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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
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盆栽(ぼんさい)

 亀の瀬運河から帰ってきた片田が村役場の自身の執務室に入る。机の端に盆栽ぼんさいのようなものが置いてあった。

 片田は、机の上に飾り物を置かない主義であった。


 自分の部屋から出て、誰かいないか、と探す。『いと』の姿が見えた。

「私の机の上の盆栽は、誰が置いたのか」

「あ、あれですか。『おたき』さんが、いつも世話になっているから、と持っていらしたものです」『いと』が答える。

「そうか。あれは、あの机の上に置いておかなければならないものなのか」

「別に、そう決まったものではないです。天気の時には外に出して日の光にあてていますし」

「出来れば、机の上に置きたくないのだが」

「かまわないと思いますが、『おたき』さんが残念がるでしょうね。せっかく、値上がりするだろうからって、持ってきてくださったのに」


「では、そうだ、応接間の卓に置こうではないか。それならば『おたき』さんが来たときに見ることもできる」

「応接間には、もう盆栽があるのですが」

「なに、応接間にもあるのか」

「はい」

 片田は、応接間の卓の大きさを思い浮かべる。

「もう一つ、盆栽を置けるであろう」

「二つならべるのですか。ちょっと按排あんばいが良くないかもしれませんが」

「それでも、よい」


 そういって、片田が机の上の盆栽を両手で抱え、応接間に運ぶ。応接間では壁際に置かれた卓の盆栽を『いと』が左によけてくれていた。

 その右側に、片田が盆栽を置く。

「これでいい」

「なんか、狭苦せまくるしいですね」『いと』が言う。


「値上がりするだろうからって、盆栽が値上がりしているのか」片田が尋ねる。

「はい、去年三十文くらいだった二年物の五葉松が、今年の夏には八十文になりましたそうです」

「何故、盆栽の値があがる」

「さあ、なんでも葉の小さい五葉松が出て来たとのことで、盆栽にちょうどいいそうです」

 そういえば、そんな融資の希望があったな、と片田が思い出す。


「二年物でも、それくらいなので、五年、十年物になると一貫以上するものもあるそうです」

「それほどなのか」

「はい、数年育てれば一貫の銭が入る、ということで盆栽を育てる者が増えているとか」


<どこかで、聞いたような話だな>片田は思った。しかし、片田には急を要する用事があったので、そのことはすぐに忘れた。




 急を要する用事というのは十市とおち遠清とおきよとの面会だった。午後に遠清が片田村に来ることになっている。話題は畠山はたけやま義就よしひろの事だった。

 義就は筒井城を南面から攻めようとしている。八月中には攻略するという噂であった。現在の準備の様子では筒井城の光宣こうせんと筒井順永じゅんえいには勝ち目がないと見られている。救援は来ないであろう。

 もし、筒井城が落ちれば、次にねらわれるのは十市城である。そのようになった時の対策を遠清と相談しなければならなかった。


 片田が遠清を連れて、片田村の南の草原に立つ。このあたりはかつて森林だったが、村の建設、燃料用などに木を切ったため、草原となっている。

 そこに数台の臼砲きゅうほうが並べられていた。


「河内の軍は、二百騎程の騎馬隊を持っています。それが攻略の決め手になるでしょう」片田が言った。亀の瀬から戻るときに、少し佐保川さほがわさかのぼり、義就の軍を偵察していた。

 この当時の大和盆地の平城ひらじろは、後世の戦国時代末期のような雄大な城ではない。環濠かんごう集落と大した違いの無い構えだった。ほりの薄い部分に騎馬隊で一斉攻撃を仕掛けられればひとたまりもない。


「十市は、三方を川に囲まれておるが、東側だけは川がない。わずかな濠があるばかりだ。そこが弱点になるであろう」遠清がいう。

「はい、ですので東側のどこから攻撃されてもいいように、そちら側に厚く砲を並べます」

「砲か。先日見たが、小石程度で騎馬隊が退くであろうか」

 片田は、小石を詰めた臼砲の発射を遠清に見せていた。城に突撃してくる歩兵を骨折させたり脳震盪のうしんとうを起させて阻止そしするのが目的の攻撃方法だった。

 不必要に殺生せっしょうをすることはない、片田はそう考えている。


「今回のは少し異なります。騎馬の突進は、なにがなんでも阻止しなければなりません。容赦ようしゃをする余地はありません」

「容赦しない、とは」

「これです。鉄筋てっきんです」そういって片田は一尺半(四十五センチメートル)程の鉄の棒を見せる。径は二(六ミリメートル)程か、と遠清が思う。

「これを、臼砲の口一杯になるまで、たばねます」

「うむ」

「束の先には、中心に、このような細い円錐形えんすいけいの鉄栓を刺しておきます。これがあると、爆発時に鉄筋が鉄栓の慣性かんせいを避けて幅広く拡散します」

「わかった」といったが、円錐形とか、慣性とか、拡散とか、遠清には解らない。


「では、見ていてください」

 片田が命じると、砲の技術者が臼砲に火薬袋を入れる。次に麻布で鉄筋を束ねた物をくるんだつつみを砲口に入れる。臼砲は、ほぼ水平に置かれた。

 臼砲の先十間(十八メートル)には、五体の藁で編んだ馬の模型が横一線に置かれている。

「発射しますか」

「よし、やれ」片田が言う。


 轟音ごうおんを発して、臼砲が撃たれた。白煙が広がる。

 煙が去ったあと、馬の模型には、多くの鉄筋が刺さっていた。よく見ると藁を固く縛ったあたりに集中している。

 大多数の鉄筋は広く広がり、馬の先の地面に斜めに刺さっていた。おそらく模型を貫通したものも多いのだろう。

「これは、」遠清が絶句した。


「これを、やらねばならぬのか、片田」遠清は明らかに嫌悪していた。

「歩兵には、小石を使います。騎兵の集団突撃があった場合のために準備しておかなければなりません。使いたくはありませんが」


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