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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
221/632

株式会社

 貯蓄銀行であるとか、紙幣であるとか、始めることはそれ程難しいことではない。

 当初は何の法律も規制も無いからである。

 しかし始めて見ると、いずれも何らかの不都合が起きる。現在あるそれらの姿は、歴史的に経験してきた様々な不都合に対して規制を加え、修正してきた結果である。

 株式会社もまた、同様である。




 片田と大橋は、外山とびの村の近くにいちを立てようとしていた。

 外山の村は大和盆地の南東のすみにある。伊勢街道沿いにあるとはいえ、市を立てるのにいい立地ではない。

 しかし、今は片田村に豊富な商品がある。


 干しシイタケは、それ単独で既に市が立っていたが、それ以外にも硫安りゅうあん石鹸せっけん、割りばし、片田村の鉄製品、銅製品などがある。それらを矢木やぎの市に持ち込むのは不便であった。

 片田村の産品だけでも十分市を立てることができるであろう。片田はそう考えていた。


 場所は、慈観寺じかんじ西側の大和川と三輪道みわみちに挟まれた細長い土地である。長さは二百間(約三百六十メートル)程ある。

 大和盆地を行き来する魚簗舟やなぶねという小さな舟は慈観寺までさかのぼれる。それより上流の大和川は傾斜が大きくて舟が入れない。


 店舗は間口二間(三.六メートル)奥行き四間の広さを持ち、その奥にさらに四間の小さな蔵を置く。北の三輪道側に店舗の見世棚みせだなを置き、南の大和川に面した側に商品を陸揚りくあげするための泊りと搬入のための勝手口を設ける。

 土倉の二階部分には仮泊用の簡単な寝棚を設け、店と店の間は土壁にして屋根には『うだつ』をあげ防火対策とする。


 川沿いに。三輪道の方に面して百軒の店舗を並べることが出来る。三輪道をすこし南に広げ、見世棚の前に広場を設ける。大和川は南側に二か所に船溜まりを設ける。


 百軒並ぶ予定の店の中央十店舗は料理を提供する店として、その前の広場には座って食べられる食卓と椅子を置く。


 また、市は常設とし、毎日取引がなされる。雨天の場合もあるだろうから、各店舗の軒先は一間半(二.七メートル)程延ばし、雨を避けられるようにする。

つまりアーケードを作ると言っている。


 最後に、この市ではを置かない。誰が何を売るのも自由である。



 この構想を、片田が全額出資して行うことも出来たが、株式会社として実施してみようと考えた。株式会社というものを、この時代の人々に知ってもらいたかった。


 片田と大橋がこれらの構想を目論見書もくろみしょとして文書化した。


 慈観寺に片田村、外山村の村人を集めて、株式会社設立の説明会を行った。


「この市を開設する資金を募集する。募集の単位は一株五十貫だ。株主は市の店舗を一つ持つことができる」

 片田村や外山とびの村には、五十貫もの銭を出資できる程に富を蓄えた者が増えていた。


 この当時、隣接する矢木やぎの市に幅一間の屋台を一年間出す費用は百文であった。それに比べれば、はるかに高額である。しかし蔵付きの店舗を新規に建設すれば、二百貫以上の費用が掛かるであろう。矢木市の蔵付きの常設米屋なんかがこれにあたる。

 片田の構想では、長屋にすることにして建設費を抑えている。


 また、大和盆地の奥にあるという欠点を補うために、市は川沿いに一列に並べ、すべての店舗の裏手に舟を寄せることが出来るようにした。


「店で売る商品が無い者でも、その株とかいうものを買うことができるのか」裕福そうな長者ちょうじゃが尋ねる。『あや』の父親だった。立派になったものだ。

「買うことができる。その場合は商売をしたい者に店舗を貸せばいい」

「商売を止めたいときにはどうするの」石鹸せっけんで儲けた女が尋ねる。

「株は売ることが出来るようにする。株の紙面には五十貫と書いておく。これを額面がくめんというが、取引は額面価格でなくともよい。売る者と買う者の相談で売却価格を決めればよい」

「そうすると、株の値段が上がることもあるのか」

「外山の市が、商人たちにとって魅力のある市になれば取引価格は上がるだろう。反対に魅力のない市になったら価格は額面より下がる」

「そういうことか」


 片田村には、干しシイタケをはじめ、ネジ、鉄製品など他の市では手に入らないものが無数にある。紙も比較にならない程安く売っていた。今でも近畿一円から商人がやってきている。本格的な市が出来れば、さらに商人たちが来るであろう。しかも座を置かないということは、他の市よりも価格が下がるし、売る方ももうけが多い。


「他所の市に負ける気がしないな」村人達が言う。

「と、言うことは今五十貫を出しておけば、先々七十貫、百貫になるかもしれない、ということか」

「株の価格を下げないために、市を盛り上げなければいけないということだな」


 ひと月もしないうちに、百株五千貫が売れた。現代の価格にすれば三億七千万円程である。


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