表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦国の片田順  作者: 弥一
戦国の片田順
156/633

たまがき

 祐清ゆうせいを殺害した豊岡と弥三郎は、若松荘の百姓によって、捕らえられた。

 祐清は、若松荘の荘民ではなかったが、荘が飢饉から復興するのに貢献した。

 そこで祐清を荘民に準ずることとし、惣掟そうおきてによって、裁かれ断罪となることが決まった。


 祐清の葬儀も、その後の法事も済んだ。

『たまがき』が祐清の遺品を下げ渡して欲しい、と望んだ。祐清の物は仁和寺に属する。

「望むのなら、仁和寺に書を送ってみたらどうだ。『たまがき』は文字が書けるのだから、自分で書いてみるがよい」代官所の現地代官が『たまがき』に言った。

五年前、『たまがき』を祐清に預けた男だった。


『たまがき』は手紙など書いたことはない。ましてや荘園主に対する嘆願書など、どのように書いたらいいのか見当もつかなかった。

 現地代官が、このようにしたらよい、という手本を作ってくれたので、それを見ながら自分の思いのたけをつづることにした。

 

わたくしのようなものが、このように申し上げるのもおそれ多いのですが、あのことに立ち会った者として、一筆申し上げなければなりません。

さてさて、祐清様が命をお落としになられたこと、まことにいたわしく、どのように言葉にすればよいのか、途方に暮れます。

祐清様の遭難の折、私は代官所におりました。また、没後の事も行いましたので、その次第について申し上げます】


【祐清様の遺品につきましては、ご存じのとおり目録もくろくを作り遺品ともども現地代官様に提出いたしますので、そちらに知らせが行くと思います。

目録にあるとおり、一部は処分し、また一部は葬儀や後の法要で世話になったお坊様に差し上げ、また墓を建てることなどにも使いました。委細いさいは目録をご覧ください】


”このようなことを、書くために文字を覚えたのであろうか”『たまがき』の目に、また涙があふれた。


【私は、この五年間、祐清様に馴染なじみ、育ててもらいました。ですので、少しの物でも、形見として私のそばに置きたいと思っております。いただけますなら、どんなにか、うれしいことでしょう。

この旨は、現地の代官様にも、再三申し上げております。

代官様達もご存じですが、祐清様の遺品はほとんど処分いたしました。けれども目録の末尾にありますように、わずかに残った物もございます。目録に書きました通り、私にたまわりますなら、どんなにかうれしいことでしょう。


いと畏れ多くも                            たまがき


 仁和寺 公文所殿へ 謹んで申し上げます】


【祐清さまの遺品の目録


一 銭 一貫文 葬儀のときに色々使いました。

一 青小袖 一枚 僧侶に差し上げました

一 抜き手綿 二枚 同右

一 帷子かたびら 一枚 同右

一 畳のおもて 五枚 売りまして、これも法要に使いました。


これらの色々のものは、右に書きましたように処分いたしました】


【また、次はお願い事として申し上げます。祐清様の形見として残っているしな


一 白い小袖 一枚

一 つむぎの表 一枚

一 布子 一枚


 これら三つの品について、祐清様の形見として、私にいただけませんでしょうか。

 いただけますならば、どんなにか、うれしいことでしょう】



『たまがき』の願いが、かなったのか、かなわなかったのか、それは知られていない。


祐清、『たまがき』は歴史上に実在した人物です。

京都の東寺に伝わった、東寺百合ひゃくごう文書の中に現れます。

史実では、舞台は備中びっちゅう新見にいみ荘、祐清は東寺の代官でした。

興味のある方は、Wikipediaで【たまがき】と検索してみてください。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 面白いのに一話が短すぎ、次読む気がしない。
[一言] 泣けた。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ