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戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
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補給線の攻防

 大和川は、『とび』の村の所で大和盆地に出る。そこから北西へ、あるいは北へと流れ、盆地の中央部で、北から来る佐保川さほがわと合流する。

 合流するのは、現在の大和郡山市やまとこおりやましと、安堵町あんどちょう川西町かわにしちょうが接するあたりである。

 大和川は、ここから流れを西に変える。そして他の大和盆地を南北に流れる川、寺川、飛鳥川、富雄川とみおがわ、龍田川などをあわせ、亀の瀬の急流を下って大阪平野に出る。

 幾つもの川が併さるあたりは、港が出来て栄えた。

 大和盆地からは、米が下り、大阪平野からは塩や干魚ひざかな、肥料などが上ってきた。

 大和川と佐保川が併さるあたりにも、北岸に板屋ヶ瀬浜という港が、かつてあった。


 午後の遅くに『とび』の村を出発した片田の輸送船隊が、この日は板屋ヶ関浜で泊まることになった。

 船隊の魚簗舟は長さ八間半(約十五メートル)、幅五尺(一.五メートル)程であった。十隻の魚簗舟には、砲を一基ずつ載せており、二隻には火薬の一斗樽を三十ずつ載せていた。あわせて十二隻である。

 砲一基の重さは二百貫(七百五十キログラム)ほどあった。


 この時期、隣の山城やましろ国とは異なり、大和国は平穏であった。

 多くの京都の貴族達が、戦火を避けて大和国に逃れてきていた。


 輸送船隊の前後には篝火かがりびが焚かれ、六名程の歩哨ほしょうが立っていた。

 突然、篝火が蹴り倒され、闇の中から槍の刃が延びてきた。歩哨の叫び声をあげて倒れる。眠っていた兵、船方ふなかた達が起きる。

「夜盗か」

 違っていた。

多数の兵が彼らを包囲していた。寝込みを襲われた者達は、大和川に飛び込んで対岸に逃げるしかなかった。川幅は二十間(三十六メートル)程で、深い所でも腰程の深さしかない。


 岸に上がった彼らが、対岸を見る。矢は飛んでこなかった。松明たいまつかれ、船のもやい綱が解かれる。恐らく馬にかれているのであろう、船が上流に向かって行った。

 彼らの船は、大和川と佐保川の合流点で、佐保川に入り、去っていった。




「大和の国内で、そのようなことがあったのか」十市とおち遠清とおきよが言った。

「はい」石英丸せきえいまるが答える。

「佐保川を上っていった、ということになると、筒井かもしれんな」

「そうかもしれません」

「で、何を盗まれた」

「砲十門と、火薬樽六十です」

「火薬樽を盗まれたか。京都みやこは戦の最中だ、どこかでその火薬と大砲が出てくるかもしれんな」


「で、わしに何を望むのか」遠清が尋ねた。

「大和川を下る船の護衛をお願いしたいのです」石英丸が言った。

「よかろう、護衛しよう。片田が村を作ってから十数年経つ。そち達は、わしが守護することを条件に毎年年貢を納めてきたが、これといってすることが無く過ぎてきた。やっと仕事が出来るというわけだ」

「ありがとうございます」

「ただし、一つ条件がある。十市より先、亀の瀬までの間は日中に、すみやか通過することにせよ。特に筒井や箸尾はしおなど、東軍にくみする者達の領地と接するあたりでは、停泊してはならぬ」

「承知いたしました」


 十市の兵に銃が貸与された。十市兵は片田村で銃の訓練を受け、銃声に慣れた馬に乗り、片田村の輸送船隊の護衛につくことになった。

 遠清に銃を貸与することについては、片田の了承を得ていた。


 板屋ヶ瀬浜より、すこし下流にいったあたり。富雄川が大和川と合流するところに、御幸ヶ瀬浜という港があった。現在の御幸橋付近である。

 今回は、そのあたりで日中、筒井兵が旗印を立てて襲ってきた。筒井方であることを隠すつもりはないらしい。

 日中で、しかも護衛は銃を装備していた。筒井兵は、歯が立たず、逃走していった。


 安宅丸と片田の艦隊が東軍の補給路を絶ったように、東軍も片田の補給路を断つ効果を知ったようであった。筒井軍は増強されるであろう。




「なに、大和で片田の輸送隊が筒井に襲われただと」畠山義就よしひろが言った。

「はい、それで十市が輸送隊を護衛しているそうです」越智家栄いえひでが答える。

「それは、おもしろいな。わざわざ、わしに言うということは、そなた、片田の救援に行きたいのであろう」義就が尋ねる。

「おおせのとおりです」

「よかろう。筒井と箸尾を大和から追い出してしまえ」




 同じころ、大和長谷寺では、北畠教具のりともが片田村攻撃の命令を受け、動き出そうとしていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 奪われた大砲十門と火薬は大きいですね。 今後の戦いでつたないながらも参戦してくる可能性が高くなる。 それにしても一度の襲撃で前話までの重砲基準でいうと一隻の規模が海船並みの大きさなのか船団…
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