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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順 外伝
207/627

賃貸(レンタル)

 翌年、彼らは周辺の村で脱穀機や唐箕の実演を行った。春には麦の脱穀を見せた。いずれの村でも関心は高かったが、買うという寄合は少なかった。わずかに、籾摺り機が三台売れただけだった。




「と、いうわけだ」神器製造の組の責任者が片田に説明した。

 楽民銀行は事業の状況を定期的に報告することを義務付けていた。

「どれほどの村で実演されたのですか」

「十市郷三十余りの村はすべて回った」

「実演の時の様子はどうでした」

「それはもう、大好評だった」

「そうでしょうね」


 治水と硫安りゅうあんにより、生産性は向上してきていたが、不作の年が二年続いた。農家にとって、銭はまだ貴重だった。手間を省くことに銭を使うよりも、手間をかけて銭を残したい、と考えるのも無理はない。


 村一つあたりの世帯数はどれほどだろう。片田は考えた。外山とびの村は狭いので世帯数が少ない。三十程だったと思う。十市郷の他の村はどれほどだろうか。平均で五十くらいか。

 仮に一貫を五十世帯で割ると、一世帯二十文か。これならばいけるかな。



「せっかく作ったのに使わないのは、もったいないですね」片田が言う。

「そうなんだが、売れないことには」

「売れないのであれば、貸してみたらどうでしょう」

「貸すって、どういうことだ」

「例えば、脱穀機と唐箕を併せて、一日一貫で村に貸し出したらどうでしょう。貸出が終わったら、機械は持って帰ってくるのです」


「一日一貫か」組のかしらの男が言う。後ろにいた別の男が頭に言う。


「どうせ、今年は売れなかったんだから、それでもいいじゃないか」

 頭が考え込む。

「いや、そうじゃない。村が一時的に借りるだけで一貫を払う気になるだろうか」


「なるほど」組の男たちが言う。


「ではこうしてみたらどうでしょう」片田が言いはじめる。

「どの村でも、今年の収穫を全てもみにするには機械を使っても、二日か三日かかるでしょう」


 それはそうだろう、男たちが答える。


「ならば、最初の一日は無料にしてみたらどうでしょう。もし続けて使うのであれば、二日目以降について一貫で貸し出すのでは」


「タダで貸すのか、もし一日で全部脱穀してしまったら」組の男たちが嘆く。


「いや、違うぞ」組の頭が言う。

「いいか、一度便利な道具を使うと元には戻れない。そうか、それであれば、来年は売れるかもしれない。そうでなくとも来年は初日から貸してほしいという村が出てくるだろう」

 現代の携帯電話会社や、ネットのプロバイダーのようなことを言う。


「十市郷だけでも、一村一貫ずつ賃貸料がとれれば、三十数貫だ、楽民らくみんに金を返せて、十貫以上余る。それでまた機械を作れば来年は十市郷以外にも持っていける」




 この方法は当たった。十市郷の村は二日目以降に銭を払って機械を借りた。十市郷の脱穀が終わった後、組の男達は十市郷の周囲の村を回った。

彼らは残っていた稲の脱穀を、すべて無料で手伝った。


「来年、また収穫の時が来たら声をかけてくれ、一日一貫で貸し出す」


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