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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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楠葉元次(くすば もとつぐ)

 応仁元年(一四六七年)九月一日、西軍の兵が南側から法身院ほっしんいんを攻撃した。法身院の守将は武田元網もとつなである。一条通の南には、北側から正親町おおぎまち通り、土御門つちみかど通り、鷹司たかつかさ通り、近衛このえ通りが東西に走っているが、いずれも東軍により堀が掘られ、土手が盛られていた。

 西軍兵は数に物を言わせて、これらの防衛線を突破する。昼になる頃には法身院に迫っていた。


 肉薄する西軍の左手で砲声がする。西軍兵の頭上から卵大の石が幾つも降り注ぐ。

 西軍はたまらずに左翼の兵を東に移動させた。


「これが片田砲というものか」足利義政が言う。めずらしく『花の御所』から外出し、足利義視よしみ邸であった今出川いまでがわ邸に来ている。

 筒井順永じゅんえいが大和川で奪った砲と火薬が細川勝元のところに運ばれていた。

 勝元は、それを南側に突出している今出川邸に持ち込み、南から攻めかかる西軍の左翼に打ち込んだのであった。

「西軍の左翼が崩れました。東側に移動しています」井楼せいろうと呼ばれている物見櫓ものみやぐらの上から監視兵が叫んだ。

「音もすごいが、威力もなかなかのもんじゃな」義政が言う。

そうの時代から、砲は知られておりましたが、火薬が手に入りません。片田は火薬を作る方法を考え出したのでしょう。和泉いずみ国ではふんだんに火薬を使っていたそうです」細川勝元が口惜くやしそうに言う。この火薬のおかげで和泉国一国を奪われたのだ。

「火薬はどれほどあるのじゃ」

「六十斗程ありますので、数日間は使えるでしょう」

「それだけか。片田村をれなかったのは、痛かったの」

「そうですな」


「よし、片田砲の威力はわかった。わしは御所に帰るぞ」義政はそう言ってきびすを返す。付き従う御供衆おともしゅうの一人に言った。

関白かんぱくに、御所来るように言え」

 関白とは一条兼良かねよし、すなわち大乗院だいじょういん門跡もんぜき尋尊じんそんの実の父親である。この年の五月に関白に再任されている。一条邸と桃花坊とうかぼう文庫は今出川邸の東隣である。九月中には乱に巻き込まれて焼けてしまうのであるが、この日にはまだ残っている。




 風変わりな男が堺の片田商店の仮店舗に現れた。楠葉くすば西忍さいにんの息子、楠葉元次もとつぐである。

「西忍さんはお元気でしょうか」片田が言う。

「はい、数えで七十三になりますが、いたって元気なものです」元次が答える。

「元次さんは、遣明船けんみんせんで御父上とともにみんに渡られたのですよね」

「はい、おもしろい旅でした。特に眼鏡めがねと干しシイタケが飛ぶように売れるさまは、十四年経った今でも忘れません。しまいの方では、明人のつかみ合いの喧嘩が起きるほどでした。優れた商品というものは恐るべきものだと思いました」

「そのお話は、私もうかがっています」そういって片田が引き出しから古い帳簿ちょうぼを取り出す。

「これが、その時御父上が記録した取引控えです」そういって元次に見せた。

「ひさしぶりに見ました。すごい金額ですよね。あの時の興奮が思い出されます」


「で、今日はどんな御用でいらしたのでしょう。元次様をお送りになるということは、重要なことなのでしょう」

「はい、他言をはばかるような話題なので、父が私を派遣することになりました」

「どういうことでしょう」


「実は、将軍様が片田様とよしみを通じたいとお考えだそうです」

「将軍様が、ですか」

「はい、そこで関白の一条様から、その御子おこである尋尊じんそん様、父、と人づてを辿たどって片田様の意向を尋ねたいとお考えになったようです」

「将軍様は、なぜ私と」

「将軍様は、和平を望んでおられています。京都みやこの半分が焼けてしまいました。それなのに山名と細川は戦を止めようとしません。今将軍様が両者に和平を結ぶよう取りはからっている最中ですが、うまくいくとは思えないそうです」

「和平にあたって、私に何を望むのでしょう」

「片田軍に、両軍の間を割ってほしい、と望んでおられるようです。将軍御所と、将軍、内裏(天皇)、仙洞(上皇)をどちらかの軍が守っているといくさが止まない。中立の軍に御所を守護してもらえれば、戦が止むと思っておられるようです」

「私は西軍側について戦っているのですが」

「はい、それはご存じのようですが、なにぶんにも、片田様の戦場は京都みやこから離れた所ですし、片田様は最近頭角とうかくあらわされた方ですのでしがらみがないとお思いです。西軍におるままでよい、とおっしゃているそうです」

「京都の和平を望むということと、誼を通じる、まではよろしいのですが、西軍におるままでよいから上洛せよ、といわれても、すぐに承服することはできませんね。私は守護でもありませんし」

「では、そのようにお答えすることにいたしましょう」

「はい、そのようにお願いします。お近づきのしるしといたしまして、銀五百貫を将軍様に献上いたしましょう。別途興福寺に送りますので、将軍様までお届けください」


 楠葉元次が帰っていく。

 思わぬ関係が向こうからやってきた。これをどのように扱えばよいのか、片田は考えあぐねていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ある意味、後の将軍家がよく使った。というか初代尊氏からの手に負えなくなった大名が出た時の常套手段ですね。 その力がないといっても危険な火遊びを将軍が燃え上がらせておいてその消火に困って新た…
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