表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 2
341/612

翡翠の粉(ひすい の こな)

 片田が淡路あわじから帰って来て、二か月がたった。

 戎島えびすじま埠頭ふとうには二隻の新造艦が並んで浮かんでいた。北米大陸探検に使われる予定だった。


 片田は当初、金口かなぐちの三郎が艦長を務める『阿武隈あぶくま』で北米に行こうとしたが、石英丸せきえいまるをはじめとした片田商店幹部の猛反対にあってしまった。

 彼らが言うには、行くのはめないが、せめてそれなりの準備をしてほしい、とのことだった。


 そこで、建造中だった『川内せんだい』の同型艦どうけいかん二隻を、遠洋航海用に補強することになった。

 主な補強点は、喫水線下きっすいせんかの船体の二重化だった。


 通常の船体は、進行方向と同じ向きの長い板を張り合わせて作る。その内側に、直角方向の板を張り合わせて、補強しようというものだった。

 こうしておけば、外洋の荒波にあっても、船が持ちこたえるだろう。


 二艦は先日乾ドックから進水し、『神通じんつう』、『那珂なか』と命名された。現在は隣接した埠頭につながれ、艤装ぎそうの最中である。




 梅雨明つゆあ十日とおかの日差しが片田商店前の道を焼く。陽が西に傾いたので、店員が道に水をいた。

「よう、片田はいるかい」

「あっ、鉛屋なまりやさんですね。おりまっす、中にお入りになってください」店員が手桶ておけ柄杓ひしゃくを持ったまま、なかにみちびき入れた。


「片田さーんっ、鉛屋さんがいらっしゃいました」


 奥から片田が出てくる。

「応接はいているか」店員が、はいっ、という。

「では、こっちだ」そういって鉛屋を連れて応接間に入った。


 応接間は和室だった。

翡翠ひすいが見つかったぞ。『じょん』の言った通りのところにだ。石炭の時もビタリと当てたが、良く知っているな。なにかあるのか。元々は山師やましだったのか」

「いや、そんなことはない。で、どんなものが見つかった」


 鉛屋が懐から巾着きんちゃくを出し、その中身を出して見せた。


 白い石、緑の石、紫色の石、三つが出て来た。翡翠だった。

「たしかに翡翠だな」片田が言う。

「ヌナカワという名前の川を河口かこうから三里さんり程遡さかのぼったところに、右手から合流する支流がある。その支流をすこし行くと、両岸の岩や河原かわらに翡翠があったそうだ」

「それはよかった。まだたくさんありそうか」

「たくさんある。今日もってきたのは現地の山師が送ってきたほんの一部だ。そのあたりには幾つもの翡翠の露頭ろとうがあったという」


「翡翠はミンに持っていくと高く売れるらしい。いままでこの国で翡翠は採れないと思っていたので、売った者はないがな。遣明船であっちに渡った男が言っていた。明人ミンジンは翡翠を珍重ちんちょうする、特に白い翡翠が好まれるそうだ」


「私が欲しいのは、緑色の翡翠だ。白いのと紫色の物は鉛屋が自由にしていい」

「いいのか、もしかしたらすごいもうけ話になるのかもしれないのだぞ」

「ああ、緑色の物は私が全て買う。それ以外は明にでも琉球りゅうきゅうにでも売ればいい」

「ほんとうか」鉛屋が笑いだす。

「次に会った時には、俺はお大尽様だいじんさまになっているかもしれんぞ。よし、翡翠を輸出するときには、片田商店の船を使ってやる。それでいいか」

 片田がうなずいた。


「で、この緑色の翡翠を粉にしたいのだか」

「なんだと、つぶしたいだと。頭がおかしくなったのか」

「本気だ」

「本気なのか。さて、翡翠はかなり硬いぞ。これを磨り潰すとなると、そうだな、石英せきえい石臼いしうすが必要になる」

「作れるのか」

「ああ、作れるが、翡翠と石英は同じくらいの硬さだから、磨った粉に石英が混じるかもしれん」

「多少石英が混じってもかまわない」

「よし、じゃあ俺の所で石英の石臼を作ってやろう。他の翡翠をくれるというのであれば、タダで磨ってやる」

「蒸気機関が必要であれば、私の所の物を使っていい」

「それは助かるな」


「で、その粉を何に使うんだ」

「それは、まだ言えない」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ