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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
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管理台帳(かんり だいちょう)

 小猿は触媒筒しょくばいとうを元に戻し、水素タンク側の細い管を交換した。すべての螺子ネジを閉めたのち、ちゃんと閉まっていることを確認する。

 

 弁を再び開けるために、鍛冶丸かじまるを呼びに行く。装置の操作は、すべて二人一組で確認しながら作業をすることになっていた。


 鍛冶丸が小猿の仕事を確認し、良いだろうと言い、二人で弁を開ける。


鳶丸とびまるさん、今日は保守の記録の書き方を教えるので覚えてほしい」鍛冶丸が言った。

「わかった」

 鳶丸は優秀だ、と鍛冶丸は思っていた。なので、次々と新しい仕事を教えている。


「ひとつ部品を交換したときには、三か所に記録する」

「三か所だな」

「そうだ。まず最初は日誌だ。これはいままでも記録しているから要領はわかるだろう」

「わかる」


「このようにして、日誌に交換した部品の記号と番号を記録する。今日交換した管は、記号は『水』で番号は一番だ。水素ボンベまわりの、一番上流にある部品だからだ」

「なるほど、そのように記号番号を付けているのか」

「覚えておくと、便利だ」


「二番目は、部品台帳だ。『水』の部品台帳は、この棚のこれだ。この台帳は部品一つが一葉(一枚)になっている。『水』の一は、開いた最初のところにある」

「最初のところは、『水一、十五寸小管しょうかん三号』、と書いてあるだけで、空白のようだが」

「この工場が出来てから、あの部品を交換するのは初めてだからだ。他のページを見ると、ほら交換したことのある部品は、日付と担当者が書いてあるだろう」

「同じように書くのか」

「そうだ」


「三番目は、この交換一覧だ」そういって、鍛冶丸は壁に掛けられた黒板を示す。

 大きな黒板は二つある。

「右が、点検一覧で、左が交換一覧だ」

「左の交換一覧の、『水』はこのあたりだ。ここに『水』一の欄がある。いまは空白だが、ここに、今日の年月日を書き込む」

 そういって、鍛冶丸が白墨はくぼくで日付を書き込んだ。

「年は、この工場が動き始めた年を一としている。元号だと訳がわからなくなるからな。あと、うるう月は、三角形で表している。これは台帳も同じだが、一年もこの工場に居るので、すでに知っているよな」

「何かわからないことはあるか」鍛冶丸が尋ねる。


「言われたことは、わかった。ひとつ聞いていいか」

「いいよ」

境目さかいめにあるようなものは、どうやって探すのか。たとえば今日交換した管の手前には太い管がある。あのようなものはどこに書いてあるのか」

「あの部分は、『水』の手前の『沼』の中にある。位置は前の方だ、『沼』の十三番だな」

「なぜ、『沼』の最後尾さいこうびにあるのに、前の方にあるのだろう」

「鳶丸さんも気づいているかもしれないが、この工場の仕組みには、大きな流れがある。その流れの中の最後尾だからだ」

「そのことには、大体気づいていた」

「『沼』の十四番以降は、反応しないで残った気の逆流装置や、不要な気の始末のための装置の番号になっている」

「そういうことか。よくわかった」


 小猿が交換一覧の『沼』の十二番、十三番、十四番の欄を見ると、空白であり、日付は書いていなかった。筒が十三番だとすると、篩はその前後、十二か十四番だろう。

 工場の操業開始以来、あのふるいは交換したことがない、ということだ。


「この点検一覧と、交換一覧があると、今日何を点検したらいいのか、または交換したらいいのか、見えるようになる」

「わかった。慣れることにしよう。すこし台帳を見てみたいのだが、いいか」

「うん、勉強してみてくれ」




 鍛冶丸が去った後に、小猿は『沼』の交換台帳を出して該当の箇所を調べてみる。篩は十四番だった。『四寸径篩、八枚』とだけ書いてあった。交換の記録はない。


 あの篩は、めったに交換するものではないらしい。


 次に壁の黒板、点検一覧の該当箇所を見る。三か月ほど前の日付が記されていた。


 点検の台帳もあるのだろうか。そう思って小猿が棚を探す。点検の台帳もあった。交換台帳と同様に部品毎に一葉となっている。『沼』の十四番、例の篩の点検間隔は一年に一度だった。


 圧力に耐える必要のない部分なので、点検間隔が長いらしい。

 装置の他の部分、圧力のかかる大部分の部品は、月に一度の点検をしている。




 あと、調べておくべきことはなんだろう。小猿が記憶をたどる。

 そうだ、備品や部品の数を一斉に数えることがあったな。なんといったか、そう『棚卸たなおろし』だ。棚卸のときに、あの倉庫にある予備の篩も数えるのだろうか。

 小猿はふたたび棚の冊子を調べ始める。


 あった。棚卸帳、これだ。

 重要品保管倉庫の部分を調べる。あの篩に相当する項目はなかった。

 棚卸の間隔も調べる。これは一年に一回、年末にやっている。


 小猿が頭の中で整理する。


沼気メタンを水素に変えるのは、あの篩だ(おそらく)

・篩の記号番号は『沼』十四番だ

・この工場が操業を開始して二年がつ、今年は工場歴三年

・篩は一度も交換したことがない。容易に消耗しょうもうするようなものではない。

・篩の点検は九か月後ということになる(点検は一年に一度)

・棚卸時の点検項目には、あの篩は入っていない

・棚卸は一年に一回、年末だ


 小猿がそこまで整理して、棚卸帳を棚に戻していると、背後から声がかかる。


「鳶丸、昼ごはんに行こう」鍛冶丸だった。


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