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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
265/619

別の方法

 嶽山城だけやまじょうに入った藤林友保ともやすと野村孫大夫まごだゆうは、準備を整えるので数日城内で待機せよ、と命ぜられた。


「何の準備でしょう」孫大夫が友保に尋ねる。

「さてな。わからん」友保が答える。


 植栽しょくさいの一つもない、殺風景な山城である。頂上台地の南寄りの所に池がある。池よりさらに南側は少し高くなっていて、当時はここを国見山くにみやまと呼んでいた。

 名前のとおり、見晴らしがよい。二人はそこに立っていた。

 河内かわち南部から和泉いずみ、その先の大阪湾、和泉灘いずみなだまで見渡せる。青い海に帆のような白いものが集まっているのはさかいであろうか。




 二人が嶽山城に滞在して三日が過ぎ、畠山義就よしひろが面会すると言ってきた。


「待たせてすまなかった。もう一人呼んでいたのじゃ。それが先ほど到着した」

 二人の前で義就がびる。彼の背後には武者が四名立っている。

 藤林友保は、それに答えるが心はそこにない。


 殺気さっきを感じる。


 この殺気というものが、何物なにものなのか、よくわからない。人を殺めようと決意した者の体臭なのか、それともわずかな息使いなのか。

 わからないが、ともかく忍びとしての鋭敏えいびんな感覚がそれを感じ取る。

 孫大夫も同様に殺気を感じているらしかった。


 この部屋の左右、板戸いたどの向こう側。天井板を挟んだ上の部屋。そしておそらくは縁の下にも、刺客しかくがいる。義就の背後の武者が放つ殺気ではない。


 どういうことだ。


「友保、孫大夫。この城は、あと数か月で落城させる」

「はっ」二人が同時に答える。

「落城したら、わしは城を持たぬ身となる」

「……」

「そうなれば、河内からの年貢ねんぐも入ってこない。支持者からの支援もなくなるであろう」

「……」

「そうなったとき、わしはおぬしたちを抱え続けることが出来なくなる」


 忍衆を維持するための費用は高額であったと考えられている。

しかし、これをうまく用いれば長期間の攻城戦を短期間で終わらせることも出来る。数か月の間、大軍をもって城を囲む費用は莫大であった。

それに比べれば、高額でも忍衆を維持することには意味がある。


雇止やといどめされる、ということですか」

「他の忍び衆はそうなるであろう。が、友保、おぬしの組はそうはいかぬ」

「何故でしょう」

「クロを知っているからだ」クロとは義就と藤林達で取り決めた符牒ふちょうで、黒色火薬のことを指す。

 義就の左右にいる武者は、クロが何を意味するか知らない。

「クロの秘密を抱えたまま、他の大名のところにやることは出来ぬ」


「城から落ち延びられた後も、われら一同同行させていただくわけにはいきますまいか」

「それも考えた。譜第ふだいの臣はそれでもよいが、そちらは銭で雇われておる。銭が払えぬのに同行させるわけにはいかぬ。そち達二人はそれでよしとしても、いずれ組の者のなかから落伍者が出る」


「クロの事を知っているのは、何名もおりません」


「そちは実学者を使って試作している、と聞いておるぞ」

「彼らは、何を作っているのか知りませぬ」

「そうか。それは賢明けんめいなことだ」

「しかし、組の中の主だった者と一緒に試作しているであろう。孫大夫もクロの製法を知っているのではないか。試作は複数の幹部で行っているそうだな。そちの村に放った者達がそう申しておる」


<そういうことか>藤林が悟る。三日も待たせたのは、伊賀の里に刺客を送るためだったのか。最近、里に余所者が増えていたのは、義就の斥候せっこうであったか。

 どちらも、義就が抱えている別の忍衆であろう。

 クロの秘密を抱えたまま、他の大名のところにやれぬ。それは藤林も解っていた。その対策として、彼一人だけではなく、数名の者でクロについて共有していた。

 友保一人の口を封じても無駄だと義就に思わせなければならない、そう考えていた。

 ところが、義就はそれらの者も含め、一網打尽にしよう、という心積こころづもりであるようだ。

 ここまで囲まれているとは。


<これは進退しんたいきわまった>友保が思う。てのひら、足裏がしびれるように感じた。


 畠山義就が、どうじゃ、という顔をする。

 もちろん、義就が放った忍衆は、藤林友保達が具体的に何をやろうとしているのか知らされていない。


「誓いまする。けっして他の大名に漏らすことは、二代のご愛顧にかけて」友保が苦しそうに言った。


「そうか。そこまで言うとは殊勝しゅしょうじゃ。ところでな、こういう方法もあるという話をしたい」

「はっ」


 友保が義就の顔を見つめる。義就も友保を凝視していた。


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