表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
238/633

為替手形(かわせてがた)

 五月になった。そろそろ梅雨つゆに入ろうか、という時期である。今日は幸い晴れているが、その代わりに暑い。

 片田がさかいの片田商店で考え事をしている。

 彼は、為替手形と口座間振替の仕組みを考えようとしていた。


 軍人であった片田が、生涯の間に銀行業務を考案することになろうとは、想像もしていなかった。


 為替手形とは、遠隔地と取引する際に、現金を輸送する危険を避けるために用いられる。


 博多在住のA氏が堺まで商品を運び、堺の商人B氏に商品売る。B氏は商品代金を現金で渡すことも出来るが、A氏が同意すれば、為替手形を振り出して代金を支払うこともできる。

 この場合、A氏を『受取人うけとりにん』、B氏を『振出人ふりだしにん』という。

 為替手形の場合には、この二名の他に『引受人ひきうけにん』という第三者が登場する。

 この引受人に片田商店がなることにより、遠隔地貿易に関する取引を円滑化しようというのが、為替手形を考案しようとした片田の思惑だった。


 要は貿易がさかんになるようにしたいのだ。


 B氏が、自ら作成した為替手形に記入された金額を片田商店に支払う。

この支払がなされると、片田商店は、その為替手形の引受人欄に「片田商店」と『引受署名』をする。

『引受署名』をすることにより、片田商店は、この為替手形を持参したものに、額面金額を支払う義務を負うことになる。


 為替手形には、他にも支払地、支払い場所などの記入欄があるが、この場合には、片田商店博多支店と書いておく。


 引受署名がなされた為替手形を、B氏がA氏に渡す。


 A氏は為替手形を持って、博多に帰る。現金を持参しているわけではないので、比較的安全である。


 博多に戻ったA氏が片田商店博多支店に出向き、為替手形を支店に提出すると、支店はA氏に額面にある銭を支払う。


 これが為替手形の基本的仕組みである。為替手形の使用は十六世紀の南欧あたりではじまったらしい。


 原理は簡単だ。サイトを経営する第三者が仲介となって、買い手の支払いを確認保証するオンラインフリーマーケットでの取引とほぼ同じだ。


 しかし、実際に運用するとなると、いろいろ問題が起きる。


 途中で盗まれた場合、どうするか。持参者が受取人本人であることを確認する仕組みが必要である。


 紛失したり、航海途中に遭難してしまった場合にはどうするか。再発行と二重払い予防の仕組みが必要である。


 為替手形を譲渡じょうとしたいときにはどうするか。裏書うらがき手形というやつだ。


 偽造対策は


 頭が痛い。




 片田が為替の仕組みを考案しているところに、二人の若者が入ってきた。

「あぁ、暑かった。のどが乾いた」

「浄水器、ある」

 二人はそういって、商店に入ってきた。茸丸たけまる安宅丸あたかまるだった。

 二人は、安宅丸の造った竜骨りゅうこつ付の船で、外山とびの村から堺まで回航し、今たどり着いた所だった。


 大黒屋だいこくや惣兵衛そうべえさんが、浄水器の方を指さす。


「あー、冷たい。やっぱり浄水器の水は冷たくてうまいよな」安宅丸が言う。

「そうだよな。船の水樽みずだるぬるい」


 片田が自室から出てきて歓迎する。

「出来たのか」

「ああ、いま外にもやってあるよ」

 彼らが来た目的を片田は知っていた。


「浄水器、堺で売れないんだって」

「ああ、そうだ」

 片田村では、半ば強制的に設置できたが、堺ではそうはいかない。

「春先に、これが来た時には変な物造ったな、と思ったんだけど、だんだん暑くなってくると、浄水器の水は冷たくてうまいということがわかった」


 なるほど、素焼きの土器に水分がみ込み、土器表面から蒸発する。その時に熱を奪っていくので、わずかに水がつめたくなるのであろう。


「いっそ、冷水器として売った方が、売れるんじゃないか」安宅丸が言った。


 片田は店頭に三台の浄水器を置き、冷水器というふだを付けた。来店した客に水をふるまうと、評判となり浄水器改め、冷水器が堺の町に普及していった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ジーアポットモドキですか。 冷蔵庫も行けそうですね。
[一言] 心臓病の薬を作るはずが、夜のお仕事に効果発揮した某薬品みたいな話ですなあ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ