表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
248/629

女湯

 女湯では、『あや』が湯舟で菖蒲しょうぶの束をつついていた。

「これ、なにか商売のタネに使えないかしらね」

 目を上げると、体を洗い終えた『ふう』が湯舟の方に向かってくる。

 後二か月程すると、石英丸せきえいまると結婚することが決まっていて、両家の家族が了承している。近しい者にも知らせていた。


『あや』が『ふう』の裸の体を凝視ぎょうしする。


「どうした」湯舟の端をまたぎながら、『ふう』が尋ねる。

「もう、石英丸せきえいまると、したの」

「え、何を」

「何って、あれよ。きまっているじゃない」


『ふう』がひるむ。

「い、いや、まだだ」

「まだなの。あれ、すると女の体って、変わるのかな」

「知らん。『あや』こそ、好きな人はいないのか」


『ふう』が珍しく反撃する。


「あたしかぁ。いることは、いるんだけど。あっちにその気がまったくないからなぁ」

「そうなのか」『ふう』が言う。


「誰なの」いつのまにか、隣に入ってきた『いと』が尋ねる。

「あ、いや。いまのは無しだ」

『ふう』ならば、そうなのか、で終わるが『いと』だと相手が誰か問い詰めてくるかもしれない。余計なことは言わない方がいい。


「もしかして」『いと』がさぐるような目でのぞき込む。

「なんでもない。『いと』こそ、おもってる人がいそうだぞ」

「あたしが」そういって、『いと』が謎のような含み笑いをする。


 この話は、危険だ。『あや』が話題を変える。


「そういえば、安宅丸あたかまる茸丸たけまるさかいに行くそうね」

「安宅丸か茸丸が気になるの」『いと』が食い下がる。

「なぁ、『ふう』、堺ってどんなところだ」

「そうだなぁ。見たこともなかった色んなものを売っている」

「異国人もいるのか」

「居る。変わった匂いがする」

「あたしも、行ってみたいな。堺」

「なによ、それ」『いと』があきれる。




 岡(洗い場)では、『えのき』が『かぞえ』の髪を洗っていた。

「目、ちゃんとつぶっているのよ」『えのき』が言う。

「でね、村で売っている紙は、半分に折ったとき、折る前の紙と比例しているの。相似そうじっていって……」

「はいはい、口に泡が入るわよ」

「るーと二っていってね」

「口を閉じなさい。それって黄金比おうごんひのことかしらね」


 一度黙った『かぞえ』が、首を振る。

「あっ、そんなに頭を振ると、洗えないじゃない」


「だって、それ違うよ。紙の比は白銀比はくぎんひだもの」

「はい、わかりました」

「黄金比っていうのはね、正方形の底辺の真ん中から『ぶんまわし』(コンパス)を……」

 そう説明する『かぞえ』に、『えのき』が上から容赦ようしゃなく湯をかける。

「あ、目にはいった」

「だから、言ったじゃない」




女湯は子供が多い。

それと、会話が多いのも男湯と違う。おかみさんも、嫁もしゅうとめも、老婆ろうばも、際限なく話している。


雲雀ひばりが百匹も空を舞っているような有様ありさまだ。


しかも、相手が聞いているのかどうかは、あまり気にしていないようだ。話の腰を折ろうが、まったく別の話題であろうが、どうでもいい。ただ、たがいに話し続けることが目的のようだ。ご苦労なことである。


 脱衣所で子供の喧嘩けんかが始まる。

女の子が坪庭つぼにわの池に落ちて泣き出す。金魚を捕まえようとしたようだ。

 池に落ちた子供は、浴室に逆戻りさせられた。


 男も女も、新しくできた湯屋ゆやを楽しんでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 算額が流行しそう [一言] しかし……これでも触媒がないからこの片田集が歴史に消えるのか 第一部では
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ