。

 舟航しゅうこうの終点である。


 砂浜から道が伸び、その両側に背の低い家が並んでいる。丸太を組んだ建物で、屋根はヤシやバナナの葉でかれている。

 村の長に国王からの手紙を渡すと、おおきくうなずいて、わかったというようなそぶりをした。このあたりにくると、シンガにも言葉がわからなかった。

 マラッカ兵の一人が通訳となってくれる。


 その夜、安宅丸とシンガは長老の家に宿泊することになった。長老の妻がバナナと初めて見る果物らしきものを持ってくる。

 子供の頭程の大きさで、周囲がとげだらけだった。

「これはなんだ」安宅丸がシンガに尋ねる。

「ああ、これはドリアンだよ、安宅丸、食べられるかなぁ」シンガが心配そうに言った。




 翌朝、自分がドリアンを食べている夢を見て、うなされて目が覚めた。あの、ネギの悪くなったような臭いが部屋にこもっているようだった。

 朝食にもドリアンが出てきたが、昨夜食べたので、今朝は遠慮しても失礼にはなるまい。そう思って、バナナだけいただいた。


 村の男が一人、同行することになった。トバ湖のほとりまで案内してくれるという。確かに彼が居なければ道に迷ってしまっただろう。

 道幅は一人が歩くことが出来るだけの、心細いものだった。両側にはジャングルの茂みが続き、頭上で重なっていた。おかげで強い日光に苦しむことはない。

 彼らの両脇には様々な草が生えている。主にシダのたぐいだった。

 それらの上に、頭上から木漏こもが降り注ぎ、朝露が光る。


 奇妙な叫び声、鳥のさえずりが、ときおり聞こえ、草と土の匂いがする。


 時々、川を渡って対岸に行くことがある。初めの内は木を組んだ橋があったが、やがてそれが無くなり、直接川を越えなければならなかった。

 川の水は、すでに色が無くなっていて、んでおり、水晶のように透明だった。川底は所々ところどころに岩が出ていて、隙間を白い砂が埋めている。

 川岸には、緑、紫、様々な色の水草やコケが生えている。


 流れる水にも、シダにも、岩にも、砂にも、水草にも、頭上で揺れる葉を潜り抜けて来た光が注ぎ、ゆらゆらと揺れていた。


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