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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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陸戦隊(りくせんたい)

 五幡いつはたの海岸に第一艦隊の五番艦、『木曽きそ』がいかりを降ろしていた。堺から四隻の商船を護衛してきた。

 商船には補充の兵と食料、銃弾や砲弾などが積まれており、白木の集積所で荷下ろしを始めている。

 荷下ろしの間に護衛の『木曽』が堺からの連絡として、五幡に到着した。

 安宅丸あたかまるが連絡艇を『木曽』に寄せる。

 迎えた『木曽』艦長は金口かなぐちの三郎だった。金口は堺の近くで、河内国に接しているところにあるあざだった。南海電鉄南海高野線中百舌鳥なかもず駅から西に百五十メートル程行ったところにある金口公園に、その名前を残している。

 金口の三郎は、安宅丸の船学校の卒業生で、学生の頃からしっかりしていた。


「そうか、片田村が伊勢の北畠に攻撃されたのか」

「はい、校長」

「被害が出たのか」

石英丸せきえいまる村長代理が倉橋の溜池を決壊させたそうです」

「あれをやったのか。それでは村は大変なことになっているだろう」

“溜池を決壊させたということは、そうとう村が追い詰められたということだ”安宅丸は思った。

「はい、しかし一カ月程で銃弾、砲弾の生産は再開できるとのことでした」

「一カ月か」

 と、いうことは『じょん』の計画通りに決壊した、ということだ。『じょん』から、この万一の時の計画を聞いたとき、石英丸をはじめ、皆がおびえた。村が丸ごと壊滅しまうのではないか、と。

 しかし、一カ月で生産が開始できるということであれば、低地にある居住区と古い建物だけが流されたということなのだろう。

「持ってきてくれた物資があれば、一カ月は持ちこたえられるだろう。わかった」




 一カ月持つ、と安宅丸は言ったが、最近の東軍の攻撃は熾烈しれつであった。五幡海岸、ウツロギ峠、北陸道の片田関を結ぶ線の両側いたる所から攻撃を仕掛けて来ていた。

 次の補給が一カ月以上になるとすると、銃弾と迫撃砲弾を節約しなければならない。


 安宅丸は増員された兵を使って、まず北側の対処をすることにした。現在ウツロギ峠から木ノ芽川に設けた片田関までの東側は、いつ東軍の兵が間にある丘を突破してくるかわからない危険な状態だった。この十五町(約一.五キロメートル)の戦線を維持するには兵数も銃弾も多く必要となる。

 

 そこで、この戦線を東に移動し、葉原はばらを占領して、東軍を木ノ芽川上流の新保しんぼまで追いやる。そこまで敵を移動させれば戦線は木ノ芽川が山間を下ってくる幅三十間(約五十メートル)まで縮小出来て、少人数で守れる。

 翌日、これを実行した。増員された兵を使って、ウツロギ峠から東に向かい、葉原で戦闘になった。結果、富樫とがし政親まさちかの兵が、安宅丸の想定した線まで後退し、この口を守るには百名もいらない。


 次は、南側である。これは砲艦を使って敵軍を逆包囲することにした。安宅丸第三艦隊の封鎖で東軍は兵や物資の海上輸送をあきらめている。そこで二番艦『名取なとり』のみを海上封鎖に残し、三番艦『由良ゆら』を赤崎、田結たいの海岸沖に、四番艦『鬼怒きぬ』を金ケ崎かながさき城沖に配置した。


「赤崎の沢を登った兵は、半分も無事に帰ってくることが出来ないそうだ」金ケ崎城から赤崎に向かう武田国信くにのぶの兵が言った。

「俺も聞いたことがある。槍や刀傷ではない、なんともむごいやられ方をするらしい」

 兵達の意気があがらない。

「お、あれはなんだ」兵の一人が海の方を指す。

「見たことの無い船じゃの」

「変な形の帆だな」

 国信の兵がざわめいた。

「前に進め」隊を統率する将が叫ぶ。

 兵達は海沿いの道を右に曲がり、赤崎の沢の方に向かって行く。


 海上の砲艦が国信の兵に腹を見せ、その胴体から白い煙を吐いた。

 兵の周りで幾つもの爆発が起きる。兵達が四方に逃げ去った。砲艦から連絡艇が降ろされる。艇が砂浜に着き、五十名程の陸戦隊りくせんたいが上陸する。


 この陸戦隊は小山七郎さんに直接鍛えられた精兵だった。

 陸戦隊は赤崎の集落で一番高い所にある寺を目指した。そこが補給処であることは連絡艇を使って内偵ないてい済みだった。彼らの行く前を艦砲の弾幕が覆う。寺の境内けいだいにも幾つか着弾した。

 寺を守る東軍の兵が、寺を囲む土塀どべいの上から矢を放つひまを与えずに、陸戦隊が土塀に取り付いた。土塀の高さは一間半(二.七メートル)程であり、寺の門は閉まっている。

 陸戦隊員が軽迫撃砲の砲弾を取り出し、弾頭の安全装置を外して塀の中に投げ込む。塀の向こう側で着発信管が発火し、砲弾が幾つも炸裂さくれつした。

 塀越しに悲鳴が聞こえる。


 十人隊長の一人が寺の門の前で、迫撃砲を門に向け、駐板ちゅうばんを足で押さえつける。砲はほぼ水平である。その砲口に軽迫弾を置く。弾は砲口に留まったままで落ちて行かない。そのため撃針の効果がない。

 隊長が別の兵に合図する。その兵が細い木の棒で砲弾を叩いた。棒は砲口に当たって折れる。砲弾は撃針に向かって勢いよく砲身内を移動し、撃針が信管を叩く。砲弾がほぼ水平に発射されて寺の門を破壊した。危険な方法である。一つ間違えば砲口で爆発したであろう。

 さらに門の左右に、幾つかの迫撃砲弾を投げ入れた後、一人の陸戦隊員が境内に突入し、入り口脇に移動する。門の正面には立たない。敵のねらい目であるからだ。

「よし」中に入った兵の声がする。

 次の兵が門の中に入り、先ほどの兵とは反対側の脇に張り付いた。

「こちらも、よし」二番手の兵が言う。内部は安全だ。

 残りの陸戦隊員が門を抜けて境内に入っていった。


 幾つかの銃声が鳴った後、寺が陸戦隊に制圧された。彼らは庫裏くりに回り、そこに兵糧や槍、矢などが蓄えられているのを発見した。

 兵糧や兵器に火を放つ。十分に火が回ったことを確認し、陸戦隊は砲艦目指して撤退していった。


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[一言] なんという精兵 ((((;゜Д゜)))))))
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