表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
233/618

チューリップ・バブル

 西暦一六三六年から三七年にかけて、オランダでチューリップ・バブルという現象が起きた。約半年の間にチューリップの球根が異常な高値で取引されるようになり、半年後には価格が暴落した。

 この当時の記録は少ないので、正確なことはわからないとされているが、高価な球根一つが、熟練職人の年収の十倍で取引されていたという。

 一方で、この球根の取引にあたっては、実際の金銭の授受がなく、バブルではなかったという研究もあるそうだ。

 ここでは、定説に従って話していく。


・なぜ、この時期にオランダでバブルが起きたのか

・なぜ、投機の対象がチューリップ球根だったのか

・なぜ、バブルが起き、崩壊したのか


 最初の二つの問には、答えやすい。しかし三番目の問については答えられない。

なぜなら、その後も人間は繰り返しバブルとその崩壊を起こしているからだ。


 まず、なぜこの時期(一六三六年)のオランダだったのか、について。

『十七世紀はオランダの世紀』と言われている。それ程に栄えた。

前世紀のオランダはスペイン・ハプスブルク家の支配下にあり、長い独立闘争を戦ってきた。それが実を結び、世紀の変わり目頃に、まがりなりにもスペインからの独立を果たす。


オランダはオランダ東インド会社を設立してアジア・アメリカ地域との交易に乗り出す。

同時期に、アジアで先行していたポルトガルがスペインに併合されていた。その間隙かんげきを突いて、オランダはアジアに進出する。

一六〇五年にはマカッサルのあるスラウェシ島に上陸し、一六〇九年には、アメリカ大陸に進出。ニューアムステルダム(現在のニュー・ヨーク)あたりの調査を行い。同年江戸幕府から布教を行わない、という条件で貿易を許可される。


 特徴的なのは、従来のスペイン・ポルトガルの植民地経営は王権を背景にしたものだったが、東インド会社は複数の商社の連合である、ということだった。

 国王に許された勅許ちょっきょ会社ではあったが、その経営は資本家によって行われるというところが異なる。

 東インド会社は多くの出資を集め、機敏に植民地支配を進めていった。宗教が資本の運用に比較的寛容であるプロテスタントであったことも影響しているだろう。


以後約半世紀の間にオランダ東インド会社はフィリピンとマカオ以外のアジアからスペイン・ポルトガルを駆逐してしまう。

 その結果として、オランダのアムステルダムに多くの資本、すなわち、お金が集まることになる。


 当面使う予定の無い富を持てば、それを運用によって増やそう、と考えるのは普通のことである。

 そのために、この時期のオランダに投機が始まる下地ができた。




 次はなぜチューリップの球根だったのか、である。

 これは自分で植物を栽培してみると、わかる。


 例えばアサガオと比較してみよう。チューリップ・バブルから二百年程後の日本でアサガオの品種改良が盛んになり、様々な品種が現れる。

 当時の日本は化政かせい期と呼ばれる町人文化が栄えた時期であった。十七世紀のオランダ程ではなかったにせよ、それなりに豊かであったろう。

 しかし、アサガオ・バブルは起きなかった。


 アサガオは種により繁殖するので、複製を作るのが容易であった。一つの花から六ないし八の種が取れる。一株が二十から三十の花を咲かせるであろう。従って、一株から百から二百の種が取れる。二年続ければ、一万から四万倍の株をつくれるのである。


 それに対してチューリップの繁殖は主に球根の分球によって行われる。一つの球根から数個の子球が取れるばかりだ。種から繁殖させることもできるというが、種から開花することのできる球根にまで生育するには数年かかるといわれている。


 球根は増えにくいのである。その希少性が投機の対象として適していた。


 この事情は、金銀や、最近の仮想通貨でも同じである。希少であるから通貨になり、投機の対象になるのだ。




 なお、種子により繁殖するものであっても、稀に子に種が出来ない場合がある。アサガオでは、極端な品種改良の結果、種子の出来ない株が珍しくなかったという。

 この場合には、その株の親の二品種を門外不出にしておいて、その子、種は出来ないが、優良な花を咲かせる種子のみを販売すれば、大儲けができる可能性がある。

 茸丸たけまるが気付かなかったのは、この点である。


 また、仮に種子が出来たとしても、その種が親の優れた形質けいしつを遺伝しない場合がある。ハイブリッドとかF1とか言われる種は、これにあたる。

 この場合にも、種を販売することで儲けることができる。最近の種にはこのようなものが多い。




 最後の問い、なぜバブルが起き、崩壊するのか。

 これについては、解決策が見つかっていない。人間は繰り返しバブルを起こし、崩壊させる。

 今、この時にも、世界のどこかでは、バブルが崩壊している国があるかもしれない。


 私のつたない文章を読んでいただいている読者のみなさんが、将来バブルに踊らされて不幸にならないことを祈るばかりである。

 AI関連株、タワーマンションなどの不動産、仮想通貨、NFT(非代替性ひだいたいせいトークン)、メタバース、次のバブルがなにを対象とするか、それはわからない、でもバブルは必ず繰り返す。

そのようなとき、私の文章を思い出していただければ幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 変化朝顔の愛好者です。種のできない不稔性の変化は親株同士の組み合わせで出現するF1種の中から出現するのですが、組み合わせが沢山あり中には出現確立1/48などという物もあり、望み通りの変化が出…
[一言] 最近だとポケモンカードが完全にチューリップバブルの二の舞になってましたね。 なんとなくは知ってたけど、ちゃんとは調べてなかったので読めて良かったです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ