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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
198/630

PBYカタリナ飛行艇

 初めに感じたのは、背中の痛みだった。なにかごろごろした物の上に横たわっているらしい。次に感じたのは濃密な温度と湿度だった。水音もする。

 目を開けてみる。

 ジャングルの河原にいた。

 “ああ、狙撃兵に撃たれたところだな”ずいぶんと昔の事を思い出す。


 立てるだろうか。左ひじを立て、上半身を起こしてみる。大丈夫だ。足を撃たれたはずだったが、痛みもない。

 立ち上がってみる。どこも不都合はなかった。


「さて、どうしたもんか」


 下流に向かって歩くしかなかった。しばらく歩くと、右の茂みに小道のようなものがあったので、そこを上ると車のわだちがある砂利道に出た。やはり下流と思われる方にむかって、砂利道を進む。

 二時間程も歩いただろうか、畑と人家が見えてくる。くわを持った男が片田の方を見た。男は恐る恐る、来た道を戻って集落の方に向かった。


 集落から複数の男たちが鍬やシャベルを持って出てくる。

「ヤパーナ?」「ジャパニーズ?」ドイツ語と英語が混ざったような言葉で問いかけてきた。


 片田は両手を挙げて、抵抗しない事を示し。

「イェス」「ヤー、ヤー」片田もチャンポン語で返した。


「ポリツェスト」「ポリス」

やれ、警察官を呼んでくれるらしい。リンチには合わなくて済みそうだ。『とび』の村を初めて訪れた時を思い出す。

 村人が、誰かの家に連れて行ってくれて、軒先のテーブルにバナナとコーヒーのようなものを出してくれた。

 しばらくすると、軍用車両に乗った白人兵が3人やってきた。

 片田が士官学校時代に習った英語で、氏名、生年月日、本籍、所属などを話す。

「リアリィ」「アメイジン」などと白人達が言う。彼らはオーストラリア兵だという。この時期、パプアニューギニアはオーストラリアの委任統治領だった。

「なにがアメイジングなのだ」片田が言った。

「だって、二十四年間も、ジャングルに潜伏していたのだろう」兵が言う。

 片田が目を丸くした。


“いや、話を合わせて置こう。真実を説明すればやっかいになるばかりだ”片田は英語が得意じゃないふりをして、適当に話をした。


 軍用車両に載せられて、ラエの町に連れていかれた。軍施設内の士官用個室のようなところに滞在することになる。

 ニューギニアからオーストラリア本国へ、そこから日本の外務省、厚生省の社会・援護局に連絡が行った。


 確かに、そのような所属名前の兵が旧日本軍におり、ラエ北方で転進中に戦死したと記録に残っていることが分かった。長野県の本籍の方でも実在が確認された。


「苦節二十四年、ニューギニアに旧日本軍将校生存者見つかる」翌日の新聞に、そんな見出しがおどった。


 片田の身分が明らかになったため、オーストラリア政府は、彼を日本本国に移送することにした。

 ラエには空港がない。そこでオーストラリア政府はポートモレスビーに配備されていたコンソリデーテッド社のPBYカタリナ飛行艇をラエに向かわせた。


 出国手続きを終えた片田がカタリナに乗り込む。カタリナの特徴的な丸く膨らんだ後部銃座に導かれ、そこに座らされる。

 カタリナが離水し、大きく湾を左旋回しながら上昇する。

 高度が上昇するにつれ、片田の座る左銃座から、サラワケット山系が大きく見えてくる。

“あの高山を越えて、どれほどの戦友が北岸のキアリに到着できたのだろう”


 カタリナはサラワケット山系を越えるのではなく、東側を迂回する針路を採った。十分な高度に達した後、自動操縦に移行したらしい。機長と思われる男が片田のところにやってきた。

 彼はタバコを差し出し、吸うか、と尋ねる。

 片田がタバコはやらない、と答えると、それだったら機首の方に来い、と誘う。

 コックピットでタバコを吸っていた副操縦士を、下の機首銃座に下がらせ、片田を副操縦士席に座らせた。

「どうだ、面白いだろう」景色や、コックピットの機械を見せながら機長が言った。

 乗合バスのステアリングをひしゃげたような、特徴的な操舵輪そうだりん(操縦桿のこと)を持つ飛行機だった。

 一つ一つの計器やスイッチを指さし、これはなんだ、と尋ねると丁寧に教えてくれる。

「この飛行機で、お前をフィリピンのマニラに送る。途中、パラオで燃料補給するがな。マニラでは、日本の旅客機が待っているはずだ。それで日本に帰れる」

「なんで、そんなに手厚くしてくれるんだ」

「そりゃあ、お前が勇者だからだ。ジャングルで二十四年間も持ちこたえたんだからな、決まっているだろう。俺だって片田、お前を自分の飛行機に載せることを誇りに思っている」


“ちょっと、違うのだが、まあいいか”片田が思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] >海外に雄飛していく、そんなお話です。 あらすじ紹介にあったこの文言は、ニューギニアでPBYカタリナ飛行艇に乗ることだったのか。お見事。
[一言] この帰還?した世界。 普通に元の世界なのでしょうか。 片田が変化させた日本の歴史が影響を与えた世界なのか気になるところ。 そして単に帰還してあの後を知り終わりなのか次への踊り場なのか。 …
[一言] …よっこいしょういちさん。 ですかね? それとも、小野田ひろおさんの方でしょうか? いずれにしましても、片田さんの性格上、大きく変わってしまった日本に馴染めるのでしょうか、、、心配です。 …
感想一覧
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