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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
300/612

ペルシャ絨毯(ペルシャじゅうたん)

 正実坊での寄合よりあいを終えた藍屋与兵衛よへいが淀川を下り、堺に帰る。

 堺の藍屋店舗では、片田順と、野村孫大夫まごだゆうの二人が待っていた。


「どうだった」片田が藤林友保ともやすに尋ねる。

「南洋株主組合が成立しました」

「そうか、うまくいったか」

「はい、加えて私が事務局を率いることになりました」

「それは、すごいじゃないか。正実坊しょうじつぼうかしらになるものとばかり思っていたが」

正実しょうじつ衍運えんうん殿は、株のように上がったり下がったりするものはよく解らん、とおっしゃってご辞退なされました」

「そうだったか」

「で、組合結成から話がはずんで、そういうことならば京都みやこの商品取引所を再建しようではないか、という話になりました」

「それは、よいですな。京都が元のように栄えます」孫大夫が言った。


「それだけではありません。なんでも来年の夏には祇園ぎおん祭りを復活させよう、という話まで出てきました」

「そんな話まで出てくるということは、最後の方には酒盛りになったな」

「おっしゃるとおりです」

 これは良い。組合の結束は一年後まで保たれるだろう。



 翌日から、京都や堺、大和の南洋株保有者達が集団で片田村の取引所に向かった。株券を持参しているので、多くの私兵を連れている。

 彼らは、取引所で所有株式を記名株券に変更した。株主として翌年には株主会議の投票権を得られる。




 一年後の夏。

 南洋株主組合が議決権を持った。さっそく株主会議の開催が決まる。

 この直前に、『うさぎや』は、南洋社が持つ大量の守護債を全て、細川勝元に譲渡じょうとしていた。

 この一年間、南洋株主組合の取り崩しを画策かくさくし続けたが、ことごとく失敗した。新しくなる南洋社に守護債を残していくと、細川勝元が困ることになる。


 開催された南洋社株主会議の筆頭議案は、野洲やす弾正忠だんじょうのちゅうの解任であった。

 正当な理由なく、南洋社が保有する守護債、これは有価証券である、を対価無しに細川氏に譲渡し、会社に損失を与えた。これは業務上の背任はいにんに相当する。


 一号議案が可決され、野洲弾正忠が南洋社から追われた。大量の株式を発行したことにより、南洋社は細川勝元と野洲弾正忠の手から離れてしまった。もはや彼らの影響力は無い。


 二号議案は藍屋与兵衛の代表取締役への選任であった。これも可決される。藍屋与兵衛はその場で株主組合の事務局長を辞任し、南洋社の代表取締役となった。

 

 上忍じょうにんとは言え、忍びの頭が貿易会社の社長になった。これには畠山義就よしひろあきれた。義就には片田順から知らせてあった。

<あの時、始末してしまわなくて、良かった>

 もちろん義就が藤林友保の素性を他人に口外することは無い。将来利用価値があるだろう。細川に替わって、義就自身が琉球貿易に加わることが出来るかもしれぬ。


 表面上、南洋社の琉球貿易は継続するが、実体としては片田順が、琉球貿易を独占することになる。




 京都みやこでは、祇園祭の準備が進んでいる。応仁の大乱で山鉾やまぼこの半数は焼け果ててしまった。山鉾を失った町は、記憶を頼りに鉾の再建に取り組む。

 

 将軍義政が、花の御所に保管されていた『久世舞車くせまいくるま』という山鉾を取り出して来て、ホコリをはらわせる。このようなことには熱心だ。


やま』または『作山つくりやま』を作る者達もいる。青森の『ねぶた』のような造り物だ。竹を曲げ、和紙を貼って造る。

 まだ、復興もままならないので、大乱の前のような豪華さを望むことは出来ないが、それでも今出来る限りの想いを込めている。


鷺舞さぎまい』など、山車だしの周囲で舞うおどりを練習する集団がいる。昼間精一杯働いたあとに、夜になって松明たいまつを立て、その明かりで群れ踊る。


 応仁の大乱の前には、すでに六十基もの山鉾があったという。その側面の板には岩絵具いわえのぐでさまざまな絵が描かれていた。

絵の題材はのう仏話ぶつわの一場面である。


この山鉾の側面には、やがて現代の山鉾に見られるように遠くペルシャ、インドなどで織られた絨毯が飾られるようになる。

これらの絨毯は、片田達が琉球貿易、さらには南洋貿易で伝えた品であった。


外伝の本文は、今回で完了です。



この後、エピローグが数話続きます。

八月五、六日はお休みをいただきます。

エピローグは八月七日月曜日から掲載いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 南洋社の鮮やかな乗っ取り、とても楽しかってです。 第二部のしての再開も楽しみにしています。
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