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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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狛峠(こまとうげ)

 石英丸せきえいまるが、百頭の馬、銃弾を乗せた荷車とともに、浅古口に出た。

 右手に十市とおち遠清とおきよの兵が布陣している。


 遠くに犬丸の騎馬隊が見えた。矢木やぎの市に向かう道から南に折れてくる。

 常足なみあしのようだった。

 石英丸が両手を上げて、犬丸を呼ぶ。気が付いたようだ。

 馬を走らせようとするが、思うように速度が上がらない。

「馬が疲れているな、そうとう飛ばしてきたのだろう」


 犬丸達が石英丸に近づき、馬から降りる。

「『青葉』、よく走ったな」そういって、馬の首筋を撫でる。初秋なのに、馬の体から水蒸気があがっているのではないか、と思うほど白い汗が浮かんでいた。

「よく来てくれた」石英丸が言う。

「うん。なにをすればいい」

 石英丸は、五千の伊勢兵が来ているらしいこと、そのうちの千が『とび』の村に塹壕ざんごうを掘って布陣していること。残りの四千は、重迫撃砲の砲撃をけて長谷寺はせでら方面に移動したことなどを説明した。

「四千の兵がどこにいるのか。再度『とび』の村に進むのか、こま峠を越えて粟原おおはらに来るのか、斥候を出して調べて欲しい。数騎を金屋から三輪道を通って、長谷寺の方に向かわせられないか」長谷寺方面に行くには、その道を通るしかなかった。今片田村に居る兵の乗馬練度では、突破することができそうもない。

「『とび』の村の北側は、大和川に三輪山が迫っている。金屋のあたりは村から弓で射かけられたら逃げ場が無いな」

「通過するとき、知らせてくれれば片田村から軽迫撃砲と銃で援護する」

「それなら、行けるだろう。俺達も西側から援護することにしよう」

 犬丸達は、銃弾を分け、馬を代えて北に向かった。




 犬丸が放った斥候は、南の片田村、西の犬丸の騎兵などの援護の中、北畠軍の目の前で三輪道を駆け抜けた。慈観寺には寄らず、東に向かう。

 大和川沿いに上流に向かい、脇本、黒崎を通過するが、北畠軍はいなかった。こま川の合流点に野営の跡がある。今朝の朝食の跡だろう。

 このあたりは、考古学的に実在が確認されている(出土品などで確認出来る)最初の天皇、第二十一代雄略ゆうりゃく天皇が建設した宮殿、泊瀬朝倉宮はつせのあさくらのみやがあったとされる地である。


北畠軍の足跡は、大和川を渡り、狛川沿いをさかのぼっていた。

このあたりの大和川は川幅が狭い。斥候達は騎馬のまま、川を渡る。

彼らは、田畑がきるところまで行ってみた。北畠の兵の足跡は、峠に向かう山の中に消えていた。通行量の少ない山道に、たくさんの新しい足跡があった。

「北畠の兵が、峠を越えようとしていることは間違いなさそうだ」斥候の一人が言う。


 戻るときにも、斥候達は、片田村の支援を受けた。彼らの報告を受けた犬丸は石英丸達が待つ片田村の役場に向かう。


「北畠軍がこま峠を越えて粟原に出るのは、間違いないようだ。兵の足跡が狛の村を越えて山中に入ったことを、斥候達が確認した」犬丸が役場にいた石英丸達に報告する。

「やはり粟原に来るのか」鍛冶丸が言う。

「正面を粟原口に変えなければいけませんな」小笠原信正のぶまさがそう言った。

忍阪おつさか山と鳥見山の重迫撃砲からは粟原の上流付近が見えない」

「ああ、そうだな」

「臨時の観測所と通信手段を考えなければいけないんじゃない」『いと』が言う。

「『下り尾さがりお』に観測所を置こう」茸丸たけまるが言った。下り尾とは彼らの南の防衛線のあたりの地名だった。

「通信手段は、そうだな、すぐに思いつくのは火箭だな。忍阪と鳥見で色を変えよう。例えば、忍阪の迫撃砲陣地に対しては、緑と青。緑は、もっと手前、青は向こう側だ。左右は火箭の傾きで伝えることにしよう。右ならば右に傾けて発射する」茸丸が続けた。

「火箭ならば、上に打ち上げるので、忍阪山からでも見えるね」『ふう』がうなずく。

「鳥見の方は、黄色と紫色を使うか」紫色はカリウムを混ぜている。


挿絵(By みてみん)


「あと、今の防衛線の内側に、もうひとつ防衛線をつくったらどうだろう」鍛冶丸が言う。

「いまから土嚢どのうを積む時間はないぞ、どうやって防衛線を作る」石英丸が尋ねる。

「今の防衛線のこちら側は、北が低く、南側が高くなっている。突破してきた敵兵は低地を通るだろうから、南側の高地に銃隊を並べて置けばいいだろう」鍛冶丸の第二防衛線も承認された。


「犬丸、君の騎兵隊なのだが」石英丸が犬丸に向かって言った。

「わかっている。前線に出るのだろう」犬丸が答える。

「そうしてくれると、ありがたい」

 粟原川の源流から、彼らの防衛線までは、細く長い放牧地となっていた。犬丸の百騎はその深い所まで前進し、敵の弓の射程外から敵兵を狙撃しながら撤退するという役割を果たすことになった。味方の重迫撃砲に誤射される可能性がある危険な役割だった。


「最後に、『ふう』」そういって石英丸が『ふう』の方を向き、『ふう』の役割を伝えた。


「え、あれをやるのか」話を聞いて『ふう』がうろたえた。


「ああ、敵が攻めてくるとき、私は鍛冶丸の防衛線にいることにする。鍛冶丸の防衛線が突破されたら、私が赤と黄色の火箭を上げる。それを見たらやってほしい。北畠軍に村を占領させるわけにはいかないんだ」


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